JR神戸線・普通しか止まらない駅なのに「甲子園口行き」がある不思議 いえいえ、かつては甲子園口行きばかりでした
先日、JR東西線・北新地駅から自宅へ帰る際、たまたま普通甲子園口行きに乗りました。普段、JR東西線からJR神戸線(東海道・山陽本線)方面は西明石行きが一般的なため、「甲子園口行きか、珍しいな」と思いました。なぜなら、甲子園口駅は新快速・快速が停車しない、普通のみが停まる駅です。なぜ、甲子園口行きの設定があるのでしょうか。
■普通列車しか止まらない甲子園口駅とは
甲子園口駅は兵庫県西宮市にあります。「甲子園」を名乗っていますが、阪神甲子園球場の最寄駅ではありません。阪神甲子園球場の最寄駅は阪神甲子園駅です。
甲子園口駅は1日乗車客数は約15000人で、普通列車しか停車しません。そのような甲子園口駅ですが、同駅始発・終着の列車が設定されています。甲子園口駅始発列車は土休日ダイヤの6時台の上り(尼崎方面)2本、甲子園口駅終着列車は平日23時台下り(神戸方面)1本と土休日ダイヤの6時台下り2本・23時台下り1本です。この他、緊急時に甲子園口駅折り返し列車が設定されることがあります。
筆者は先述のとおり甲子園口行きに乗り、そのまま甲子園口駅まで乗り通しました。甲子園口駅着は23時53分で、10分ほど寒風吹きすさぶホームで待ち、24時03分に普通西明石行きに乗りました。
なぜ、甲子園口行きが存在するのか。それは折り返し設備があるからです。甲子園口駅2番乗り場は折り返し線として使われ、神戸方面の下り普通列車は1番乗り場を使います。大阪~西明石駅間(55.9キロ)において、下りから上りへ折り返せ、かつ折り返し専用線または引上線がある中間駅は尼崎駅・甲子園口駅・神戸駅です。そのため、甲子園口駅は運用上において、大変貴重な駅です。
■なぜ甲子園口駅に折り返し設備があるのか
次の疑問として浮かぶのは「なぜ甲子園口駅に折り返し設備があるのか」ということです。この問いに回答するためには国鉄時代まで遡らないといけません。
そもそも、国鉄時代は甲子園口駅折り返し列車が日常的に見られました。1985年以前の普通列車の運行系統は京都~甲子園口間、吹田~西明石間を基本としていました。
当時、東海道・山陽本線の複々線区間では新快速も内側線(電車線)を走行し、外側線(列車線)は特急列車・急行列車や貨物列車向けでした。しかし、阪神間において普通列車が待機できる駅は芦屋駅しかありませんでした。京阪間も高槻駅のみであり、大阪駅は余裕なしといった状態。つまり、現在のように複々線をフルに活かせる環境ではなかったのです。
次に普通列車に使われた電車の性能の悪さが挙げられます。1982年以前は103系の独壇場でしたが、下りの一部の普通列車は待機駅の芦屋駅まで優等列車から逃げ切れないダイヤでした。103系は最高速度100キロですが、高速域に達するまでに時間を要すことが悩みの種でした。そのため、優等列車に追いつかれる前に甲子園口駅での折り返しを余儀なくされたのです。
1983年に車両性能が優れた201系が登場し、1986年11月ダイヤ改正で新快速が外側線を走るようになり、内側線に余裕が生まれました。この改正により、甲子園口駅折り返し列車は神戸駅まで延長と相成ったのです。現在、折り返し列車は須磨駅まで延長されています。
甲子園口駅2番線は高校野球開催時の臨時列車・団体列車の入線でも知られていますが、一方では国鉄時代のダイヤの面影を残す設備でもあるのです。
(まいどなニュース特約・新田 浩之)