大谷翔平の元通訳・水原一平氏の違法賭博問題「試合そのものへの信頼が失墜」 専門家が解説「膨大な地下市場が存在、対岸の火事ではない」
ドジャース大谷翔平選手の通訳を務めた水原一平氏が違法なスポーツ賭博(スポーツベッティング)に関与し、複数回に分けて450万ドル(約6億4千万円)の送金をしていた問題。胴元のマシュー・ボウヤー氏は、3年前にホテルで開催されたポーカーの賭場で水原氏に接近したと言われているが、彼らの目的は本当に大谷の金だったのか。スポーツ賭博などの事情に詳しい国際カジノ研究所長の木曽崇氏がこのほど、Xで見解を述べた。
■合法的なスポーツ賭博における八百長検知システム
実は米プロバスケットボールNBAが、スポーツ賭博との関連が疑われる不審プレーを調査していることを毎日新聞が3月26日に報じたのだが、木曽氏によると、こうしたスポーツベッティングは野球のみならず、バスケやアイスホッケー、アメフトなどさまざまな競技が対象になっているという。
「合法的なスポーツベッティングでは、八百長が疑われるような不審プレーをさせないよう、検知システムが導入されています。どのようなシステムかというと、八百長の前には必ず不審な賭けがあります。『この人が八百長をする』ということを知っている人が、どこかのタイミングで告知を受けて、ダーッと賭ける。オッズが急に上がり下がりするので、不審プレーがあったのではないかと検知されます。検知後は、各スポーツ団体に告知が行って調査の対象になりますが、この時点では八百長があったかどうかは確定しているわけではありません。検知システムは、不正を防止するためのものであり、選手にとっては抑止力になります。自分のプレーが常にオッズの面でシステム的にトラッキングされていて、悪いことをすると検知、告知されます。選手もそれを分かっているので、八百長に関与しないよう自身を抑制できるのです」
■目当ては大谷の金ではない
木曽氏によると、大谷選手の件は、単なる水原氏の窃盗もしくは横領、違法賭博をしたという問題に留まらないという。
「通訳の水原氏の問題だからといって、今回の問題が矮小化されるわけではありません。水原氏も八百長に何かしら関与している可能性がある。水原氏は球団スタッフですから、球団スタッフしか知り得ない試合に関する機密情報を知っています。例えば、大谷の登板情報や、大谷が日々喋っている『今日は肩の調子が良くない』とか『腰が悪い』という個人情報を持っています。スポーツ賭博をやっている業者は、こういう情報が当然欲しいわけです。機密情報を手にすると、彼らは自分たちが設定するゲームを有利に作れます。いわゆるイカサマ賭博の形成が可能になっていきます。水原氏は選手ではないのでプレーに直接関与するわけではありませんが、彼が持っている情報をそのものに価値があるのです」
さらに、違法賭博の業者は、スポーツ関係者に、借金を返済してもらうという前提で貸し付けていないという。
「到底返済できるわけがない何億円もの金を貸し付けて違法賭博に関与させ、その先にあるイカサマや八百長に誘導していく。一種のツールとして巨額の負債を負わせます。水原氏のような人を仕立て上げ、そこから機密情報を引っ張り出していく。水原氏を中核としながら、他の選手や球団スタッフを違法賭博に取り込んでいくのです。借金をさせて型にはめ、それぞれの球団に対して自分の力を波及できる環境を作っていく。そうしたものを作って、八百長やイカサマ行為をコントロールしていくのが違法賭博の問題です」
木曽氏は「違法賭博への関与が判明すると、チームやリーグはもちろん、試合そのものへの信頼が失墜する」と指摘する。
「いろんな疑惑が生まれてきます。果たしてあの時どうだったのかとか。例えば、水原氏は数カ月前まで大谷と一緒にエンゼルスにいたので、疑惑は基本的にドジャースよりエンゼルスに向いているはずです。水原氏は違法賭博の胴元とポーカー大会で知り合ったと言われていますが、そのポーカー大会にエンゼルスの関係者が関与していますし、水原氏の他にも胴元と関係を持っていた人がいるのではないかと疑われています。すると、『エンゼルスの成績ってどうだったのか』という話に必ずなってきます。大谷選手は最優秀選手賞とかを総なめにしていますが、エンゼルス自体は成績が振るわず、決して強いチームではなかった。大谷選手は頑張っていいプレーをしたのですが、その他の選手やスタッフは本当に大丈夫なのかという疑惑が生まれます」
一度疑惑が発生してしまうと、払拭するのはとても難しい。
「八百長はなかった、イカサマはなかったということを証明するのはとても難しいことです。日本の大相撲でも度々問題になりますが、“無気力試合”を外形的に認定するのはとても難しいのです。野球で言えば、 本来1塁で刺せそうなギリギリのシチュエーションで、 あえて2塁への送球を選択した場合、 それが“無気力”によるものだと第三者が証明することは困難です。だからこそ、メジャーリーグは、八百長やイカサマの防止機能として違法賭博に関与したり、プレイ種目にベットしたりしてはいけないとMLBの規定に定めているのです」
■対岸の火事ではない
日本ではスポーツ賭博は違法だが、主にイギリス系の業者が日本のあらゆるスポーツを賭博の対象にしている。木曽氏は、好むと好まないに関わらず、日本のスポーツは欧米各国のスポーツベット業者の賭けの対象として扱われていると言う。
「オンラインベットも行われていて、もはや違法な賭博は国境を超えて提供されています。カリフォルニア州だけの問題だと考えてはいけません。カリフォルニア州ではスポーツベットが合法化されておらず、それゆえに膨大な地下市場が存在しており、今回の騒動が起こりました。日本にも、何年も前から違法な賭博を推奨する業者がいて、その先にいる八百長をマッチする業者のターゲットになっています。決して対岸の火事だと侮ってはいけません」
(まいどなニュース特約・渡辺 陽)