初代ネコ駅長りょうまへ お空から2代目駅長&副駅長を見守ってね 2匹が招く笑顔の輪 存続危機のJR芸備線に明るい話題 「どうか力を貸して」
JR芸備線志和口駅前(広島市安佐北区白木町)で17日、初代ネコ駅長りょうま(オス、推定14歳で没)の後を継ぐ2代目駅長「やまと」と、初代副駅長「ちどり」(ともに生後11カ月のオス)の就任式が行われ、300人をこえるファンらと、テレビ、新聞など報道陣6社が集まった。2019年2月、りょうまが天国へ旅立って5年。待望の2代目誕生に地元の人たちからは「(存続危機にある)JR芸備線の利用促進に一役買ってほしい」との期待の声も聞かれた。
初代りょうま駅長を看取り、やまと&ちどり兄弟の世話をしている、りょうま駅長記念館館長で「りょうまを偲ぶ会」会長の中原英起さん(78)は、会のスタッフとともにこの4年間、広島県内を東奔西走し、2代目候補猫を探して回った。その数100匹以上になるという。
「りょうまはこの駅に自ら住み着いて、駅の利用客に人なつこく接し、誰からも愛された100点満点の猫でした。そんなりょうまに勝てる猫はいませんが、比べるのではなくて新たな魅力を2匹に感じてもらえたらと思っています。やまととちどりは人に慣れていて兄弟仲がすごくいいことが抜擢の決め手となりました。争いや不和の連鎖がたえない今の時代、仲睦まじいということはとても大事なことだと思うんです」(中原さん)
2代目駅長のやまと、初代副駅長のちどり兄弟は昨春、白木町内の民家で生まれた。地元の人が保護して去勢手術を施し、地域猫として暮らしていた。今年1月、2匹を後継猫に決めると、中原さんら有志は「ネコ駅長二代目準備委員会」を立ち上げ、りょうまの命日である2月12日に2匹の名前を26候補の中から決定。適正な飼育の仕方を検討し、グッズも作るなど、地域の人たちで力を合わせ、17日のお披露目に向けた準備を重ねてきた。
ストレスを与えず快適に過ごせるよう、駅舎内ではなく志和口駅前にあるりょうま駅長記念館内に専用の大きな猫部屋を設け、2匹はそこで完全室内飼いされている。中原さんや担当スタッフが毎日世話をしており、来場者は猫部屋の外から2匹の暮らしぶりを眺めることができる(記念館の開館は、土日祝日10時から16時のみ)。
17日の就任式には300人をこえるファンらが全国から集まった。「これだけの人が駅に集まるのは初めて」(中原さん)というほど。式の途中、2匹は中原さんやスタッフに抱っこされて一瞬だけ観衆の前にお披露目されたが、ちどりは人の多さに驚いた様子。すぐに猫部屋へ戻された。代わりに人スタッフが任命書を受け取った。
地元選出の斉藤鉄夫国土交通大臣も来賓として出席。祝辞では「多くの候補の中から選抜されました2代目駅長のやまとと副駅長のちどりには、その人なつっこい性格を存分に生かしていただき、りょうまのあとを継ぎ、この志和口駅を、ひいては芸備線沿線をはじめとする地域全体を盛り上げていただければと思います」と述べた。
県内だけでなく遠方から駆けつけた人も。鹿児島市内からやってきた50代の女性は「8年前、りょうまに会いにきたことがあり、りょうまが亡くなったときに開催された偲ぶ会にも来ました。2匹はとてもハンサムですね。ふだん保護猫活動をしているので、これからの2匹の活躍が楽しみです。りょうまに近づけるよう、一人でも多くの方に笑顔を届けられる猫ちゃんになってもらいたいです」
また、仙台市内から来た男性(21)は「りょうまのことを知ったのは亡くなったあとだったので、2代目が決まったらぜひ訪れたいなと。芸備線の存続が言われているなか、今日は来られてよかったです」と話していた。
初代のネコ駅長・りょうまは2010年ころ志和口駅に現れ、住み着いた。列車が駅に到着すると改札口で利用者の出迎えや見送りをする愛らしい姿が話題になった。住民の中から「この子は人を怖がらないし、顔も凛々しいから、和歌山のたま駅長のようなネコ駅長になってもらったらどうじゃろうか」との声があがり、2012年11月、志和口駅のネコ駅長に就任した。
以来、「りょうまに一目会いたい」と全国からファンが来訪。志和口駅は1日の乗降者数500人程度の小さな駅だが、当時、同駅長だった中原さんがりょうまの世話をし、記念写真を一緒に撮ったりグッズを配ったりして観光客らをもてなした(現在、志和口駅は無人駅)。
2019年2月、病気で息を引き取るまでに、りょうまはのべ1万9300人を同駅に招いた。「りょうまはたくさんの人を招いてくれただけでなく、りょうまの話題をきっかけに会話が弾むなど、住民同士の交流を深めてくれた存在でもありました」と中原さんは振り返る。
りょうまなきあとも、毎年カレンダーが完売するなど、人気が衰えることなかった。同年7月、地元の人たちの要望で志和口駅前に功績をたたえる石碑を建立。2022年7月には同駅前の民家を改装し、遺品や写真などを展示した「りょうま駅長記念館」がオープンした。今年1月までに2300人が来場している。2代目を待望する地元の人たちの声は年々高まっていた。
やまと&ちどりの2匹が暮らす猫部屋は4畳ほど。キャットタワーやキャットウォーク、隠れ場所なども備え、のびのびと過ごしている。今年1月、2匹がここに移り住んでからというもの、駅を毎日利用する子どもや大人たちが立ち寄ったり、知らない人同士会話が生まれたりといった光景が見られるようになった。
網越しに猫じゃらしで2匹と遊ぶ人、かつて自分が飼っていた猫の思い出を語り始める人、おやつをプレゼントに持ってくる人、猫の俳句を詠みはじめる人なども。また、2匹とここで出会ったことがきっかけで「自分も何かできることをしたい」と中原さんの活動を手伝うようになった地元在住のスタッフも数人いる。猫が繋ぐご縁や輪が少しずつ広がりつつあるようだ。
芸備線は現在、存廃問題で揺れているローカル線。26日には、存続について関係者らが話しあう全国初の再構築協議会が開催される。
「乗って残そう」と呼びかけている中原さんは「このまま乗客が減り続ければ、山間部だけでなく、将来この志和口駅を含む区間も存続が危うくなる可能性は十分ある。先代のりょうまのように、やまととちどりが地域の人たちを元気づけ、たくさんの方が芸備線に乗って2匹に会いにきてくれたら」と話していた。
(まいどなニュース特約・西松 宏)