主役は鎮守の森に住み着いた30匹の野良猫…想田和弘監督の新作「五香宮の猫」人との共生問う ベルリン国際映画祭で招待上映へ

 瀬戸内海を望む鎮守の森・五香宮(ごこうぐう、岡山県瀬戸内市牛窓町牛窓)に住み着いた約30匹の野良猫と人々の暮らしぶりを見つめた想田和弘監督(53)=瀬戸内市=の新作映画「五香宮の猫」(119分)が完成した。人と猫との共生を問いかけるドキュメンタリー。15日開幕のベルリン国際映画祭(ドイツ)で、革新的な作品が集まるフォーラム部門の招待作品として上映される。

 社(やしろ)に続く階段には、色鮮やかな花を咲かせた植木鉢が並ぶ。掃き清められた境内を歩くと、餌入れが置いてある手水舎(ちょうずや)裏や日だまりに“主役”たちがくつろいでいた。

 「猫も人も受け入れる神社には不思議な公共性がある。でも人々の協力なしには成り立たない」と想田監督。撮影は不妊・去勢手術のために五香宮で行われた捕獲活動を中心に、台本なしで目の前の出来事にカメラを回す「観察映画」の手法で実施した。猫をかわいがる人がいる一方、ふん尿などの苦情もあり、町内会で対策を話し合う様子など住民同士が折り合いをつけながら猫との共存を模索する姿を追った。

 想田監督は2021年1月、新型コロナウイルス禍を受け山や海に囲まれた生活を求め、ニューヨークから妻で映画プロデューサー柏木規与子さん=岡山市出身=の母の故郷である牛窓へ。移住直後にけがをした野良猫を保護したのをきっかけに「当初は映画を撮るつもりはなく記録映像」として撮り続けた。

 カメラ越しに見えてきたのは五香宮を軸にした地域社会のつながりの深さだ。境内を清掃する年配者、日暮れまで遊びに興じる子どもたち…。暮らしの中心に神社があり、いやが応でも猫に無関心ではいられない。想田監督自身、地域に居を構え「全てが自分のコミュニティーで起こる問題になった。今まで以上にその先を考えさせられた」。柏木さんは「私たちが住民として地域に受け入れられていく過程になった」とほぼ1年にわたった撮影を振り返る。

 想田監督は岡山市の精神科診療所が舞台の「精神」(08年)で海外の映画賞を多く受賞し、ベルリンへの出品は5作目。「地元の小さな世界を描いた作品を、世界中から集まった人々がどう見るのか楽しみ」と話す。

 映画「五香宮の猫」は今秋、東京都内や岡山県内での上映を予定している。

(まいどなニュース/山陽新聞)

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