【悲報】地元のおばあちゃんがつくる漬物や梅干しが6月に「道の駅」から消えてしまう!?「いぶりがっこも」
「今年の6月から自家製漬物は販売できない。田舎のおばあちゃんがつくる梅干し、たくあん、キムチが道の駅から消えてしまう」
先日SNSにて話題となった投稿。これは2021年に施行された「食品衛生法」の改正が、今年2024年6月1日から、経過措置期間を終えて全面実施されるため、販売ができなくなる商品が増えるのでは?!……ということを示唆したものです。
「食品衛生法」の改正が全面施行されると、道の駅などで売られているような個人が製造販売していた漬物や梅干しなども、許可制となります。製造者として許可を得るためには、基準を満たした衛生的な製造施設が必要となり、営業許可の取得と、食品衛生責任者の資格取得が義務付けられることになります。
それだけ聞くと「許可を取ればいいだけだよね?」となりそうですが、個人はもちろん高齢者にとってはなかなかの負担です。とはいえ、2023年に世間を騒がせた「デス・マフィン」問題、さらには北海道で2012年に起きた「白菜の浅漬けによる集団食中毒」などを見ると、消費者としては個人が製造する食べ物に関しても、きちんとした衛生基準を満たして欲しいところ。
そんなもどかしい状況を打破すべく、この投稿に「昔ながらの梅干しは、私たちが守っていきます!おばあちゃんたちが梅干しや漬物の販売を続けられるよう、共同で使える製造所を建てることを目標に動いています!」と名乗りを上げた山本将志郎@梅ボーイズ(@umeboys_2019)さんのX(旧Twitter)へのリポストが、話題となっています。
■悩めるおばあちゃんたちに救世主現る
山本将志郎さんが所属する「梅ボーイズ」(@_UMEBOYS_1904)は、梅の産地・和歌山をベースに活動しています。県の名産ともいえる「紀州南高梅の梅干し」も、もちろん規制を受けるため「昔ながらの梅干しは、私たちが守っていきます!おばあちゃんたちが梅干しや漬物の販売を続けられるよう、共同で使える製造所を建てることを目標に動いています!」という希望あるコメントを、今回発信するに至ったそうです。
「困ります!困ります!すっぱいおばあちゃんの梅干しを求めていつも道の駅で買ってます!」
「道の駅って、農家のおばあちゃんがつくった美味しいもの多いのよ~」
「これ、いぶりがっこでも問題になってたような。全国のご当地漬物全部がピンチですね」
「道の駅で手作り無添加の個人名がわかるのは買えなくなるんですか?」
投稿には、多くの人が反応しました。現地の状況を伺うべく、山本将志郎さんに取材させていただきました。
ーー梅ボーイズさんたちは、和歌山で梅干しを製造しているんですか?
「はい、私たちは塩と紫蘇だけで漬ける梅干し屋を、令和元年に創業しました。梅の味がちゃんとする、昔ながらのすっぱい梅干しにこだわっています。塩分濃度が保たれた状態でつくられる梅干しは、塩分濃度がしっかりあることで何年も保存ができるうえ、梅の成分をより引き出すことができるといいことづくし。『こんな梅干しを探してた!』と言われることも多いんです」
ーーわかります!昔ながらの方法で漬けたすっぱい梅干しですね。最近はあっさりした甘いものも多いですが、おにぎりには、あのすっぱい梅干しが合いますよね!
「そういう方もいらっしゃって、すっぱい梅干しを探して私たちの梅干しを買ってくれる方も多いんです。道の駅などにも、そうした地元のおばあちゃんたちが昔ながらの製法でつくった梅干しが販売されていますが、話題となっている『食品衛生法』の改訂で、今後はこれらがどこまで維持されるか、ちょっと分からない状況ですね」
■高齢や個人の製造者には設備投資が重い負担に
ーーこの法律はある意味必要でもあるけれど、行き過ぎると個人製造者を圧迫しますよね。この『食品衛生法』改訂について、どう思われますか?
「多くの方の口に入るものなので、ある程度のルールは必要だと思います。しかし、実際に個人で漬物の製造販売をされている方の多くはご高齢なんです。このような改正についていけず、そのままやめてしまう方が多いのが実情じゃないですかね。
制度の説明や許可取得の手続きについては、自治体のサポートが必要だと感じます。私たちの見える範囲での実感ですが、自治体によってもサポート体制の手厚さには、ばらつきがあるように感じます。設備投資の費用の一部を補助してくれるところもあるようですが、全国共通ではありませんから」
ーー確かに手続きって現役世代でも結構大変なものですし、許可要件を満たすためには金銭的負担もあるんですよね?
「そうです。許可要件を満たす設備を用意するための費用負担が、一番のネックだと思います。特に高齢の方にとっては、今から設備投資をしてまで営業許可を取ろうという気持ちにはならないのでは? この先、何十年もやろうという人ばかりじゃないですし。
漬物で生計を立てるまではいかないまでも、生きがいとして製造販売をしていたような方が、やはり設備面で対応できない状況は理解できます。そもそも直前まで改正を知らず、手続きを大変でやめてしまうという話も。これでは地域から愛されてきた味が失われてしまいますよね。私たちはそれを心配しています」
■地域に伝わる技や味を守り引き継ぐ場として、共同製造場所をつくりたい!
ーーだから、梅ボーイズさんたちは個人の負担を軽くするために、共同製造場所を作りたいと考えているんですね?
「そうです。正直、採算が合うか、トラブル起きた時にどうするかなど課題は山積みですが、全国のおばあちゃんたちの培ってきた技術や、引き継がれてきた大切な食文化を途絶えさせてしまうのは悲しすぎる。だから、共同製造場所を作ってそこで製造を続けてもらえるようにしたいと考えています」
ーー具体的に共同製造場所をつくる計画は、現在どんな状況ですか?
「今いろいろと予定が進行中で、場所は愛知県知多市と神奈川県小田原市が候補です。現地の農家さんや酒蔵さんたちと協力させていただけることになり、面白いことができる気がしています。資金などについても、3月15日にクラウドファンディングをリリース予定。実現に向けて少しずつ、歩みが進んでいる実感があります」
■「梅干し」と「調味梅干し」は実は異なる食べ物です!
ーー山本さんの投稿へのコメントに「添加物入れない所は許可が下りないとかになるんちゃうかなーとか、思ってしまいます」と書かれた方がいましたが、これは実際どうなんですか?
「今年の6月から『食品衛生法』が改訂されても、そのような事態にはならないですね。無添加だから健康被害が起こりやすいということもないですし、私たちはルールの下で梅干しを製造しているので、無添加でも健康被害が発生したことはありません。そもそも、梅干しってきちんと知られていないと思うんです」
ーーどういうことでしょう?
「私たちの製品をはじめ、道の駅などで販売されている多くの梅干しは、原材料が『梅、塩(紫蘇)』だけ。これが本来の『梅干し』です。塩で漬け込み、天日で干すという伝統的な方法でつくったものですね。
でも皆さんがスーパーでよく買われる梅干しのほとんどは『調味梅干し』なんです。この調味梅干しとは、その名前の通りに調味液に漬けてつくった梅干しのことで、梅干しを水やお湯で塩抜きして調味料で味付けしたもののことを指します。塩分が低い一方で、塩抜きする過程で梅本来の味、香り、栄養素が抜けてしまっています。さらに塩分濃度が下がることで保存が効かなくなるため、保存料が使われることも多いです。
ちなみに伝統的な製法でつくられた『梅干し』は、塩分濃度がしっかりあるため、保存料なしで何年も保存ができます。そのため食品規格上、『梅干し』と『調味梅干し』は分類が異なるんです。製品の内容を確認してもらうと、その違いがわかります」
「今の若い人たちは、調味梅干ししか食べたことがない人も多いはず。そもそも昔ながらのすっぱい梅干しに出会う機会が極端に少ないのかもしれないですね。だからこそ、私たちがすっぱい梅干しを広め、梅文化を継承したいと思っています」
ぜひ共同製造所の開設が実現して、多くの昔ながらの知恵や技術が継承されるといいですね。筆者も梅干しは「甘くない」派なので、切に祈ります。こうした動きが全国に広まることを願って!
【梅ボーイズ】
塩と梅だけの伝統的な製法でつくる甘くない梅干しは、全国にファンが多数。製造販売だけではなく、若者の梅農家継承を支援し、梅文化を守る活動もしています。
(まいどなニュース/Lmaga.jpニュース特約・東寺 月子)