松岡修造さんからわが子のスポーツに熱くなる保護者へ「試合のビデオを撮って親が指示するのはやめて」

スポーツキャスター、解説者としておなじみの松岡修造さん。プロテニスプレーヤーとして活躍後、ジュニア選手の育成に長く携わっています。

3月に高知を訪れた松岡さんに、子育てウェブメディア「ココハレ」が独占インタビュー。「褒める」「個性」「ルール」などをキーワードに、子育てを語ってもたいました。「壁にぶち当たって、殻を破っていく瞬間に人は変わる」「大人が子どもを本気で褒めてる?」。“熱い男”が語る熱い子育て論をお届けします。

松岡さんは、高知市で3月に開かれた「第4回ノーバリアゲームズ ~#みんなちがってみんないい~」に参加するため、高知を訪れました。「ノーバリアゲームズ」はWOWOWのパラリンピック・ドキュメンタリーシリーズ「WHO I AM」から生まれたユニバーサルスポーツイベントです。松岡さんは第1回からMCを務め、性別、年齢、国籍、障害の有無を問わない多様な参加者たちがチャレンジする様子を盛り上げています。

■ジュニア選手に相談されたら、「WHY」を投げ掛ける

松岡さんは高知に来る前日まで、ジュニアの強化選手の合宿に参加していたそう。

松岡さん:テニスって、世界的なスポーツであり、個人的なスポーツ。世界で活躍するなら、低年齢から世界に行かないといけない。1人で英語をしゃべれないといけないし、何をしたいかが表現できないといけない。それって、日本人にとっては最も不得意分野です。錦織選手、西岡選手、トップ100に入ってる選手たちに、僕は低年齢から携わることができた。彼らにとって最も嫌なこと、タフなことが、自分の思いを表現していくことです。

--ジュニアの選手にどんなふうに関わっていかれるんですか?

松岡さん:何か相談されたとしても、僕は質問しかしないんですよ。

--質問のみ、ですか。

松岡さん:紙を1枚持って行って、言われたことをずーっと書いていく感じですね。そして、「これについては、どうして?」と「WHY」を投げ掛けていく。最終的には、答えを自分で持っているんです。そこで出た自分の答えであれば行動しやすいし、自分の力として動けるんですけど、僕が最初から答えを出したら、それは人の言葉。うまくいっても、壁に当たると、またすぐ聞くでしょうね。

--うーん、親はすぐに答えを出しちゃいがちですよね。

松岡さん:大人がすぐに答えを出すと、自分で決断できない人、大事な時に動けない人になってしまうんじゃないかという不安があります。

--確かに。

松岡さん:テニスで世界のトップに行ってもらうのは、うれしいですよ。一つの目標と思ってますから。でも、9割以上の子はテニスの生活をしていかないわけです。テニス以外の、いろんな仕事を全うしている子どもたちが、昔感じていた「諦めない」「自立する」「チャレンジする」という思いとともに成長している姿を見るのが、僕にとっての一番の楽しみです。

■試合のビデオを撮って親が指示…「一番やめてほしい」

ジュニアの選手を育てる上で、親への働きかけも大事だそうです。わが子にスポーツをさせているお父さん、お母さんへのアドバイスとは。

松岡さん:昔、親に対しての合宿も行っていました。僕が親御さんに「一番やめてほしい」と伝えたのが、試合のビデオを撮って、親がいろいろ指示を出すことです。

--それは…やりがちです。

松岡さん:最も難しいんですよ。僕ら指導者でも、子どもにたくさんのことを言ったら情報過多になるし、指導にはポイントがあって、そこをどうやって見極めて指示するか。親であって、テニスもそれほどしていなかったら、「なんであなた、ここでミスしたの?」「なんでここで下向いてるの?」。基本的に責める感覚、いいポイントを見極めないまま終わってしまう可能性がある。

松岡さん:褒めるのはすごく大事だと思います。日めくりカレンダーで「ほめくり」っていうのを出したんですよ。褒めるって、思ってもいないのにできないなと。

--なるほど、親が思っていないのに褒めても、子どもたちには伝わらない。

松岡さん:大人が、子どもたちに本気になって大事なことを伝えるというのは、厳しく聞こえるかもしれない。でも、ある意味、僕にとっては「君は成長できるんだ」っていう、褒めてる感覚にも近いんですよ。

--「褒める」と「厳しい」は、離れているように感じます。

松岡さん:おだてたり、「良かったね」では人は変わらないと思います。すごく厳しくて、壁にぶち当たって、殻を破っていく瞬間に人は変わるというのを僕は経験しているし、指導の中で見てきたことなので。褒めることと、本当の意味での、本気の情熱のある伝え方があれば、多分子どもたちは分かるんですよね。もっと欲してるかもしれないし。

話題はテレビゲームの話へと移りました。

松岡さん:僕、テレビゲームは悪いと思っていないんですよ。視力の問題やゲーム脳と批判される部分もありますけど、鍛えられる部分もありますから。今はeスポーツもあって、僕も取材しました。

--「ゲームはなるべくやらせたくない…」と親は思っちゃいます。

松岡さん:目指すのは、テレビゲームよりも面白い地上でのゲームです。スポーツもそうですが、地上でのゲームは自分が動いている生ものだから、それに勝るものはない。ゲームにはまっている子どもに対しては、それ以上のものを探せてないという捉え方です。あとはルールでしょうね。ルールって、子どもたちだけで決められるのかな?でも、この間取材したからねぇ…。

--松岡さんが認可外の学校を取材されているのを、テレビで見ました。子どもたちが何でも自主的に決めていく様子が印象的でした。

松岡さん:全部子どもが決めるんですよ。授業の内容も全部。でも、ルールはあるんですよ。子どもたちに責任があるから、自分たちで決めたルールがより厳しい。これは本当に自立していくなって。

--「個性」と「ルール」って相反するものと捉えられがちですが、「基本」という意味でのルールはないといけないですし、ルールがあると、子どもたちは面白さを感じて成長していけるんですね。

松岡さん:僕は自分で言うのも何ですけど、人から見たらちょっと若い感覚がある。僕の周りにいる人は迷惑かもしれない。僕自身が子ども的なところがあるから。

--(笑)。

松岡さん:それはジュニアや子どもたちに携わっているから。子どもたちのエネルギーは僕に大きな力をくれるんです。お孫さんのいるご年配の皆さんも含めて、子どもと一緒にいる時間ってすごく大事。子どもは最初は基本、「無理」って言わないから。年齢とともに諦めるんじゃなくて、やってみる。そのきっかけは子どもがくれるんじゃないでしょうか。

■子どもの安全地帯を広げていきましょう

あらためて、親の役割とは?

松岡さん:僕がジュニアたちによく言うのが「君たちは安全地帯にいるんだ。何があっても、どんな失敗をしようが、親が絶対守ってくれるぞ。支えてくれるぞ。だから、好きなことをやれ」。もちろん、全員の親がそうではないかもしれませんが。この言葉を発すれば発するほど、自分も守る力や支える力が大きくなります。

--子どもを守る力に、支える力。

松岡さん:安全地帯を広げるのが、親の役割かもしれないですね。今はどんどん狭めたい。怖いとか、危険とか。子どもにうまくいってほしいから、先に道をつくっちゃうんですよね。

--先回りはよくないと分かりつつ…。

松岡さん:ジュニアの親御さんからも「この子をこうしたい」「こうやったらうまくいく」という話があります。でも、僕は聞きません。それは親が考えていることであって、子どもが本当に何をしたいのかが大事。

親から子へ、大事なことを伝えていく際のポイントも語りました。

松岡さん:一番の教育は「気付き」ですよね。「アハ体験」。その子が「あっ!」と気付く瞬間。若い女性とおばあさんの両方が見える絵があります。「若い女性に見えた!」「おばあさんに見えた!」で「あーっ!」ってなりますよね。あの感覚が大事だと思っています。

--発見すると、熱くなりますね。

松岡さん:発見した感覚は、一気に変わる瞬間です。あと、「ちょっとできた」という「ミニ・できた」。自分の中でちょっとできたことを「ビッグ・できた」というふうに捉えられるかです。

--変われる瞬間を、大事な瞬間として自分で捉えていけるかということですね。

松岡さん:「できたじゃないか!」と伝えた時に、「いやー…」と答える子がいたら、僕むちゃくちゃ怒る時があるんです。「何でだ!」「ちょっとでもこんだけ変わった自分を、君は何で喜べないんだ!」って。子どもからしたら、「なんで怒られるんだろう」みたいな(笑)。

--それは確かに(笑)。親として、子どもが気付く瞬間を大事にしていきたいと思います。

(まいどなニュース/ココハレ)

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