「自宅に届いたレターパック」→品名にまさかの文字! 元バス運転手、ショックで動けず「これって法的に有効なの?」
「自宅に届いたレターパックライト。
品名に、汚い字で『解雇通知』なんて書いてあったらショックですよね、、、
開封すると、消印が解雇日を過ぎてから投函されてるし、、、」
うつ病などのため休職していた元バス運転手男性が、過去に勤め先の会社から送られてきた封筒の品名に「解雇通知」と書かれていたことを1枚の写真とともにSNS上に投稿、話題になりました。
送られてきた封筒は、日本郵便が提供している郵便サービス「レターパックライト」。受け取りには受領印または署名が不要で郵便受けにそのまま投函されるもの。投稿には「レターパックライトはポスト投函で受取サイン不要なのでダメ」「配達証明付き内容証明郵便が一番確実」「渡し方に法的規制があるの?」などと、会社から「解雇」を伝える方法について、意見が相次ぎました。
「ざっと調べたら、本来解雇通知は配達証明付きの内容証明郵便を送る必要があるようで 本人が受け取ったかどうかの証明が必須。レターパックライトはポスト投函で受取サイン不要なのでダメみたいですね。レターパックプラスや書留は受取サイン必要なのでOK?」
「レターパックで郵送した"書面のみ"の解雇通知なら効力はないけど、口頭で解雇を言い渡した上で、書面だけ別に送るとかなら普通に有効 まぁレターパックなら口頭と証明力は大差ないから送る意味があるかと言われれば謎だけど、効力はある」
「労働基準法20条で特段通知の方法を定めていないことから、レターパックライト(信書の配送可)による郵送で送られた『解雇通知』は、法律上の効力が全くないと言い切るのは難しいのでは。まあ、配達証明付き内容証明郵便が一番確実だと思います」
「レターパックライトではなくレターパックプラスなら簡易書留扱いですか?」
解雇通知書を郵送する場合、普通郵便ではなく受け取り署名などが必要な配達証明付きの内容証明郵便で送ることが通例ですが、郵便受けにそのまま投函される「レターパックライト」などで送ることは有効かどうか。労働問題に詳しい弁護士の木曽綾汰さん(咲くやこの花法律事務所所属)に聞きました。
■レターパックライトによる「解雇通知」は有効? 弁護士に聞いた
──男性が受け取ったレターパックライトによる「解雇通知」が有効かどうか、話題になりました。
「解雇の法的効力としては、解雇しますよという会社側の意思表示が相手方に有効に届くかという効力の問題と、会社側の解雇の意思表示が相手側に有効に届いたとして、その解雇が有効なのかどうかという問題の2点が挙げられます。今回は、会社の解雇の意思表示が有効に相手側に届くかどうかというのが争点。つまり、今回の問題は、会社側が解雇しますよという意思表示がレターパックライトで通知して有効に意思表示として成り立っているかということですが、それは『問題なく有効に届きますよ』というのが回答です」
──レターパックライトで「解雇通知」を送っても問題ないということですが、その根拠は。
「なぜレターパックライトでいいかというと、民法第97条では『意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる』と定められています。相手方に『到達』した時から効力が生じるので、レターパックライトを送ったことで相手に『到達』したといえるかどうかという問題になるわけです。その『到達』という意味は、意思表示されている相手、つまり解雇通知を受け取った人がレターパックライトの中身が分からなくても、その人が知ろうと思えばいつでも知ることができる状態になったら、民法第97条に定められた『到達』とみなされます」
■解雇通知を受け取り「不当解雇」だと思った場合は
──その人が知ろうと思えばいつでも知ることができる状態というと?
「レターパックライトが郵便受けに投函された場合、その郵便受けを設置している家に住んでいるのであれば中身をすぐに確認できる状態です。書留やレターパックプラスのように直接受け取らなくても、郵便受けに投函されればその人が知ろうと思えばいつでも知ることができる状態にあるわけですから、その時点で法的に意思表示が到達したものとされます。ですので、レターパックライトや普通郵便で送っても意思表示は有効に相手方に到達します。解雇通知の手段は関係なく、口頭でも問題ありません」
──また封筒の品名に「解雇通知」と書いても問題ないのでしょうか。
「受け取った側がどう思うか、道徳的にどうなのかという問題はありますが、法的には問題ありません」
──男性は「不当解雇」と訴えています。
「解雇通知を受け取った際に労働者側としてとる方法は3つあります。1つ目は話し合いによる解決方法。不当解雇を認めるか認めないかは分からないですが、その中で金銭的解決や解雇を取り消してまた働きましょうといった解決を探るものです。2つ目は労働審判。裁判所で行われる手続きで、期日は3回までと決められています。3つ目が裁判を起こして白黒つける方法。労働審判と違って回数に制限がないため、決着がつくのが平均的には1年くらいかかることがほとんどです。
ただ裁判となると裁判所に出てお互い対立することになりますから関係が悪化する可能性が高く、解雇を取り消してまた働きたいとなると得策ではありません。まずは話し合いをして解決できなかった場合に、労働審判か裁判を起こすことになります。労働審判か裁判のどちらを選ぶかは、第三者に間に入ってもらうことで話し合いで解決する余地があるなら労働審判、そうでないなら裁判を選ぶのが良いでしょう」
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■元バス運転手「入社当時からパワハラや嫌がらせを受けていた」うつ病で休職していたが…突然の「解雇通知」に動揺
今回レターパックライトで「解雇通知」を送ってきた会社に7年ほど勤務したという元バス運転手の男性。この男性によると、入社当時から年功者による無視をはじめ、胸ぐらをつかまれたりロッカーに入れてある私物を壊されたりとパワハラや嫌がらせを受けてきたとのこと。2019年には社内でパワハラを受けていたとみられる同僚が裁判を起こすため、代理人の弁護士が会社側に内容証明を送ったことで、男性が同僚に「知恵をつけている」と責められ、職場のロッカー内に「おまえをやめさせるのは簡単なんだぞ、運転できなくしてやろう」などと脅迫文を入れられたといいます。
こうした一連の行為を男性は「パワハラ」「嫌がらせ」と感じてうつ病になり休職。その後、労働基準監督署に労災申請を行ったものの、労災不支給に。そこで、労基署を管轄する労働局の労働者災害補償保険審査官に対して審査請求を行ったとのこと。しかし、審査請求をしたものの不支給決定が覆らなかったため、労働保険審査会に対して再審査請求を行いました。これも棄却となったそうです。
さらに男性は、2021年3月に膀胱(ぼうこう)がんと診断され、闘病の身に。そして翌年の8月下旬、休職中に事前通告もなく会社側から「解雇通知」の封筒が届いたといいます。
「がんの治療から帰ってくると、郵便受けにレターパックライトが入っていて。品名をみると『解雇通知』と書いてあり、あまりにもショックで立ち尽くして動けなくなりました。レターパックの中身は、解雇通知だけが入っていました。送り状などはありません。解雇日は、8月20日になっていたのですが、レターパックライトに押されている消印は8月22日で、私が受け取った日は8月24日だったので、なぜ解雇日を過ぎてから送られてくるのかいらだちを感じました。
それから半月ほど経った9月7日に営業所から届いた封書の中に、8月22日付の『休職期間満了に関する予告通知』が送られてきました。おそらく本来ならば(休職期間満了に関する)予告通知がきてから解雇通知を送るのが筋なのではないかと思いましたが…正直驚きました」(元バス運転手の男性)
病気やけがによる就労不能の場合、一定期間の休職制度が設けられており、休職期間満了までに復職できない場合は、雇用関係を終了すると多くの会社の就業規則に書かれています。今回の男性のケースも、会社側は休職期間満了を理由に解雇したとみられます。現在、男性は「不当解雇」と訴え続け、まずは労災不支給に対する行政訴訟の準備を進めているとのこと。もし労災不支給が取り消しとなれば、会社側に解雇の無効を求めて訴訟を起こす予定とのことです。
(まいどなニュース特約・渡辺 晴子)