日本各地に出現…話題の超リアル「猫着ぐるみ」いったい誰が作っているの? 意外なプロフィールと製作の舞台裏、ただいま後継者募集中
リアルな猫の着ぐるみ製作で、知る人ぞ知る山田三毛猫さん。等身大の猫をつくりつづけてきて、今後は製作技術を継承してくれる若い人材を育てたいという。
■着ぐるみは自分用につくったのが始まり
2023年夏に掲載した「坂の上の猫」のミクちゃん、今年3月に掲載した「クマのキッチンカー 森のコロコロ」のマーチーは、それぞれ等身大のリアルな猫とクマの着ぐるみで人気者になっていると聞く。
これらの着ぐるみを製作したのは、鳥取県倉吉市で屋台の焼き芋屋を営む山田三毛猫さん。着ぐるみの出来栄えがあまりにリアルなので、この道一筋の職人さんかと思いきや、三毛猫さん自身のスタンスは今も焼き芋屋だという。
三毛猫さんのブログを2012年10月まで遡ってみると、初めはラーメンの屋台をやろうと考えていたそうだ。着ぐるみ姿での営業は、このときから計画していた。
「地元の倉吉市は人口が少ないため、飲食店を始めたいと思ってもマーケットが小さいので同業が多い業態では勝ち目がないと思ったのです。その時点では、倉吉市で屋台が成功した事例がなかったので、ここにチャンスがあると考えました。そのうえで、誰も知らないフードよりも、ラーメンという分かりやすいメニューがいいかなと」
ところが、ラーメン屋の屋台を始めるには保健所の許可が必要だ。もっとも、保健所に申請して屋台の現物を検分してもらい、食品衛生に関する講習を受講して試験を受ければほぼ取得できるという。しかし、受講料その他の費用として必要な3万円が、当時の三毛猫さんには工面が厳しい金額だった。
だが、焼き芋屋なら許可を取らなくても開業できることを知り、焼き芋屋「ミケの石焼き芋」を開業したのだそうだ。
「着ぐるみは、自分用につくったのが始まりです」
着ぐるみの製作方法は、まったくの我流だという三毛猫さん。
「ネットでほかの着ぐるみマニア(?)の方の製作法を見たのですけど、私の求める機能とは方向性が違うので同じ方法はできませんでした」
着ぐるみ営業の効果は狙い通りだったのだろうか。
「焼き芋は夜の街に売りにいくこともありまして、スナックなどにも門付けすることもあります。そのとき猫の姿だと、アルコールのはいったお客さんにびっくりされることがありました」
■基本的な材料はホームセンターで調達
三毛猫さんが製作する着ぐるみは主に「猫」で、全てオーダーメイド。製作を依頼してくるクライアントはパフォーマー、物販、販促、ユーチューバーなど、人の目に触れる業種が多いそうだ。
「少なくとも50体はつくったと思います」
ほかにも、自分用に製作した着ぐるみをモデルチェンジした際に、旧型を販売することもあるという。
着ぐるみの構造は一体型ではなく、いくつかのパーツに分かれる。
「ヘッド、手袋、靴、しっぽ、上着、ズボンの6点に分かれます。オーダーはヘッドだけとか、ヘッド+手+しっぽの3点だったり2点だったりさまざまです。重量はフルセットで5kgくらいだと思います」
基本的な材料は、ホームセンターで調達するという。ざっと列挙すると、ヘッドはFRP、アルミ、ステンレス、ウレタン、造形ボード、フェルト、ナイロン生地、ファー(体毛の素材)、その他ファンなどの電気関係。
手はファー、ウレタン、レザー、フェルト。
ボディ上下は、ファー、ナイロン生地、ウレタン、キルト生地、マジックテープ、ファスナー、空調服キット、ベルト、金具など。
尻尾は、造形ボード、ファー、針金、ウレタン、キルト生地。
足は市販の靴、ファー、ウレタン、フェルトなど。
ホームセンターで入手できない素材は、ネット通販で取り寄せるそうだ。
とくに工作が難しい部位はヘッドだそうで、かわいく見えるように工夫が必要だという。製作期間は、フルセットで1か月、ヘッドだけなら1週間くらいかかるとのこと。
「今はお待たせする期間が長くて、ご迷惑をおかけしていますが……」
余談ながら、森のコロコロからクマの着ぐるみをオーダーされたとき、三毛猫さんにはクマをつくった経験がなかった。
「猫以外はあまり経験がなかったので、ファーも未知のものでした。毛の色や質が違うと、いわゆるクマらしさがなくなりますから、ファーはご自身で用意していただきました。クマらしさは、このファーによって成功していると思います」
三毛猫さんが製作する着ぐるみの特徴は、ヘッドとボディに空調ファンを標準装備していることだ。
「ヘッドのファンは曇り止め。ボディには、特別な申し出がない限り標準でつけています。それでも暑いのですけど、ないものよりも着用できる時間は伸びます。空気を巡らせるために内部にスペースをつくる工夫も必要ですが、少なくとも汗びっしょりで異臭がすることがないように努力中です」
■技術を継承してくれる若い人を育てたい
三毛猫さんは、すでに年金を受給している年齢だそうで、着ぐるみ製作を継承してくれる弟子を募集している。
「現在、着ぐるみは私がひとりで製作していますので、つくれる数には限界があります。リピートも増えています。着ぐるみは消耗品ですから、いつかはモデルチェンジが必要になります。それらを考えると、若い人に受け継いでもらうのが今後の希望です」
しかし現状は、仕事を覚えるまでの生活を保証できる余裕がないことが課題だという。
「弟子を希望するための資格や条件はありません。根気と熱意があれば可です。収入の保証はありません。住居は提供できますので最低1カ月やってみて、問題なければ製品をつくり、商品になれば報酬が発生します」
厳しい条件かもしれないが、三毛猫さんの手が動くうちに「教えられることを伝えたい」と切望している。
(まいどなニュース特約・平藤 清刀)