歌舞伎などの舞台途中で鳴る「プルル」 古典芸能ファンの間で話題騒然、携帯電話はなぜ鳴るのか?

 歌舞伎の代表的な演目「連獅子」の舞台半ばだった。長唄三味線の聞き所で1階客席からその音が聞こえた。

 「プルルル-」。「立春歌舞伎特別公演」が行われている2月の大阪松竹座(大阪市)に携帯電話の呼び出し音が響いた。幸い舞台上の迫力の長唄三味線が勝っていたので、気付かなかった人もいたかもしれない。

 古典芸能ファンの間では、劇場で鳴る携帯電話の呼び出し音が問題となっている。1月上旬には歌舞伎座(東京都中央区)の「寿 初春大歌舞伎」に出演していた歌舞伎俳優・尾上松緑さんが自身のブログで「今日も出番中に二人、携帯電話鳴らしたマナー知らずが居た」と記述。同月、浅草公会堂(台東区)で興行されていた「新春浅草歌舞伎」でも携帯電話が鳴ったという体験談がSNSに投稿され、大きな話題となった。

 携帯電話の機械的な音は古典芸能の世界観とはマッチしないため、ファンにとっては落胆も大きいようだ。歌舞伎や文楽など古典芸能を定期的に上演する劇場ではどういう対策をしているのだろうか。

 歌舞伎座や大阪松竹座などを有する松竹と、国立劇場(東京都千代田区、再整備のため閉場中)や国立文楽劇場(大阪市中央区)などを運営する日本芸術文化振興会(千代田区)に取材した。

 松竹・日本芸術文化振興会ともに現在実施している対策として「アナウンスや係員による注意喚起」や「ロビーでの掲示」などを挙げた。

 また国立劇場が閉場中のため、同劇場の主催公演は東京都内のさまざまな劇場で行われている。このため、日本芸術文化振興会は劇場に合わせて注意喚起をするとした上で、「現在、マナーチラシ作成を検討中」とした。

 劇場によっては携帯電話抑止装置が付いている。松竹は直営の4劇場(歌舞伎座、新橋演舞場、南座、大阪松竹座)、日本芸術文化振興会は閉場中を除き、直営の国立文楽劇場と国立能楽堂(東京都渋谷区)で抑止装置が稼働していると回答した。

 大阪松竹座にも、抑止装置は付いていた。ではなぜ携帯電話は鳴るのだろう。松竹の担当者は「携帯電話は使用する電波帯が増え続けており、装置は順次対応している」と説明した。つまり、抑止装置といえども万全とは言いがたい、というのが現実のようだ。

 日本芸術文化振興会は「お客様および演者が集中できる環境をご提供し、お客様に公演をお楽しみいただけるよう、今後も対策を徹底していきたいと思います」とする。

 松竹の担当者は「携帯電話の音は、演者にとってもほかのお客様にとっても妨げで、芝居を中断してしまう。芝居を壊さないように守るのが劇場側の責務だ」と話した。その上で「お客様で操作方法が分からないなどの困ったことがあれば係員に相談してほしい」と呼びかけた。

 「舞台は一期一会」。演劇に携わる人からはしばしばこの言葉を聞く。いま、このときの舞台を心に焼き付けるためにも、まず観客が携帯電話の電源を切ることが大事なようだ。

(まいどなニュース/京都新聞・浅井 佳穂)

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