「輪島朝市にいるみたい」と人気の絵本、品切れ→復刊へ 焼失した朝市のにぎわい、子どもたちに届け…老舗が決断

 石川県で創業した老舗出版社が、ゆかりの地の復興を願って1冊の絵本を復刊します。児童書出版社として知られる福音館書店が1980年に発売した作品「あさいち」(絵:大石可久也、語り:輪島・朝市の人びと)。舞台となった輪島朝市は、今回の能登半島地震後の火災で大半が焼失。朝市のかつてのにぎわいを子どもたちに伝えたいーーといった声を受け、復刊が決まったといいます。

■客「もどりにかうよ」売り子「うまいことゆうて」

 輪島朝市で働く人々に聞き取った内容をもとに、絵巻物風に描いた作品。

 「1970年代当時の輪島の朝市を丹念に取材して描かれた本作は、海のもの、畑のものが集まる、商いの場としてだけでなく、地元の人びとにとって、楽しいおしゃべりと社交の場でもある朝市の姿を紹介しています」(同社)

 売り子と客との丁々発止のやり取りにはニヤリとします。売り子のおばあさんが「あじみしてみい、うめえだろ」と味見をすすめると、客の男性は「もどりにかうよ」と帰り道に買うことを伝えます。するとおばあさんは「うまいことゆうて。このおばばだませば ばけてでるぞー」。

 この作品はもともと、同社の月刊絵本「かがくのとも 1980年1月号」として発売されましたが、現在は品切れに。1月の能登半島地震発生後、ニュースなどで輪島朝市の焼失が伝えられると、同社には「輪島の朝市の復興を願って復刊してほしい」「子どもたちにもぜひ紹介したい」「本を読む度に自分も市場にいるような気が」「自分の祖母とは全然違う話し方の、着物をたくさん着て、まるまるとしたおばあちゃんの絵がとても印象的」などの声が寄せられるようになりました。

 「これらの読者の思いを受け、小社創業の地である石川県をはじめとする被災地復興の願いを込めて復刊します」(同社)

 同社は1916年、カナダ人宣教師が創設したキリスト教関連の図書を扱う書店「福音館」がルーツ。第2次世界大戦の影響で日本人経営者に譲渡され、書店事業とともに出版活動への取り組みを開始。1952年2月、出版部門を独立し、有限会社福音館書店として金沢市に創立。同年8月、東京都に移転。2000年8月、有限会社福音館書店から株式会社福音館書店に組織変更。「ぐりとぐら」「だるまちゃん」「うさこちゃんの絵本」「エルマーのぼうけん」シリーズなどで知られています。

 「あさいち」は3月6日発売。1100円(税込)。28ページ。サイズ26cm×24cm。同書の利益は災害義援金として日本赤十字社に寄付されます。

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