「トレンディードラマに出たかった」若き日の杉本哲太が食らったPのダメ出し 良き父から悪人までオファーが途切れない魅力
40年以上にわたり俳優として数々の作品に出演してきた杉本哲太。2023年はドラマ、映画を合わせて出演作品は10本以上に及び、演じる役柄も良き父から気のいいオヤジ、さらには狂気の人物など幅広い。2024年も映画は『マッチング』からスタート。ここでも一筋縄ではいかない父親役を好演。そんな杉本の俳優としての歴史に迫る。
■作品が途切れない実力派も「運がいいんですよ」と謙遜
「運がいいんですよ」と出演作品が途切れない近年の活動について笑った杉本。2023年は映画だけでも『シャイロックの子供たち』では強烈なパワハラ上司、『ヴィレッジ』では不法投棄を繰り返すヤクザ、『OUT』では気のいい焼肉屋のオッちゃんなど6本の作品に出演し、役柄も変幻自在。ドラマに至っては地上波、配信など含めて10本以上出演している。
「特別なにかをしているわけではないんです。まあ人間なので、いいお父さんの役が続いたら、次はちょっとイカれた役をやりたいなと思ったり、刑事の役が続いたら、凶悪犯をやりたいなと思ったり…。そうすると、いいタイミングでそういう役が巡ってくるんです」
もちろん、どんな役でもしっかりと全うできる演技力があるからというのは大前提。「本当に運がいいんですよね」と本人は謙遜するが、出演作は優に3桁を超える。ずっと映像の世界での活躍が続く。
■トレンディードラマに出演したくて直訴も撃沈!
「演じたことがない役なんてないのでは?」と尋ねると、杉本は「ありますよ」と目を見開くと「女性からモテる役というのはあまり記憶にないですね」と照れくさそうに語る。
「なんかね。なかなか一筋縄ではいかないというか、一見好人物に見えても、どこかに何か潜んでいるという役が多いんですよね。僕もトレンディードラマに出てみたいなという思いもあったんですよ」
杉本が20代だった1980年代後半から90年代前半、いわゆるトレンディードラマがテレビでは流行っていた。「僕が20代半ばに鈴木保奈美さんが出演していた『東京ラブストーリー』などが話題になっていました。僕も出てみたいな」と20代の杉本はテレビ局のプロデューサーに売り込みに行った。
「爽やかな感じがいいかな」とTシャツにジャケット、デニムの杉本にプロデューサーは「君は人に会うとき、そういうラフな格好をするのか」とダメ出し。「『失敗した』と思ったら、案の定まったく声が掛かりませんでした」と振り返る。
トレンディードラマ出演の夢はかなわなかったが、丁寧に作品に取り組み役柄の幅を広げていった杉本。いまではどんな役でもリアルに表現する演技派俳優として、映像界では引く手あまただ。
■大ベテランも「どんどん怖さが増していく」
最新作映画『マッチング』では、土屋太鳳演じる主人公・輪花を男手一つで育てる父・芳樹を演じた。
「ネタバレになるので詳細はあまり言えませんが、とても真面目で娘思いの父親なのですが、こちらも一筋縄ではいかない役柄です。平凡な父親という設定だからこそ、いろいろ起こる出来事を観客目線で伝えられるのでは」
監督は、映画『ミッドナイトスワン』などを手掛けた内田英治で杉本とは初顔合わせだった。 「すごく俳優の芝居を面白がってくださる監督でした。一方で、細かい演出はないぶん、すごく見られている感じがありました。しかも見ていなさそうで、見ているんです」。
長く続けていても新たな出会いが多いのも俳優業の魅力であり、奥深さという。「いつまでたっても現場の初日は緊張するし、セリフもしっかり解釈して演じる役として発するのは難しい。年齢や経験を重ねても、満足したことはないです。むしろどんどん難しさ、怖さは増しています」。
年齢を重ねてベテランと呼ばれるようになると、なかなかダメ出しはされなくなる。だからこそ、毎回現場で監督と確認する作業は怠らない。そこで思いが「合致」した一瞬、ホッとするという。そしてそこからまた追求の日々が続く。
杉本はしみじみと語る。「僕にとって俳優業は答えを探す旅です。もしかしたらその答えはないかもしれませんが」。
映画『マッチング』は2月23日より全国ロードショー
スタイリング:壽村 太一、ヘアメイク:池田 ユリ (eclat)
(まいどなニュース特約・磯部 正和)