無理だと思っていた「沈黙の艦隊」の映像化 かわぐちかいじさん感服 「とても好感が持てた」
1988年に漫画誌で連載がスタートした「沈黙の艦隊」が35年の時を経て、2023年に実写映画化、そしてPrime Videoでドラマ「沈黙の艦隊 シーズン1 ~東京湾大海戦~」として全8話の配信がスタートした。本作を生み出したのは、数々の傑作漫画を世に送り出したかわぐちかいじさん。執筆時から「絶対実写化できないだろうな」と思っていた原作が壮大なスケールで映像化された。作品を観た漫画家が思いを語った。
■「無理」と思っていた実写化、蓋をあければ「とても好感が持てた」
作品を生み出す際「実写化されるかも……ということはまったく考えていません」と語ったかわぐちさん。そこには「漫画は漫画として成立させる」という大前提があった。特に「沈黙の艦隊」については「かなりスケールのデカい話とテーマ性だったので、まあ冗談ですけれど『実写化できますかね』と聞かれたら『これは無理でしょう』という話はしていました」と笑う。
防衛省、海上自衛隊などの協力により臨場感たっぷりの魅せる作品に仕上がった。なかでもかわぐちさんが舌を巻いたのが潜水艦内での描写だ。
「海中での戦闘などは、基本的に真っ暗。その暗さを感じさせながらも、読む人には分かるように伝えなければいけないじゃないですか。その苦労はあったので、映像になったときどう表現するのだろうと注目していました。そこは非常にうまくいっているなと。嘘くさくなく表現されていました」
登場人物の肉付けにも作り手の思いを感じたという。
「僕の漫画でも、海江田四郎(大沢たかお)、深町洋(玉木宏)、政治パートの竹上首相(笹野高史)など重要な人物として描いているのですが、原作では『ここは分かってくれるだろう』と結構乱暴に丸投げしている部分もありました。漫画ってページを戻ったりすることが容易にできるので、読者に委ねていましたが、映画やドラマでは非常に丁寧に描いているなと感じました。しっかりとキャラクターに向き合ってくださっていたので、とても好感が持てました」
連載スタートから30年以上も、世界は足踏みしてしまっている
シーズン1では、海江田艦長による原子力潜水艦シーバット乗っ取り、独立国やまとを宣言、さらに東京湾に舞台を移して勃発する戦いまでダイナミックに描かれている。
「自分で描いていて言うのもなんですが」と前置きしつつ「劇場版で海江田が『やまと』独立宣言をするシーンや、日本が軍事国家になるのかと誤解されてしまう危険を冒してまで『やまと』に対して同盟を結ぶ、日本を守るという意思を示すところとか。交渉の場面をどう描いてくれるのかなという期待があったのですが、竹上首相を演じた笹野高史さんの演技を含めてとてもよかった。ドラマを観て感動しました」
そこには自身の熱い思いもあったようだ。
「いま日本人はなかなか世界に対して自信が持てない人が多いのかなと思うんです。そのなかで、江口洋介さん演じる海原官房長官が毅然と日本の進む道を探ろうとする原作以上の細かな演出で人間性を表現していて、とてもよかった。力をもらった気になりました」
漫画がスタートした1988年は米ソの冷戦終結の前年だ。「これから日本はどうなるんだろうという不安があった時代」と振り返ったかわぐちさん。そこから30年以上が経過したが「安全保障や核の問題はまだ解決していないなか『また戦争が起こるんだ』という時代に突入してしまった」と足踏みしていることを強調する。
だからこそ、海江田艦長が何をしたかったのかが伝えられる「最後の思い」まで描いてほしいという気持ちが強いという。
「最後国連での海江田とベネット大統領とのやり取り。一番大事なメッセージを持ってこの作品の伝えたいことが分かるので、最後までしっかりと描いてほしいですね」
(まいどなニュース特約・磯部 正和)