一度食べたら病みつきに…映画やドラマのロケ現場で圧倒的に支持されるおにぎり弁当 でも「すごく美味しいわけではない」ってどういうこと?

おにぎり2個、おかず1個、そしてたくあん。映画やドラマなどの撮影現場で重宝されている東京都練馬区のお弁当屋さん「ポパイ」のロケ弁は、東京の映画人のほとんどがこれを食べて育ったと言われるほどの“超”定番の朝食である。見るからにシンプルなおにぎり弁当なのに、中には「中毒性がある」「ポパイがないと始まらない」と熱い偏愛を口にする人まで。ポパイがそこまで人を惹きつけるのは何故なのか。ドキュメンタリー映画「映画の朝ごはん」でポパイの知られざる姿に迫った志子田勇(しこた・いさむ)監督に聞いてみた。

■ポパイがないとダメな体に!?

「僕は22歳くらいで上京してからずっと映画の現場で働いてきました。ポパイを初めて食べたのがいつだったかは覚えていないし、そもそもそれがポパイの弁当だと認識して食べてはいなかったのですが、毎日食べ続けるうちにすっかり毒されて、気づいたらポパイがないとダメな体になっていました(笑)。言ってしまえば味は普通なんですよ。ちょっと塩分が強めなくらいで」

多くの映画やテレビ関係者がお世話になっていながら、その実態については誰も知らず、著名な映画監督でさえ「どうせ機械で握ってるんでしょうけど(笑)」と言い放つなど、とかく見くびられがちなポパイ。志子田監督がそんなポパイを撮ろうと思ったのは、コロナ禍で映画の現場が軒並みストップしたのがきっかけだったという。

「“ステイホーム”で時間を持て余しながら、ふと『ロケがなくなったということは、ポパイも注文がなくて困っているのでは』と気づき、居ても立っても居られなくなったんです。『このままポパイが潰れてしまったら…そんな別れ、耐えられない!』という思いに突き動かされて、映画にする当てもないままカメラを回し始めました」

■「人」が手作りするおにぎり弁当

何を隠そう志子田監督も「機械で握っている」と思い込んでいたポパイのおにぎりだが、実際に調理場を訪ねると、年季の入ったスタッフがひとつずつ手で握っていることが判明。親子2代で勤めている従業員がいたり、米は水に一晩漬けてから炊くなどの調理面でのこだわりがあったりと、そこに「人」がいて、毎日静かに人間ドラマが営まれているということに、志子田監督は驚いたという。ポパイに「人」がいるのは、まあ当たり前といえば当たり前の話なのだが…。

早朝に配送するため、多くの人が眠りに就く夜中に動き始めるポパイの調理場。志子田監督はそこで、「見えないところで社会を支える仕事とそれに携わる人」の存在をあらためて強く意識するようになったという。

「映画とポパイ、両方あるからそれぞれが成立するんですよね。ポパイのおかげで僕らも仕事ができている。その“お互い様”の感覚を大事にしながら撮りたいと思いました」

■シンプルなおにぎり弁当が問う「働くとは?」

「映画の朝ごはん」は、個性派揃いのポパイのおばちゃん、おじちゃんたちが手早く弁当を作り届ける姿と、映画の現場で弁当の発注などを担当する制作部の人たちの仕事ぶりを交互に描いていく。「で、ポパイのおにぎりって、何なの?」というところからスタートしたはずの取材が、図らずも次第に「仕事/働くこと」の本質がありありと浮かんでくる展開には、多くの人が胸を熱くするはずだ。

「素直に『自分も頑張ろう』という気持ちになれる…ある意味、労働讃歌ですよね。僕自身、映像を編集しながら、撮らせてくださった人たちに励まされているような感覚を覚えました。おにぎりを手作りするポパイの人たちを見て、僕もこの映画を自分の手でたくさんの人に届けたくなりました。そんな思いで、今は宣伝のためにチラシを配り歩いています」

では、しつこいようですが最後にもう一度。ポパイのおにぎりって他と何が違うんですか?

「その秘密がねえ、僕もちょっとわからないんです。一口食べただけで『うまっ』となるかというと、なりません(笑)。結局、それがポパイの魔力だと表現するしかない。もちろん、競合他社もいるんですよ。でも不思議と『やっぱポパイなんだよな』に落ち着くんです」

何なんだそのおにぎり…頼む、食わせてくれ!!!

◇  ◇  ◇

「映画の朝ごはん」は現在、神戸の元町映画館(2月2日まで)、千葉県柏市のキネマ旬報シアター(2月2日まで)、静岡市の静岡シネ・ギャラリー(2月1日まで)で上映中。その後も全国の劇場で順次上映する。詳しくは公式サイトで。

(まいどなニュース・黒川 裕生)

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