「北海道には6つあるけど、奈良県にはゼロのものなーんだ?」 ヒントは「滋賀県もゼロ」

ほかの都道府県にはよく見られるのに、奈良県にないもの。それは、刑務所。奈良県には少年刑務所があったが、2017年に収容業務が停止されたことで、奈良県は「刑務所がない県」になった。

■始まりは1871年に設置された奈良監獄

奈良県に刑務所がないことが、はたして珍しいことなのか。刑務所がない県なんて、他にもたくさんあるだろうと思うかもしれない。ところが、ほとんどの都道府県に最低でも1つの刑務所がある。北海道には少年刑務所も合わせると、なんと6つもある。だから「刑務所がない県」は、きわめて珍しいのである。

しかし奈良県にも、かつては刑務所が存在していた。1871年、奈良町大字西笹鉾に「奈良監獄」が設置された。その後、1901年に明治政府の「監獄建築改良方針」に基づいてあらたな監獄の建築が計画され、1908年、奈良市内に完成した。新しい監獄はれんが建ての洋風建築で、完成当時は五大近代監獄のひとつに数えられたという。

近年は少年刑務所として使われていたが、建物の老朽化が激しいため2017年に収容業務が停止された。その一方で、歴史的・文化的価値が高い近代建築であるとして、保存しようという機運が高まっていた。

「京都拘置所奈良拘置支所」の庶務課に話を聞いた。

「明治期に築造された奈良少年刑務所の赤れんが建造物は、築100年を超え、経年による老朽化が著しく、刑務所として利用し続けることが難しい状況であったところ、その一方で、本建造物は、歴史的・文化的価値が高い近代建築であるとして、その保存に地域の方々をはじめ様々な方面から関心が高まっていたことから、法務省において、同所における受刑者収容業務を停止し、本建造物の保存及び活用を図ることになったものです」

■少年刑務所とはいえ受刑者の年代は幅広く

奈良少年刑務所とは、どのような施設だったのか。「少年」と冠しているから、20歳に満たない受刑者だけを収容していたのかと思いきや、26歳未満の成人男子、及び未決拘禁者等を収容していたという。未決拘禁者とは、刑事裁判の判決が確定していない者のこと。

また、総合訓練施設として全国から適格者を集めて専門訓練を実施する施設だったことから、幅広い年代の受刑者を収容していたそうだ。ちなみに、収容定員は約700人だった。

では、刑務所内ではどのような指導が行われていたのだろうか。

「矯正指導とは、刑執行開始時の指導、改善指導、教科指導及び釈放前の指導の四つを総称して矯正指導といっています。刑執行開始時の指導では、受刑等の意義や心構えなどについて指導を行い、釈放前の指導においては、釈放後の社会生活において直ちに必要となる知識の付与や指導が行われます。 また、改善指導は、受刑者に対し、犯罪の責任を自覚させ、健康な心身を培わせ、社会生活に適応するのに必要な知識及び生活態度を習得させるものです。さらに、教科指導とは、学校教育の内容に準ずる指導を行っています」

教科指導というワードが気になったので、さらに尋ねてみると、社会生活の基礎となる学力を欠くために改善更生や円滑な社会復帰に支障がある者、学力を向上させることで円滑な社会復帰に効果があると認められる者に対して、学校教育の内容に準じた指導が行われるのだという。

他に受刑者等が行う作業(生産作業、社会貢献作業、自営作業、職業訓練)の種類に職業訓練があり、受刑者が希望しているなど一定の条件に基づいて職種が選定される。

そのような指導が行われていた奈良少年刑務所だが、高級ホテルとして生まれ変わるべく、2026年の開業を目指して準備が進められているそうだ。

■実は…滋賀県も2022年に刑務所がなくなった

ところで、奈良少年刑務所のリサーチと取材を進める過程で、あらたに分かったことがある。実は刑務所のない県が、もうひとつあったのだ。それが滋賀県である。

滋賀県は1876年に、滋賀刑務所の前身である仮懲役場が設置された。1966年に大津市大平へ移転したが、受刑者数が減少したことと建物の老朽化が著しいため、2022年3月に閉庁されたことで、滋賀県にも刑務所がなくなった。刑務所を閉めた理由が「受刑者が減ったこと」と知ったとき、そのような状況が今後も続いてほしいと願わずにはおれなかった。

(まいどなニュース特約・平藤 清刀)

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