京アニ事件の青葉被告、明るかった少年はいかにして転落していったのか 謎に包まれた半生に迫るドキュメンタリー番組 9日深夜放送
36人が死亡、32人が重軽傷を負った2019年7月の京都アニメーション放火殺人事件。裁判員裁判で死刑判決が言い渡された青葉真司被告の生い立ちに迫るドキュメンタリー番組「生かされた理由~京アニ事件の深層~」が9日(金)深夜1時25分から、カンテレで放送される。ディレクターの宇都宮雄太郎さんは「見たくない人もいるかもしれないが、青葉被告個人の問題として終わらせるのではなく、社会全体の問題として私たちも向き合い続けなければいけないという思いで取材を重ねた」と話す。
青葉被告のルーツは、埼玉県と茨城県。京都支局に勤務する宇都宮さんは、公判の傍聴取材と並行して、若い頃の青葉被告を知る関係者を訪ね、足繁く通ったという。
「リストアップした関係者は、ざっと100人以上。でも『関わりたくない』と断る人が大半で、そもそも彼のことを覚えていないという人もいて、カメラ取材やコメントがOKだった人は10人ほどでした」
小中学校時代の同級生や、定時制高校時代の元教員らの証言からは、青葉被告の明るく活発だった少年時代が、父の暴力や生活苦によって暗転していった様子が浮かび上がる。一方、定時制高校時代は、青葉被告が後に「人生で一番良かった」と述懐するほど充実した毎日を送っていたらしい。
しかし21歳の時に父が死亡したあたりから、青葉被告の人生は再び転落を始める。青葉被告自身は公判で20代の頃を振り返り、「親父が死んでから、誰にも頼らず一人で生きていこうと決めていました」「良い方向に向かなくなり始めていると痛感した記憶があります」などと語っているが、20代は周囲との関係性も希薄だったとみられ、取材でもこの時期の暮らしぶりを知る手掛かりは得られなかったという。
番組では、アニメーターの妻・寺脇(池田)晶子さんを亡くした寺脇譲さん、事件直後に青葉被告の命を救った上田敬博医師にも取材。妻の死の意味を問い続ける寺脇さんと、「このまま“死に逃げ”はさせない」「自分の罪と向き合い、償うべきだ」という強い思いで治療に当たった上田医師が対面する場面は、この番組の最も印象的な瞬間のひとつとなっている。
「被告を生かした医師に事件の遺族が会うなんて、ほとんど例のない出来事ではないかと思う」と宇都宮さん。「2人とも、事件が社会に投げ掛けたメッセージをそれぞれの立場でしっかりと受け止めているのを強く感じました」と振り返る。
寺脇さんが「第二の青葉さんをつくらない。辛い思いをしたうちの子みたいな子を二度とつくらない。そのために何ができるのか。この事件を忘れないという意味でも、議論する意味はあると思う」と噛み締めるように語る姿は、視聴者の胸を打たずにはおかない。と同時に、タイトルの「生かされた理由」に込められた宇都宮さんたち作り手の思いもまっすぐに伝わってくる。
ニュースだけでは伝わり切らない事件の背景を丹念に取材した労作。宇都宮さんは「常に悩みながらの取材だったし、この番組を作ったことが正解なのかは今もわかりません。その判断は見る人に委ねたい。私自身は、これからも取材を続けていく覚悟を決めています」と力を込める。
「生かされた理由~京アニ事件の深層~」は2月9日(金)深夜1時25分から2時25分、カンテレで放送。また、前作「猛火の先に~京アニ事件と火を放たれた女性の29年~」はカンテレNEWSのYouTubeチャンネルで見ることができる。
(まいどなニュース・黒川 裕生)