声優の声を使った生成AIの広がりに日本俳優連合が危機感 「努力の盗用」「目に余る」 文化庁にも意見、問題意識の共有訴えた投稿も反響
声優、俳優や歌手の声を素材として使った動画投稿、例えば「歌わせてみた」「AIcover」などの盛り上がりに、声優や俳優らが所属する日本俳優連合(日俳連)が危機感を募らせている。
「日本俳優連合は、無断で声優等の声を利用した生成AIに強い危機感を持っています。
『推しがこんな歌を歌ったら聞いてみたい』
その気持ちはわかりますが、それはあなたの推しの権利を侵害していることを知ってほしいと思います。
共感いただける方は#NOMORE無断生成AI を広めてください。
#日俳連」
日俳連の外画・動画(アニメ)部会のXアカウント(@JAU_GD)による2月19日の投稿は爆発的に拡散され、一気に5万リポストを突破。「賛同します」「声の権利も守られるべき」といった反響が広がったことで、この問題に多くの人が目を向けるきっかけとなった。
日俳連の専務理事、池水通洋さんに現状と課題を聞いた。
■生成AI「目に余るものがある」
「例えば今、TikTokやYouTubeなどに投稿されている“アニメの有名キャラクターが××を歌ってみた”系の動画は、AI技術を活用した『RVC』という声変換ツールで作られた無許可のものがほとんどです。勝手に声を使われた側としてはたまったものではありません。目に余るものがある、というのが正直な気持ちです」
「投稿者は二次創作のノリで楽しんでいるのだと思いますが、生成AIに歌わせたものにオリジナリティなどあるのでしょうか。声は声優にとっての商品であり、私たちはこれを『努力の盗用』だと考えています。楽しいのは理解できます。しかし特定の人物だとわかるものを生成AIで作る場合は必ず許諾を得るべきです。ダメなものはダメだと明確にしておかなければなりません」
■著作権法の大幅な書き換えが必要
日俳連は2月16日、文化庁が取りまとめた「AIと著作権に関する考え方(素案)」に関する意見を提出。従来の著作権法の考え方と生成AIの整合性に齟齬が生まれていることを指摘し、著作権法の大幅な書き換えを求めたほか、AI生成物には著作権を認めるべきではないことなどをその理由と共に列挙した。
「生成AI自体は現在の著作権法第三十条の四(※後述)により合法だと言われています。しかし私たちは『合法でも倫理的に問題がある』という考えです。また、AIによるデータ学習の行為は、著作権法の定義している録音・録画・複製、いずれの定義にも合致しません。今後の混乱を防ぐためにも、AIを著作権法に盛り込むには大幅な書き換えを行うべきだと思います」
「AI、生成AIという新しい技術は画期的なものであり、この技術をうまく活用できれば人間社会は新しいステージに行けるのではないかという期待があります。しかしながら、現在のようにこれまでの著作権を踏みつけにしてその技術が成り立つということは、どうにも受け入れることができません」
池水さんはそう語気を強め、あらためて呼び掛けた。
「個人で楽しむことは著作権法条も全く問題ありません。しかしSNSなどにアップすると、個人利用の範囲では収まらないわけです。これを今一度、しっかりと認識していただきたいと思います。生成AIの使用の有無に関わらず、著作権やパブリシティ権として保護される範囲というのは厳然として存在します。気軽な投稿がそれを侵害していないか、これを機に立ち止まって考えてみていただきたいです」
【著作権法】
(著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用)
第三十条の四 著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
一 著作物の録音、録画その他の利用に係る技術の開発又は実用化のための試験の用に供する場合
二 情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うことをいう。第四十七条の五第一項第二号において同じ。)の用に供する場合
三 前二号に掲げる場合のほか、著作物の表現についての人の知覚による認識を伴うことなく当該著作物を電子計算機による情報処理の過程における利用その他の利用(プログラムの著作物にあつては、当該著作物の電子計算機における実行を除く。)に供する場合
(まいどなニュース・黒川 裕生)