2歳の息子は希少難病「クリーフストラ症候群」 情報少なく国内の患者数も不明…認知と理解求めて、当事者家族が“家族会”を立ち上げるまで
いつか、親である私たちがいなくなった時、クリーフストラ症候群の息子が理解されながら暮らしていけるよう、病気の認知度を高めたい。兵庫県在住の千田貴愛さんは、そんな思いを胸に病気の周知に取り組んでいる。
息子・泰輔くんは、遺伝子の欠損や遺伝子配列の変異によって遺伝性の精神神経疾患が見られる、クリーフストラ症候群。この病気は研究が進んでおらず、国内の明確な患者数や治療法は不明。発達遅延や知的障害、先天性心疾患など、現れる症状の個人差が大きい難病だ。
■先天性内反足を持つ息子が「クリーフストラ症候群」と判明して
今年2歳になる泰輔くんは、足首から下が内側に曲がる「先天性内反足」を持って生まれてきた。加えて、聴力検査では難聴が判明。県立のこども病院を紹介され、生後4カ月の頃、先天性内反足の治療として、足首の可動域を広げるため、アキレス腱を切る手術を受けた。
術後、医師から内反足の角度に違和感を覚えたと言われ、複数の先天性疾患があったことから遺伝子解析を勧められたそう。そこで貴愛さんは医師と相談し、我が子が月齢に適した成長をしているか見守りながら、遺伝子解析を検討することに。
すると、泰輔くんは生後7カ月になっても首が据わらないなど、発達に遅れがみられたそう。そこで遺伝解析を受けたところ、クリーフストラ症候群であることが判明。病名が分かった時、貴愛さんの中では驚きより、安堵感のほうが大きかった。
「たいちゃんの上に2人子どもがおり、子育てをする中で何か違うと感じていたので、原因がちゃんとあったことに安心しました」
だが、病名をネットで検索した時、情報量の少なさを知り、一気に不安が押し寄せたそう。医師から貰えた資料も、わずか4ページほど。貴愛さんは“知れない悲しさ”に打ちのめされた。
そんな時、響いたのが友人のポジティブな言葉。
「医師から貰った資料に、クリーフストラ症候群の発症率は2万5000人から3万5000人にひとりと書かれていたので、それを友人に話したら、頑張れや応援してるではなく、『3万5000人にひとりの病気を抱える子のママと友達っていう私、すごくない?』と言ってくれたんです」
そんな前向きに捉えてもらえるのか。そう思った貴愛さんは、自身も前向きに泰輔くんの病気と向き合うように。インスタで知り合った同じ病気の子を持つママたちと、病気の周知に取り組み始めた。
■人気YouTuberの協力も得ながら病名の認知に取り組む
2023年7月には、友人の勧めで人気YouTuberのコレコレさんに取材を依頼。動画を通して、より多くの人にクリーフストラ症候群の現状を訴えた。
動画配信後にはコレコレさんや視聴者の支援によって、当事者とその家族にとって役立つホームページを開設。家族会も立ち上げることができた。
「正直、息子と同い年の子が立ったり言葉を話したりしている姿を見ると、病気だから仕方ないとは分かっていても、心がついていかない日があります。そんな時は取り上げてもらった動画のコメント欄に寄せられた、温かい声援を読む。頑張ろうと思えます」
5人で始めた家族会のメンバーは現在、20人弱に。家族会は、大切な情報交換の場となっている。
「今まではどこに行っても病気の説明から始めなければいけなかったけれど、家族会にはそうじゃない仲間がいる。悩みも相談できて嬉しいです」
■病名と共に“病気の本質”も伝わってほしい
現在、泰輔くんはまだ歩くことは難しく、「ママ」などの言葉が出ないといった発達遅延は見られるものの、経過は順調。貴愛さんは月に1回、整形外科や耳鼻科、眼科、遺伝子科など複数の科に通院し、我が子らしい成長を見守っている。
少しずつ病名が世間に知られてきてはいるものの、病気の扱われ方に疑問を抱くことはまだ多い。例えば、指定難病としての捉えられ方。現在、クリーフストラ症候群は「先天異常症候群」の中の「9q34欠失症候群」として難病認定されてはいるものの、「パーキンソン病」や「無脾症候群」などのように、病名での独立した指定難病とは認められていない。
また、クリーフストラ症候群は遺伝子の欠損によって発症する場合と、泰輔くんのように遺伝子の変異によって発症する場合の2パターンあり、文献にも双方の症状に大きな差はないと記されているが、指定難病と認められるための申請では重症度が問われるという問題もある。
また、貴愛さんは世間に病気の本質が理解されていないと感じたこともあるという。それは、保育園への通園が決まった時のこと。
「保育園への申請書の提出時期は遺伝子解析の話が出る前だったので、その時点で分かっていた難聴と先天性内反足があることを記載しました。その後、通園の決定通知書が来たため、クリーフストラ症候群が判明したことや発達遅延があることを伝えたら、通園に難色を示されたんです」
そこで、貴愛さんは保育園側に我が子の症状を詳しく説明した。
話し合いを重ねたことで通園は叶い、泰輔くんは現在、保育園で同じ年齢の子どもと関わりながら、たくさんの刺激を得ている。
こうした連携によって、クリーフストラ症候群を持つ子は将来の選択肢が広がる可能性があると貴愛さんは話す。
「クリーフストラ症候群の子の発達においては、児童発達施設での理学療法・作業療法・言語療法などを受けることで未来の選択肢が広がる可能性があります。集団や個別で受けるものを、その子の特性に合わせて親子で選ぶことが大切なんです。児童発達施設だけでなく、保育園と家庭の連携も、子どもがより過ごしやすい環境を作ることに繋がる。私たち家族会の親子は専門家や多くの周りの方など支えられているので感謝の日々です」
そう話す貴愛さんは周囲の人々に感謝をしながら、クリーフストラ症候群の本質がより正しく知られてほしいと願う。
「クリーフストラ症候群は、いつどんな症状が現れるか分からない病気ではありません。症状は、生まれた時から見られています。病名だけでなく、そうした事実もきちんと伝わり、病気に対する正しい理解が進んでほしいですし、障害の有無に関わらず、みんなが安心して共生できる社会になってほしいです」
<泰輔くんの場合の症状>
・発達遅延
・難聴
・先天性内反足
・臍ヘルニア(※4月上旬に手術済み)
・筋緊張の低下
「子どものためならいくらでも動ける」と、病名の周知に取り組み続ける貴愛さん。その口から語られる、同じ病気の子を持つ親への言葉には胸に刺さるものがある。
「ひとりで悩んでいる方がもしいるなら、もうひとりじゃないです、一緒に共有できる仲間がいますよ、と伝えたい。いつでも声をかけてほしい」
家族会を立ち上げたり、障害児を持つ親に寄り添ったりできる自分になれたことは全て、息子が生まれてきてくれたから。すべての経験は無駄じゃない。そう話す貴愛さんの行動力は、クリーフストラ症候群と生きる人の未来を明るくしていくだろう。
(まいどなニュース特約・古川 諭香)