「ステージ4の肺がんです」 告知に絶望した俳優小倉一郎さん 転院先で出会った主治医への信頼が奇跡を生んだ

「気弱な小市民を演じさせたら右に出る者はいない」とも称されるベテラン俳優・小倉一郎さん。2021年暮れにドラマの撮影中に右足を骨折し治療していましたが、なぜか背中にも激痛が走ることに不安を覚えました。そして、地元のクリニックを受診。「がんの疑いがある」と診断され、総合病院で改めて詳しい検査を受けることになりました。

担当医はモニターに目をやったまま、一度も小倉さんと目を合わすことなく、こう口にしました。

「がんです。ステージ4の肺がん。このレントゲン画像を見てください」

「手術も、放射線治療も、抗がん剤も、完治は見込めません」

小倉さんにとっては率直なところ「何をやっても難しい」としか聞こえませんでした。そして、絶望的な舞台に立たされたと理解しました。

結論を述べると、目視できる全てのがんが消滅するという奇跡が起き、無事に生還できたのですが、それまでに至るエピソードを赤裸々につづった本が刊行されました。『がん「ステージ4」から生まれ変わって いのちの歳時記』(小倉一郎・著、双葉社)です。

■「薬には“楽”という字があるのに全然楽にならない」

冒頭で触れた担当医とのやりとりを小倉さんはこう語っています。

正直な話、診察室でドクターに何を言われたのか、あまり覚えていないのです。

初めて顔を合わせた時に、いきなり余命宣告されたわけですから、聞く気も起きませんでした。

背中の痛み止めとしてロキソニンを処方してもらっていたものの、食欲もみるみる減退。そうめんぐらいしか喉を通らず、「薬」という文字を見ても、「“楽”という字が入っているのに全然楽にならないじゃないか」と心傷つく毎日でした。(本書より)

告知を受けた後も痛み止めを使いながらドラマ撮影などの仕事を続けました。小倉さんの娘さんはがんに関する情報を調べ今後の準備を重ねました。そして、最初の診断から数週間後、再告知を受けるために小倉さんと一緒に例の担当医を訪ねました。

しかし、担当医はまるで小倉さんの身に寄り添わない態度でした。娘さんはがん専門病院への転院を決断します。

■放射線治療と化学療法に挑戦

がん専門病院の診断でも、右肺を原発に胸骨・肋骨・リンパ節、脳にも転移が確認されました。しかし、新しい主治医は最初の担当医とまるで違いました。小倉さんは明るく誠実な主治医を信じて、最先端の放射線治療と化学療法に挑戦することになりました。

「小倉さん。やれることは、すべてやりましょう」

そうおっしゃってくださる牛尾先生を、僕は信じることに決めました。

化学療法が本当に効くかはわからないけれど、まだやれることが残っていると思うと、嬉しかった。

まさに地獄に仏でした。(本書より)

そして、小倉さんはがんによる痛みで食べられず、寝られずの日々をおくり、もともと痩せ型なのに11キロも体重が減少。でも、「やれることは、すべてやる」挑戦が奇跡を呼びました。腫瘍が目でわかるほどに小さくなっていたのです。

「ありがとうございました」

必死に涙を抑え、振り絞るようにお礼を申し上げる僕に、先生はいつもの温かい笑顔でこう告げました。

「小倉さんの場合、通常の抗がん剤と免疫療法を用いた標準治療で結果も出ていることですし、当面は今の化学療法を続けていきましょう」(本書より)

■1年あまりで目視できるがんが全て消滅

小倉さんは、最先端のがん治療に挑戦し続け、1年あまりで目視できるがんが全て消滅しました。

本書ではどのような治療を、どのタイミングで受けたか、副作用などのリスクなども含めて、小倉さんの心情と合わせて細やかに紹介されています。そして、「余命1~2年」という死の淵から生還できた上での心持ちを、小倉さんはこう紹介しています。

<最後まで生きるのを諦めないための3カ条>

その1 異常を感じたらすぐ病院へ。叩ける門は、すべて叩く

その2 可能であれば「がん専門病院」を検討する

その3 モニターしか見ないドクターには要注意(本書より)

■がんで苦しむ人たちの「希望の光」になるようにと刊行

本書の担当編集者に聞きました。

「昨年5月、小倉さんが出演された『徹子の部屋』を拝見したのが企画の発端です。余命宣告まで受けたステージ4のがんが、ご家族の献身的な支えと最新の治療で大幅に縮小したことを笑顔で明かす姿に目が釘付けに。病に苦しむ多くの患者さんの希望の光になると確信し、書籍化を即決しました。根治は困難とされる『がん・ステージ4』。しかし、小倉さんのように治療で腫瘍を縮小させたり、進行を遅らせられる例も増えてきました。最近は喫煙歴のある男性に多い遺伝子変異タイプを狙い撃ちする分子標的薬も登場し、肺がん治療に効果を上げているそうです。ぜひ多くの方に読んでいただければ幸いです」(担当編集者)

死の淵から生還し生まれ変わった小倉さんの奇跡の闘病体験。ぜひご一読ください。

(まいどなニュース特約・松田 義人)

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