「母国の動物たちを助けたい」ウクライナから日本へ避難の女性 動物看護師の資格取得めざして奮闘中
ウクライナ北東部の都市・ハルキウから日本に避難し、熊本で動物看護師を目指して奮闘している女性がいる。レナ・ベレズナヤさん(23)だ。
レナさんはロシアがウクライナ侵攻を開始した後の2022年4月、ウクライナから日本に避難。群馬にあるプラスチックの組立工場で働いていた。
「わたし、子どものころから動物が好きでした。(物心ついたころからは)動物を助ける仕事につきたいとの夢をずっと持っていました」とレナさん。日本のアニメが好きで、日本はいつか訪れたい憧れの国でもあった。当初、レナさんの両親は反対したそうだが「死んだら夢をかなえられない」と言う娘をみて、必要な書類を用意してくれたという。
■「動物と一緒に働きたい」レナさんに、動物病院院長が打診
群馬にいたとき、レナさんはテレビの取材を受けた。「夢はなんですか?」と尋ねられ「動物と一緒に働くこと」と答えた。そのニュース映像を、熊本市内にある竜之介動物病院の獣医師・徳田竜之介院長(62)がたまたま観ていた。
爆撃で破壊された瓦礫の中から犬猫が救われたといった報道をみるにつけ、徳田院長は「戦争で人間があれだけ被害を受けているなら、ペットも相当被害を受けているはず」と心を痛めていた。しかし、ウクライナの動物事情を知る手掛かりや情報はほとんどない。そう思っていたとき、レナさんのことを知り「うちの病院を手伝いながら動物看護師の資格を目指さないか」と打診したのだった。
組立工場では単純作業の毎日。「なかなか夢には近づけそうにない」と感じていたレナさんに突然、光明が差した。熊本がどんなところかわからなかったが、思い切って彼女は徳田院長のいる熊本へ行くことを決意。2023年6月、竜之介動物病院にやってきた。
同院でのレナさんの仕事は、動物の体を洗ったり、手術後の片付けや洗濯をしたりと補佐的な業務が中心。「体は疲れても、この仕事が好きなので、いつもいっぱい仕事をやりたい」とレナさん。来日時には「ほとんど話せなかった」という日本語も、今では普通に意思の疎通をするには困らないほど上達している。
徳田院長はレナさんの仕事ぶりなどについてこう話す。「夢に向かって毎日いきいきと仕事や勉強をしています。戦禍を逃れて避難してきた人たちには、住居や仕事だけではなく、夢や希望が必要だと思います。ここでは、たとえば子猫の世話をしていて体調がおかしければ、医師や看護師に容態を正確に伝えなければいけません。動物を助けなければという目的があるから、どんどん日本語も覚えています」
同院は、8年前に熊本地震が起きたとき、真っ先に院内を開放し、ペット同伴避難所を開設。愛犬や愛猫と一緒に過ごしたいという避難者を受け入れた。「同行避難」(ペットとともに安全な場所まで避難すること)だけでは不十分で、特に災害時は、ペットと飼い主が同じ空間で常に一緒に過ごせる「同伴避難」が大切だということを、全国に先駆けて示したことでも知られる。
徳田院長は言う。「愛する動物がそばにいてくれるから、人は強くなれるんです」
■戦禍で愛猫と生き別れに
戦争が始まり、レナさん一家は、飼っていた愛猫ミルカ(当時3歳)を友人に預けたという。落ち着いたら引き取りにいくはずだったが、戦況が悪化し、友人は国外に避難。ミルカは行方不明になってしまったという。「ミルカはお利口でとても仲良しでした。いま生きていたら6歳くらい。私たちの大事な猫、今は生きているか、死んでいるかもわからない…」
そんなレナさんを見て、徳田院長は保護犬の「ブシャ」(メス、1歳)の面倒をみてもらうことにした。ブシャは元々口に障がいがあり、ブリーダーが「ペットショップでの販売ができない」との理由で手放し、同院に引き取られたシーズー。レナさんは毎日、一人暮らしの自宅から、ブシャと一緒に同院に通っている。「ブシャがそばにいてくれてとてもうれしい。幸せにしてあげたい。いつも私をはげましてくれています」(レナさん)
レナさんは来春まで同院で働き、2025年4月からは同院に併設された動物専門学校に3年間通って愛玩動物看護師の国家資格取得を目指す予定だ。徳田院長は「頑張って資格を取って、日本とウクライナとのかけ橋になってくれたら」と、レナさんを温かく見守っている。
今もハルキウで暮らす両親とは、ビデオ通話でやりとりしている。ハルキウは首都キエフに次いで二番目に人口の多い都市。戦況は悪化しているという。「ビデオで話してるとき、(空爆の)サイレンをよく聞きます。(両親を)愛しているのでさびしい気持ちは大きい。でも、今は看護師になる夢をかなえるのが一番大事。ウクライナでは野良猫や野良犬が増えている。看護師の資格をとってウクライナへ戻り、戦禍に苦しむ動物たちを助けたい」とレナさんは話している。
(まいどなニュース特約・西松 宏)