ドラマで話題の「不適切」な昭和の文化!? 食堂車に喫煙車、紙コップで飲む冷水器…かつての鉄道に色濃くあった風情を懐かしむ
昭和と令和が舞台のテレビドラマ「不適切にもほどがある!」(TBS系、金曜午後10時~)で描く昔の日本は1986(昭和61)年だそうだ。2024(令和6)年とのタイムスリップを軸に物語が繰り広げられる。86年といえば私が大学に入学した年。主人公の「不適切」な行状に爆笑しつつ、思い当たる節もあって胸がざわざわする。当時はよく見かけた街中や交通機関での光景も、今では「過去の遺物」ということも少なくない。駅や車内でもいろいろとあるのではないかと、やや強引だがタイムスリップ?を試みてみた。
JR東海が、東海道新幹線の「のぞみ」「ひかり」の車内ワゴン販売を終了したのが2023年10月末だった。大学生時代にワゴン販売のアルバイトをした経験のある私は、また一つ昭和の名残が消えていくようで寂しく思ったものである。コーヒーやカチカチのアイスクリームは「のぞみ」停車駅のホームに設置された自動販売機で購入できるというが、アイスクリームを購入した知人は「意外に硬くなくて、食べやすくなった」との評。そしてついに、山陽新幹線の普通車からも今年3月15日限りで姿を消すことになった。
■封筒型の紙コップで飲む冷水器
私が初めて新幹線に乗ったのは、中学校を卒業した春休みの旅行で1983(昭和58)年だった。当時は団子鼻の0系が主力車両で、車内の洗面所付近に冷水器が設置されており、平たい小さな封筒型の紙コップが付いていた。これを開いて冷水器の水を中に注ぐわけだが、揺れる車内では結構難しかった記憶がある。
食堂車やビュッフェもあった。食堂車ではハンバーグ定食を食べた記憶があるが、銀色の一輪挿しに花が生けられていて、贅沢かつ特別な雰囲気が漂っていた。ドラマの舞台となる86年ごろは2階建ての食堂車が走り出した頃ではなかったかと思うが、高い位置から富士山を眺めながらすするコーヒー(値段も高かった)は、味まで優雅だったような気がする。
東海道・山陽新幹線から食堂車が消えて久しいが、その理由は「のぞみ」登場で所要時間が短縮されたのに加え、お客が増えて座席定員を確保する必要があったからではないだろうか。冷水器が消えたのはペットボトル入りの飲料水が普及したから、車内販売がなくなるのもコンビニなどで弁当(駅弁は割高感がぬぐえず)を買って乗車する乗客が増えたから…時代が変わったと言えばそれまでだが、寂しい限りである。
■車内が白くかすんでいた喫煙車
学生時代の新幹線の車内販売体験では、車内に染みついたたばこの強烈なにおいに辟易したことが忘れられない。私自身はたしなまないが、デッキから喫煙車に入ると車内が白くかすんでいることもあった。紫煙が充満しているのだ。窓側の下に灰皿があったほか、3人掛けの中央席と通路側の席にも肘掛けに小さな灰皿が取り付けられていた。今では想像できないが、新幹線に限らず当たり前の風景だった。
その喫煙車も、1970年代後半から80年代に分煙意識の高まりで、禁煙車両と喫煙車両が分離される。東海道新幹線では76年に「こだま」の16号車が禁煙車になったのを皮切りに、喫煙車両はどんどん減らされていった。代わりに「喫煙ルーム」が、2007年の「N700系」登場時から設けられた。つまり全車禁煙を基本として、喫煙希望者は喫煙ルームを利用するという方式となったのだ。その喫煙ルームも新型コロナ禍のころに一部が打ち合わせやWEB会議などに使える「ビジネスブース」に改造された。そして、今年3月16日のダイヤ改正を機に、東海道・山陽・九州新幹線の「喫煙ルーム」は全て廃止されることになった。喫煙ルームは16両編成のうち、3、10、15号車に、8両編成では3、7号車に設置されていたが、廃止後は非常用飲料の収納スペースになるという。わずか1両から始まった新幹線の禁煙化は48年を経て「完了」する。時をほぼ同じくして、大手私鉄で唯一車内喫煙が可能だった近鉄特急の車内にあった喫煙室も今年2月29日を最後に姿を消す。
ちなみに、今でも車内でたばこが吸える列車は、日本で唯一定期運行している寝台特急(そういえばブルートレインも全廃された…)である「サンライズ瀬戸・出雲」の一部の個室のみ。2020年に改正健康増進法により公共施設や交通機関、飲食店などの屋内では原則禁煙となった今、車内はもちろん、駅でもたばこが吸える空間は狭まっている。愛煙家の皆さんには極めて厳しい時代といえよう。
■姿を消していく時刻表
その駅にも変化が押し寄せる。経済絶好調の80年代も今は昔。コロナ禍や人口減少社会で鉄道会社の経営環境は厳しさを増している。その一例として、ホームから時刻表を撤去する動きが広がりつつある。ダイヤ改正時にかかる経費の削減のほか、携帯電話やスマートフォンの普及で時刻表のニーズが少なくなったことが理由とされるが、スマホを使わない人もおり、利用者からは戸惑いの声も漏れる。
阪急や阪神など現状通りの会社もあるが、JR西日本でも多くの駅で時刻表が姿を消している。電光表示板での案内のほか、スマホをかざしてQRコードを読み取れば画面に時刻表などが表示される仕組みで、ポケット型の紙の時刻表の配布もやめている。JR東日本では時刻表にとどまらず、時計や照明などまで減らしているという。そういえば、携帯電話の普及の影響で姿を消したものの一つに、個人の待ち合わせの連絡などに利用されていた駅の「伝言板」もある。伝言とは無関係の落書き、いたずらも多かったというが…。
車内や駅から風情や情緒がどんどん消えていく気がするのは私だけだろうか。嘆いてばかりもいられないが、「昭和・平成レトロ」ブームとも言われる中、ドラマが私たちに突きつける「本当に大切なことは何なのか」を考えるいい機会なのかもしれない。
(まいどなニュース・神戸新聞/長沼隆之)