隙間に挟まった子猫→15時間以上、鳴き続ける姿に近隣住民が団結、ブロック塀を壊した大救出劇
「子猫が塀と塀の間に挟まっている」
ある日のお昼前、筆者に電話が入りました。行ってみると、小さな小さな茶トラの子猫が、一軒家のブロック塀とマンションのブロック塀の間で鳴いていました。なぜそこに?と言いたくなるような、数センチしかない場所でした。
第一発見者は隣家の方。朝6時前から鳴き声がしていたそうです。姿は見えるけれど手が届かなかったため、警察、市役所、動物管理センターへ連絡。センター職員が来てくれ長い棒を使って救出を試みますが、ビクともしないほどぎゅうぎゅうに挟まっていました。
筆者は猫のTNR活動や譲渡会運営、啓発活動などを行っている動物愛護団体「つかねこ」代表に相談しました。猫に詳しく、レスキュー経験も豊富だからです。「油を垂らすと滑りがよくなって救出できることがある」。そうアドバイスをもらいすぐにサラダ油を用意しましたが、子猫は動きません。
どれくらい時間がたったでしょうか。センター職員が一度その場を離れ、残されたのは筆者と近隣住民2名。せめて何か食べさせてあげたいと棒の先に魅惑の“ちゅ~る”を付けて口元へ運びましたが、全く反応がありません。体力の限界が近づいたのか、さっきまで鳴いていたのに声が出なくなり、目も閉じたまま…正直、死んでしまったのかと思いました。
■消防出動も救出困難
それでもあきらめるわけにいきません。次に頼ったのは「消防」でした。この時点では飼い猫か野良猫か分からなかったので、消防法第一条にある「国民の生命、身体及び財産を守る」の“財産”にあたると判断してくれたのでしょう、すぐに3名の消防士が駆けつけてくれました。そして「生きています! 鳴きました!」とうれしい言葉。思わず手を合わせましたが、しばらくすると、無念そうな表情で…。
「いろいろやってみましたが全く動きません。無理に力を加えると、逆に命を奪ってしまう可能性があります。申し訳ありません」
途方に暮れました。生きているのに助けられない? 目の前の小さな命が「助けて」と言っているのに?
隣家の方が鳴き声に気づいてから、すでに10時間以上。日が落ちれば気温も下がります。救出を急ぐ必要がありました。再度、つかねこ代表に指示を仰ぐと、「低血糖になってくるから、棒の先にガーゼを巻いて、ガムシロップのような甘いものを染み込ませて口元へ。なめる力が残っていなくても、粘膜から吸収するから」とアドバイス。その通りやってみると、かすかですが口元が動き、棒を離すと鳴きました。「まだ生きる力がある! 生きたいと言っている!」そう思いました。
■ブロック塀破壊の決断
20時頃、つかねこ代表が現場に到着。あの手この手で救出を試みてくれましたが、やはり動きません。「ブロック塀に穴を開けるしかない」。代表の言葉は一瞬、無謀とも思えましたが、子猫の命を救うには、もうその選択肢しか残されていませんでした。
「命が助かるならいいですよ」
やさしい家主さんの了承を得て、筆者が旧知の工務店に作業をお願いすると、夜遅くにもかかわらず快諾。大きな音がするため隣のマンション住民の理解も必要と考え、業務時間外の管理会社をダメ元で訪ねると、そのマンションの担当だという男性がたった1人で残業していました。もう奇跡としか言いようがありません。「生きる!」という強い意志を持った子猫が引き寄せたのでしょう。
懐中電灯の明かりの中、響き渡る電動ドリルの音。猫を傷つけないように、塀の手前にある物置の上からつかねこ代表が指示を送り、慎重に作業を進めます。数十分後にようやく穴が開き、手を差し入れた女性が子猫をつかみますが、なかなか引き出せません。「がんばれ!」「もう少し!」レスキューに協力してくれた近隣住民から声援が飛びます。途中から、筆者は「ちゃーちゃん」と呼んで励ましていました。「猫ちゃん」よりも想いが伝わると思ったからです。茶トラのちゃーちゃん。安直なネーミングかもしれませんが、効果はあったと信じています。
しばらくしてちゃーちゃんの体がふわっと宙に浮くと、拍手と大歓声! 涙ぐむ人もいました。ちゃーちゃんは意外なほど力強く鳴いてくれましたが、体は冷たくなっており、使い捨てカイロで温めながら動物病院へ。その時点でできる最善の治療をしてもらい、入院。夜中に電話があるんじゃないかと気が気ではありませんでしたが、翌朝病院へ行くと、一命を取り止めた「ちゃーすけ」が! 前夜、病院で男の子と分かり改名したのです。
その日の夜にはごはんを食べられるまでになり、先生も驚くほどの回復ぶりで翌朝退院したちゃーすけは今、救出活動に携わってくれた方のおうちの子として幸せに暮らしています。
(まいどなニュース特約・岡部 充代)