追突事故を起こしたら「保険の等級」「ゴールド免許」はどうなる? 「物損」か「人身」かで大きく変わる処分・賠償責任
車を運転する上で避けたい追突事故ですが、実は事故の内容が「物損」なのか「人身」だったのかで、運転者に対する処分や賠償責任が変わってきます。違反点数や罰金などの違いについて整理してみましょう。
■物損事故か人身事故か
一口に追突事故といっても、「相手の所持する物が壊れただけ」の物損事故と「相手が負傷した」人身事故では扱いが大きく異なります。その違いは行政処分(違反点数)、刑事処分(刑罰)、そして民事処分(賠償請求)で以下のようにまとめられます。
【人身事故】
行政処分(違反点数):加算あり
刑事処分(禁錮刑や罰金等):あり
民事処分(損害賠償):治療費や慰謝料や休業損害などが発生し高額になることも
【物損事故】
行政処分(違反点数):基本的に加算なし(当て逃げや重過失の交通違反の場合は別)
刑事処分(禁錮刑や罰金等):基本的になし(当て逃げや故意犯は別)
民事処分(損害賠償):壊れたものの賠償が中心
■物損事故の違反点数・罰金・賠償
追突事故でも相手が負傷していない物損事故の場合は、基本的には罰金や違反点数はありません。
このような「物を破損した」だけの交通事故は、行政的にも刑事的にも基本的に処分対象外であり、民事的な補償(要するに相手の被害についての弁償)をすれば足ります。
民事賠償というと深刻に聞こえるかもしれませんが、結局は発生した損害を弁償するということに尽きますので、警察に身柄が拘束されたり、前科前歴がついたりということはありません。また、民事の補償は自身が任意保険に加入していれば、基本的に保険会社に任せておけば十分です。そのため、物損事故であれば特に大事になることはありません。
▽ゴールド免許は維持も保険の等級は下がる
物損事故に留まる場合は上記のとおり違反点数が付かないため、ゴールド免許を持っている人はそのまま保持できます。
なお、民事的な補償について契約保険を利用した場合は、保険の等級が下がり翌年以降の保険料が上がる等の不利益はあり得ます。(詳細は契約先の保険会社に確認しましょう)
▽ただし違反点数が加算されるケースも
物損事故それ自体には違反点数や罰金はありませんが、以下のような別の「交通違反」があれば、違反点数や罰金の対象になります。
・警察への報告と必要な対処という義務を怠った「当て逃げ」の場合
・飲酒運転など重過失がある交通違反の場合
この場合は違反点数が付くので、ゴールド免許も取り消しになります。
■人身事故の違反点数・罰金・賠償
「クルマに追突して相手のドライバーがケガをした」「歩行者を巻き込んでしまった」といった人身事故の場合は、事故の内容に応じて違反点数が科されますし、刑事罰の対象にもなり得ます。もちろん、民事の賠償責任も発生します。
▽違反点数は基礎点数+付加点数の合計
違反点数に関しては、以下の2つの合計分が加算されます。
・交通違反に対して科される「基礎点数」
・被害者の負傷状況と過失割合で加算される「付加点数」
物損事故について下表のような別の違反事実が認められる場合には、所定の違反点数が加算されます。
◇ ◇
安全運転義務違反(よそ見・脇見・漫然運転など):2点
無車検運行:6点
無保険運行:6点
大型自動車等無資格運転:12点
仮免許運転違反:12点
30㎞以上の速度超過(高速は40㎞):12点
酒気帯び運転(0.25未満):13点
酒気帯び運転(0.25以上):25点
過労運転等:25点
共同危険行為等禁止違反:25点
無免許運転:25点
酒酔い運転:35点
麻薬等運転:35点
◇ ◇
なお、人身事故の場合には下表のとおり相手の状態に応じて2点~20点の加算があります。
◇ ◇
【死亡事故】
専ら加害者の不注意により事故が発生した場合:20点
相手にも非がある場合:13点
【重傷事故:治療期間3ヶ月以上、後遺症あり】
専ら加害者の不注意により事故が発生した場合:13点
相手にも非がある場合:9点
【重傷事故:治療期間30日以上、3カ月未満】
専ら加害者の不注意により事故が発生した場合:9点
相手にも非がある場合:6点
【軽傷事故:治療期間15日以上、30日未満】
専ら加害者の不注意により事故が発生した場合:6点
相手にも非がある場合:4点
【軽傷事故:治療期間15日未満】
専ら加害者の不注意により事故が発生した場合:3点
相手にも非がある場合:2点
■ゴールド免許は取り消しで免停の可能性も
人身事故はそれ自体が行政処分の対象となり、違反点数が加算されますので、ゴールド免許は取り消しとなります。
また前歴がない場合は違反点数6点以上、前歴1回の場合は4点以上で免停となるため、人身事故を起こした場合に一発で免停になることも少なくありません。
▽刑事罰
人身事故は刑事罰の対象となります。もっとも一般的な自動車運転過失傷害罪の場合は7年以下の懲役・禁錮又は100万円以下の罰金刑が法定刑です。事案が悪質な場合には危険運転致死傷罪等が適用されることがあり、この場合の法定刑は更に重くなります。
▽損害賠償も高額になりがち
人身事故についても、当然、民事での賠償責任が発生します。一般的には被害者側に生じた以下のような人的損害を賠償する責任を負うこととなります。
・治療費
・休業により喪失された収入
・入通院に係る慰謝料
・後遺障害が発生した場合の慰謝料及び逸失利益
人身事故は補償を要する金額が大きくなることもあり、強制加入の自賠責保険ではカバーしきれないことも珍しくありません。この場合に対人無制限の任意保険に加入していれば特に問題はありませんが、そうでない場合は自賠責保険でカバーされない損害額は運転者が自ら賠償しなければなりません。
■まずは警察と保険会社に連絡を
物損事故であろうと人身事故であろうと、事故が発生した場合には速やかに警察に届け出る義務があります。そのため追突事故を起こしてしまったら、必ず警察に連絡しましょう。契約している保険会社がいる場合は、警察への連絡を済ませた後に速やかに連絡するようにしてください。
■監修弁護士からのコメント
物損事故は人身事故に比べて運転者の責任は軽いものとされています。もっとも物損事故であっても事故後に必要な対応(例えば警察への報告等)を怠れば、別途処分対象とされることもあります。交通事故を起こして若干動転してしまうのは仕方がありませんが、できる限り冷静に必要な対応を行うように心がけましょう。(弁護士・梅澤康二氏)
(まいどなニュース/norico)