ひき逃げされて重傷を負った猫を保護→癌とエイズの発症も判明 獣医師も「近年稀に見る大変な猫」と驚いていたが…?
■交通事故に遭ったまま放置されていた猫
もぐくんは、岡山県内の道路でひき逃げされて怪我していたのだが、たまたま通りかかった人に保護され、保健所に収容された。扁平上皮癌の疑いもあり、エイズ陽性だった。
当時、岡山県の別の愛護センターに、扁平上皮癌の白黒の猫が収容されていた。大阪で重い病気や障害を抱えていたりする猫の保護活動に取り組むwinさんは「その猫と一緒にもぐくんも一緒に引き出すので、面倒を見てくれないか」と打診されたという。
「どちらか1匹を選ぶなんてできなくて、どちらも重症な猫だったので、2匹とも引き出すことに決めました」
2021年7月2日、2匹は岡山から大阪まで陸路で運ばれた。
■近年稀に見る大変な猫やで
2匹は深夜に到着し、winさんが夜間救急動物病院「ネオベッツVR大阪」に運んだ。もぐくんは、顔面や手に怪我を負っていて泥と血に塗れていた。
「診察してもらってから鎮静をかけて頭のレントゲンを撮ってくれる病院を探しまくったけど、全くありませんでした。鎮静をかけるのも危険だと…この子は車に思いっきり衝突され、生きていたのにそのまま置き去りにされました。そもそも、もっと早く病院に連れて行っていたら、センターには入らずに済んだのです」
翌日昼頃、知り合いに紹介してもらった獣医師から電話があり、詳しく説明したところ、「その状況では厳しいけど、補液などはできるからとりあえず連れておいで」と言われた。
しかし、診察した獣医師は頭を抱え、「これは…近年稀に見る大変な猫やで…」。交通事故で大腿骨粉砕しているが、この状態では鎮静下での検査も手術もできない。危険だということだった。
「センターに収容されたのが28日でしたが、10日前くらいに事故に遭っていたことが分かりました。下顎がズレて、骨が見えてしまっている。上顎もダメ。口腔内も潰瘍がある。右眼球吐出は経過観察することに。さらに、エイズ発症や扁平上皮癌の可能性もありました」
食べ物を飲み込むことができないもぐくん。獣医師は言った。
「この子は今苦しい。この苦しみ、痛さを緩和して、少しでも取り除いてあげないとかわいそうだ。とりあえず状態を良くして命の危機から脱出して、オペに耐えられる身体になってから、顎のオペをしましょう。食べられるようにしてあげなきゃね」
winさんは、泣き崩れそうになった。「センターから引き出すときに聞いていた話よりだいぶ悪くて目まいがしました。とはいえ、とにかく、引き出して医療にかけてあげられて良かったと思いました」
獣医師とwinさんはあらゆるパターンを想像して、痛みと苦しみ、呼吸苦、口の中や喉の苦しさ、痛みを取れるだけ取ってあげようという結論に至った。もぐくんと一緒に引き出した猫は、数日から1週間という余命宣告を受けたという。
■奇跡的に回復
その後、麻酔をかけてCTを撮れることになったもぐくん。ネオベッツVR大阪で撮影してもらうと、獣医師が驚くほど状態は悪かった。鼻は2カ所骨折、上顎は縦に割れ、下顎も割れていた。顔面の大きな骨折は合計5カ所。小さな骨折もあり、大腿骨骨折と骨盤粉砕骨折も確認できた。オペ日が決まったので、経鼻カテーテルと強制給餌、二刀流で体力をつけることになったという。
30日、もぐくんはインプラントを入れたり骨移植をしたりする大手術を受けた。インプラントを入れたところは血流がなくなるので、感染症になったり予後が良くなかったりするリスクもあった。
感染症のリスクは高かったが、入院19日目、もぐくんは事故後初めてお皿に突っ込んで流動食を食べ、おかわりまで要求した。winさんは、嬉しくて、嬉しくて泣いたという。
「皆さまの優しい善意の支援の輪のおかげで、もぐが自ら食べています。ホンマにありがとうございました」
22日間入院して、退院後、12月までは常に口輪をして骨やインプラントがずれないように。今は、自分で食べて歩いて、固形物を食べられるようになったという。上瞼の状態が悪い時には目薬を点眼して顔を拭いてあげたり、インプラントや今ある歯が悪さをしないのか経過観察したりする必要がある。関西圏で里親を募集しているという。
人と動物の共生センターの調査によると、2021年の猫のロードキル(路上死)は推計28万9572頭。5年前と比べると21.6%減少しているが、これは殺処分数を遥かに上回る。
winさんは言う。
「もし猫を轢いてしまってパニックになっても助けてあげてください。亡くなっていたら二度轢きされないように責任を取ってください」
(まいどなニュース特約・渡辺 陽)