オイルショック再来に台湾海峡に緊張激化…イスラエルとイランの衝突がもたらす2つの脅威

イスラエルとイランの緊張が高まっている。イランはこれまでイスラエルへの攻撃をレバノンやイエメン、シリアやイラクなどを拠点とする親イラン勢力に任せ、代理戦争的な立場を維持してきた。しかし、イスラエルが今月1日にシリアの首都ダマスカスにあるイラン大使館領事部へミサイル攻撃を行い、イラン革命防衛隊の司令官や軍事顧問らが死亡したことで、一線を越えたと認識したイランの堪忍袋の緒が切れる形になった。

だが、イランによる初の直接攻撃で使用された多くのドローンやミサイルはイスラエルによって撃墜され(米軍なども協力)、大きな被害は生じなかったが、イランもそのあたりは入念に計画し、イスラエルへ危害を加えるというより、同国を政治的、軍事的に強くけん制する一種のパフォーマンスだったと捉えるべきだろう。攻撃後、イランはこれで終わったと自ら率先して幕引きを図っており、今日ボールはイスラエル側にある。

欧米などは一連の攻撃でイランへの制裁を検討しているようだが、懸念されるのはイランではなくイスラエルの行動だ。イスラエルは戦争状態にあり、これまではイランの代理勢力との軍事的衝突だったが、その親玉から攻撃があったということでいっそう警戒を強めている。仮に、イスラエルが核関連施設などイラン領内への攻撃に打って出れば、イランも軍事的報復に出ざるを得ないだろう。これまでの戦争もそうだが、こういった負の連鎖が徐々にエスカレートし、結局は全面戦争に発展してきたことから、我々は最悪のシナリオも想定しておく必要があろう。

では、両国の直接衝突となった場合、日本にはどのような影響が考えられるのか。まずは、新たなオイルショックだ。昨年秋、イスラエルとハマスとの戦闘が激化した際、オイルショックの懸念が指摘されたが、戦闘は局地的でありそれが石油危機をもたらすことは考えにくい。だが、両国の衝突はそれに比べ範囲が格段に広く、日本へ向かう石油タンカーの出発地点となるペルシャ湾を含むことから、日本は再びオイルショックに直面する恐れがある。

また、影響はそれだけではない。両国が直接衝突するとなれば米国は関与せざるを得なくなり、中東問題に時間を割かれることになる。バイデン政権はロシアによるウクライナ侵攻の前、米軍がウクライナに派兵されることはないと断言し、今回の緊張でも米国はイラン攻撃に参加しないとイスラエルに伝えているが、ウクライナや中東での戦争の激化と長期化は、米国のインド太平洋に割ける時間とマンパワーを明らかに低減させる。そして、それは中国を大きく利することになり、台湾への軍事侵攻のハードルを大幅に低下させる恐れがある。

中国が常に警戒しているのは、台湾侵攻の際に米軍が台湾防衛に関与するのかどうか、関与するならどれくらいできるのかであり、米国が中東やウクライナの問題で時間を割かれれば、それだけ台湾情勢は中国有利に傾くだろう。ましてやトランプが秋の大統領選に勝利すれば、イスラエル重視・イラン敵視のトランプ政権はイスラエル支援を強化する一方、台湾をいっそう軽視する可能性がある。イスラエルとイランの衝突は、日本の経済と安全保障の正面で深刻な影響をもたらすだろう。

◆治安太郎(ちあん・たろう) 国際情勢専門家。各国の政治や経済、社会事情に詳しい。各国の防衛、治安当局者と強いパイプを持ち、日々情報交換や情報共有を行い、対外発信として執筆活動を行う。

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