大学入試の過去問「赤本」はなぜ赤い? 赤くない時代もあった…だと?赤くなった理由を聞いた
大学入試の過去問題集「赤本」が今年、創刊70周年を迎えた。京都の出版社が刊行を続ける「受験生のバイブル」の歩みをたどった。
京都市左京区に本社を構える世界思想社教学社。上原寿明社長(68)の前に歴代の赤本を並べてもらった。見つかっている最古の冊子の表紙には「昭和32年版 京大入試」の文字があり、色は既に赤だったが、「見つかっている一番古い本の表紙が、たまたま赤色だったということ。創業者からは、赤にこだわってなかったと聞いています」(上原社長)
赤本として親しまれている「大学入試シリーズ」は、各大学から入試問題を無償で提供を受け、高校教員や塾講師らに依頼し解答例を作成している。1954年、「京都大」「同志社大と立命館大」「大阪市立大と神戸大」の3冊で創刊した。同社は約10年前、本腰を入れて初版本を探したが見つからず、表紙の色は不明のままだ。創業者の故・高島國男さんも創刊時の表紙の色は記憶していなかったという。
赤系の色にそろえたのは64年から。それまでは大学ごとに違ったが、インパクトを求めてオレンジ色に統一し、のちに柿色となった。さらに柿色から少しずつ色が濃くなって赤味も強くなった。書店に赤系の本がずらりと並ぶ光景から、受験生に「赤本」の愛称で親しまれるようになった。
受験競争が激しくなるにつれ、赤本は毎年の刊行点数を増やしてきた。60年に初めて東京大を刊行すると、その3年後には100点を上回り、89年には500点を超えた。本年度は378大学555点を発行した。
大きく変わったのはページ数。現在の京大は文系、理系の2冊に分かれ、本の厚さも56年当時の約3倍になった。図表やイラストを交えた詳細な解説を掲載しているためだが、上原社長は「昔は『詳しい解説を載せると、受験生が考えなくなる』と否定的な声が多く、数行のヒントと解答のみだった」と振り返る。
赤本は今も昔も受験生の強い味方だ。中学教員に憧れ滋賀大教育学部の受験を控える桃山高3年の下水木涼真さん(18)は「大学の出題傾向を分析し、対策を立てるのに役立っている。赤本を活用して追い込みをかけたい」と意気込む。
オープンキャンパスで志望者に赤本を無料配布する大学もある。
個別相談を受けた人に配っている大谷大(北区)は、自前で過去問集を作成していたことから一時は赤本への過去問の提供をとりやめたが、2022年に復活させた。入学センターの広報担当者は「高校の進路指導担当教員からも復活の要望があった。赤本はブランドがあり、志望者の反応もいい。赤本を手にすることで進学を意識してもらえたらうれしい」と配布の狙いを説明する。
赤本は70年の節目を機に、25年度版から重厚な表紙デザインを一新する。編集部マネージャーの中本多恵さん(40)は「受験生に寄り添う丁寧なサポートがイメージできるような柔らかな印象の表紙になる」と話す。色はもちろん、赤のままだ。
インターネット時代の到来で、同社はリスニング問題をダウンロードできるようにしたり、動画投稿サイト「ユーチューブ」やSNSでも情報発信する。だが上原社長がこだわるのは紙の赤本だ。「早く問題を解くだけでなく、回り道をしてでも結論にたどり着くことを大切にするのが教育。受験生には、問題とじっくり向き合える紙の赤本が合っていると信じています」
(まいどなニュース/京都新聞)