がんが全身転移した狩猟犬 死の淵を彷徨いながら「保護スタッフが来るまでは…」と意識回復 スタッフの顔を見て安堵し旅立った

岡山県では、毎年11月15日から翌年の2月15日までが狩猟期間となっており、多くの狩猟犬が飼い主とともに活動します。しかし、その中で何らかの事情で飼い主と離れ離れになり、元の環境へと戻ることができぬまま、動物愛護センターに収容されるワンコもいます。

2023年8月上旬、動物愛護センターに1匹の狩猟犬が収容されました。推定10歳ほどのポインター系で、主に鳥類を狩猟する際に使われる種類です。岡山県の狩猟可能期間はすでに半年前に終了しています。「狩猟犬であれば、必ず元飼い主がいるはずだ」とのことで迷い犬として告示されました。このワンコは足を負傷しており、すぐに治療が必要の状態でした。

そこで岡山県を拠点に行き場を失ったワンコの保護活動を行う団体、NPO法人しあわせの種たち(以下、しあわせの種たち)が、このワンコを引き出し、治療することにしました。

■後ろ脚のけがと命に関わる病気

しあわせの種たちでは、このワンコに「ポルカ」と名付けました。

ポインターは、成犬であれは体重30kgくらいあってもおかしくありませんが、この犬は20kgしかなくガリガリに痩せています。ずいぶんと長い間、彷徨っていたのかもしれません。

すぐにスタッフが動物病院へと連れていき、獣医師に診てもらうことにしました。その診断によると、右後ろの脚先がつぶれて、左後ろの脚にもやけどのようなケガ。右の後ろ脚に関しては、傷からの出血が続いており、敗血症の恐れがあるため、早急に切断手術が必要とのことでした。

スタッフは手術を依頼。無事に終えることができましたが、ポルカの脚は3本になりました。さらにがんも発覚。すでにポルカは推定10歳くらい。体力が十分ではないことから予断を許さない状況が続きました。

結果、ポルカは動物病院に入院することとなり、スタッフはできるだけ面会に行かせてもらうことにしました。そして、入院中でもポルカと日向ぼっこをしたりと、「できるだけ一緒に過ごしてあげたい」と思いました。このことを受けた獣医師も「私も同じ思いです。できるだけのことをポルカにしてあげたいです」と言ってくれました。

■公示期間内に、飼い主からの名乗りはなかった

通常、ハンターは狩りが終わると連れて行った猟犬を呼び寄せて帰宅します。しかし、追跡欲求の強い猟犬がいつまでも獲物を追いかけ、飼い主とはぐれてしまうことはままあります。さらに、こういった状況で、ほかの野生動物に襲われることも珍しいことではありません。

もしかしたら大ケガを負ったポルカもこんな状況を経て動物愛護センターに収容されたのかもしれませんが、残念なことに公示期間中、ポルカには飼い主からの名乗り手はありませんでした。想像したくはないですが、もしかしたら「獲物を追いかけて帰って来ない」ということで、そのまま「なかったこと」にされてしまった可能性もなくはありません。

■一度は遠のいた意識を守りぬきスタッフを待っていた

保護からすぐに入院しながらも、スタッフや獣医師の愛情を受けていたポルカですが、容態は日に日に悪化。獣医師によれば、ポルカのがんが全身に転移しているとのこと。この間も、スタッフはほぼ毎日ポルカのお見舞いに動物病院を訪れていましたが、1月下旬、ついにポルカの意識がなくなってしまいました。ずっと親身に対応してくれた獣医師も「ポルカが安らかに旅立てるように、これ以上の蘇生はしないほうが良い」と判断しました。

しかし、そのとき、ポルカの意識が一時的に戻りました。

この状況を知らされたスタッフは、急いで動物病院にかけつけました。後になって思えば、ポルカはお世話し続けてくれたスタッフの表情を見るまで懸命に意識を守り抜いたようにも感じられました。

程なくしてかけつけたスタッフを前に、ポルカは満面の笑顔を浮かべました。その表情はスタッフに会えて嬉しそうにも見え、あるいは「助けてくれて、ずっとお世話してくれてありがとうね。ずっと忘れないよ」とでも言っているかのようでした。

ポルカはスタッフにやっと会えたことで安心したのか、スヤスヤと眠るように虹の橋をわたっていきました。

これまで飼い主のもとで懸命に働いてきたのに、ある日突然、ひとりぼっちになってしまったポルカ。その思いを想像するだけで胸が痛くなりますが、虹の橋の向こうでは、スタッフに見せてくれた笑顔のままで、楽しく過ごしていることを願ってやみません。

(まいどなニュース特約・松田 義人)

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