『光る君へ』藤原一族のブラック担当・道兼役の玉置玲央…名字の不思議 ルーツの和歌山から離れるほど「たまき」→「たまおき」に

NHK大河ドラマ「光る君へ」に登場している、藤原三兄弟の二男の道兼(道長の兄)。

ドラマでは初回にまひろの母を殺害、さらに円融天皇に毒を盛ったり、花山天皇を騙して出家させたりと、藤原一族の中でブラックな役割を担当している。この道兼を演じているのが俳優・玉置玲央である。

「玉置」には「たまき」と「たまおき」という2つの読み方がある。ともにメジャーな読み方で、歌手の玉置浩二は「たまき」と読む一方、司会者として有名だった玉置宏は「たまおき」だった。

この「玉置」という名字のルーツは和歌山県にある。紀伊国牟婁郡玉置(現在の和歌山県新宮市熊野川町)がルーツで、紀伊国の古代豪族紀国造(きのこくぞう)氏の末裔とされる。

「玉置」という名字は現在でも和歌山県に集中しており、とくに日高地方に多い。この地名は「たまき」と読み、日高郡内では「玉置(たまき)」が最多の名字である。つまり、「玉置」は本来「たまき」だった。

しかし、「玉置」と書いて「たまき」と読むのは難読である。地元では地名もあり、「玉置(たまき)」さんの数も多いため普通に「たまき」と読まれるが、ルーツの場所から離れると「玉置」を「たまき」と読むのは難しい。そこで、漢字本来の読み方に従って「たまおき」とも読まれるようになった。

現在は、和歌山県の隣の奈良県ではほとんど「たまき」と読むものの、大阪府では「たまき」は7割強、京都府では6割強と、ルーツの地から離れるに従って次第に「たまおき」さんの数が増えて来る。そして、岐阜県では「たまおき」の方が多くなり、関東や東北、北海道では「たまおき」が主流となる。玉置玲央は東京の出身で、名字の読み方は「たまおき」である。

一方、西日本でも中国地方や徳島県ではまだ「たまき」が多いが、愛媛県ではほぼ半々ながら「たまおき」が逆転、九州では「たまおき」のほうがかなり多い。全国を合計すると4分の1ほどが「たまおき」である。

こうした傾向は他の難読名字もみられる。栃木県茂木(もてぎ)をルーツとする「茂木」さんは、ルーツに近い北関東や長野県、一族が移り住んだ秋田県では「もてぎ」が多いが、それ以外の地域では「もてぎ」とは読みづらく、「もぎ」とも読むことが多い。

◆森岡 浩 姓氏研究家。1961年高知県生まれ。早稲田大学政経学部卒。学生時代から独学で名字を研究、文献だけにとらわれず、地名学、民俗学などを幅広く取り入れながら、実証的な研究を続ける。NHK「日本人のおなまえっ!」にコメンテーターとして出演中。著書は「47都道府県名字百科」「全国名字大事典」「日本名門名家大事典」など多数。

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