「海外行くからもう飼えない」見放されたトイプードルは余命1年の膀胱がん 「生の時間を光あるものに」全てを受け入れる里親さんが現れた
「海外に移住するから飼えなくなった。このワンコ引き取ってほしい」
こういった依頼が保護団体にはよく寄せられます。ですが、移住先を聞いてみると特に発展途上国ではなく、ペットと一緒に暮らすことができる物件がありそうな国です。
愛知県を拠点にワンコの保護活動を行う団体、一般社団法人SORA小さな命を救う会(以下、SORA)に2023年秋、「海外移住するので飼えなくなった」というトイプードルのシニア犬が持ち込まれました。名前はアリストくん。数多くのワンコを世話してきたスタッフから見て、明らかにネグレクトを受けていた様子。保護当初、かなり衰弱しており血尿もみられました。スタッフはすぐに動物病院へ連れていき、獣医師に診てもらいました。
■診断結果は「膀胱がん。余命は長くても1年」
診断の結果は「膀胱がん」。胆嚢の胆泥も大量で、シニア犬であることからも手術できる状態ではないそうです。そして「長くても余命1年だろう」と。
「海外に移住するから」と去った飼い主は、アリストくんのこの状況に気づかなかったのでしょうか。がんがここまで進行するまで放置したことに憤るばかりですが、恨むことでアリストくんの健康が戻るわけではありません。SORAのスタッフはアリストくんが安心して過ごせるよう、献身的な世話を続ける覚悟を決めました。
■これまでに寄せられた寄付などで医療費を捻出
アリストくんの通院や治療、がんの進行を遅らせるための投薬には相当な費用がかかります。これまでにSORAに寄せられた寄付や支援金で捻出することにしました。合わせて「最期こそアリストくんが本当の家族に見守られながら旅立ってほしい」とアリストくんの里親募集も始めました。
通常は「譲渡金」がかかるものですが、SORAが設けている特例医療費制度を適用し、譲渡金の負担がかからないように設定。さらに迎え入れてもらった後も、特別な治療を行わなくて良いことを配慮し、広く募集をすることにしました。
■やがて笑顔を取り戻してくれた
スタッフはアリストくんに対し、前述のような医療ケアだけでなく、トリミングをしたり、他のワンコと触れ合ってもらったりと、生きる喜びを少しでも感じてもらおうと日々世話を続けました。アリストくんは少しずつ本来の性格を出し、笑顔を見せてくれるようにもなりました。
そんなアリストくんにスタッフの胸に熱いものがこみ上げました。「動物の表情は正直なものです。『楽しいよ』って言ってくれているのがよくわかります」と、スタッフはアリストくんを思いっきり抱きしめました。さらに元気を取り戻し、散歩や遊んだりすることができるようになったアリストくんはSORA主催の譲渡会などにも参加し、来場者の心を癒す人気者になりました。
SORAではアリストくんの里親募集をし続けました。「余命1年」というワンコを迎え入れる人はそう容易に現れないことはスタッフもわかっています。しかしスタッフが諦めませんでした。
■「最期を看取る」という里親希望者さんが現れた
里親募集から数カ月後、奇跡が起きました。「アリストくんを迎え入れたい」「最期を見届けたい」という人が現れたのです。
スタッフは顔がクシャクシャになるほどに喜びました。スタッフの表情を感じ取ったアリストくんも「僕のことで喜んでくれているのかもしれないな」とその表情をさらに笑顔でいっぱいにしてくれました。
里親希望者さんは「どれだけの時間かはわかりませんが、アリストくんにたっぷりの愛情を注ぎ、最期は安心して旅立ってくれるようにします」と迎えてくれました。
SORAのスタッフはもちろん、多くの支援者たちの思いが一つになった瞬間でした。アリストくんは現在、この優しい里親さんのもとで、安心した表情で過ごしているそうです。1日でも長く、アリストくんの幸せな時間が続くとを祈るばかりです。
一般社団法人・SORA小さな命を救う会
https://sora-chiisana.org/
(まいどなニュース特約・松田 義人)