「もう姑に耐えられない…」夫の両親との不仲を理由に離婚できる?【弁護士が解説】
「旦那の親が原因で離婚したい」と嘆く妻がいます。単に性格が合わないという場合もありますが、中には「義両親が非常識な毒親で絶縁したい」と離婚まで考える人もいます。夫の親が原因で離婚したいと言う場合、希望通り離婚できるのか。弁護士がポイントや注意点を解説します。
■夫の親が原因で離婚を考えたら…
「旦那の親が原因で離婚を考えるようになった」という妻は少なくありません。最高裁が毎年まとめている「司法統計」によると、2022年に離婚調停を家庭裁判所に申し立てた妻1467人のうち、「家族親族と折り合いが悪い」を挙げたのは69人でした。割合としては決して多くはありませんが、義両親との関係に悩む妻は一定数いるようです。
妻が義両親と不仲になる理由はさまざまです。性格や価値観が合わない場合や、ささいなトラブルが原因となることもありますが、義両親が非常識な言動を繰り返す、いわゆる「毒親」で妻がうんざりしてしまうケースもあります。
「夫は好きだけど、義両親とは関わりたくない」というケースもありますが、義両親との不仲を理由に離婚はできるのでしょうか。夫の親が原因で離婚したいと考えたとき、どのように離婚話を進めたらよいのか、ポイントや注意点を解説します。
■離婚したいほど夫の親が嫌いな理由
夫の親が原因で離婚したいと考える妻は、どのようなことが理由で義両親を嫌いになってしまうのでしょうか。妻が義両親を嫌いになってしまうきっかけや、義両親の言動などを紹介します。
▽言動が非常識
義両親の中には非常識な言動で妻を困惑させてしまう人たちがいます。妻の都合を聞かずにいきなり家に押しかけてきたり、「孫がかわいい」と言って勝手に外に連れ出したりして自分勝手な行動を繰り返します。結婚式でわがままな要求をして、周囲を振り回してしまうこともあり、「大変な人が義両親になってしまった」と妻を嘆かせる人も珍しくありません。
「旦那は良い人なのに、その両親が毒親だったとは」と気付いても後の祭りで、簡単に距離を取ることはできません。夫が妻をかばってくれればいいのですが、両親の言いなりで何も言えない性格だと妻はどうすることもできません。「将来、私たちの介護はお願いね」などと言われると最悪で、「この人たちから逃れるには離婚するしかない」と考えるようになります。
▽夫婦問題に何かと口を出す
夫婦の間の問題にすぐに口をはさむ義両親もいます。よくあるのが「子供はまだなの」「結婚して3年目までには孫を産んでくれないと」と子供に関するおせっかいです。また、妻の仕事や夫の食事にも口を出し、夫婦喧嘩のことにまで首を突っむ親もいます。こうなると過保護としか言いようがなく、妻も「相手をするのがめんどくさい」と感じることでしょう。
別居しているのならともかく、同居している両親から毎日のように夫婦間の問題について、あれこれ言われるとうんざりするのも当然です。妻は「同居を解消するか、離婚して家を出るしかない」と悩み始めることでしょう。
▽嫌味を言われる
妻の顔を見るたびに嫌味を言う義両親もいます。本人は嫌味ではなく、ほんの軽口を言っているだけだと思っていたり、やんわりと注意しているつもりだったりすることも多く、妻が嫌な顔をしても収まりません。こうしたタイプの人は大抵、自分が常に正しいと思っていて、夫が注意すると逆に怒り出すこともあります。
自分は正しいことを言っていると思っている人は、「せっかく注意してあげているのに、言うことを聞かないなんて」とムキになり、嫌味がエスカレートすることもあります。当然、妻にとってはストレスでしかなく、できるだけ関わりたくないと思うようになります。
▽金銭を要求する
金銭トラブルが原因で、妻と義両親が絶縁状態になることもあります。よくあるのが、自分たちに生活費を支援するよう要求するケースです。夫を育ててくれた人ですし、本当に生活に困っているのなら支援も必要ですが、それほど困っているようには見えないのに「お金がない。助けてほしい」と言ってくることがあります。
また、子供が小さなときに「お祝い」などとして渡したお金を、あとから「あのお金を返してほしい」と求めてくることもあります。こうした金銭トラブルは尾を引きやすく、関係も一気に悪化することがあります。対応は夫に任せたほうがいいでしょう。
▽常に監視されている
義父母と同居しているケースでは、妻が「いつも監視されているような気がする」と夫に訴えることがあります。朝起きる時間や、家事の様子、外出などを常にチェックされている気がして「落ち着かない」「気味が悪い」などと感じることが多いようです。義両親が、生活態度を注意しようと妻の行動に注意を払っているのかもしれません。
ただ、義両親のほうは監視しているつもりがなく、つい嫁の行動が気になっているだけのこともあります。また、妻の思い込み、気にしすぎの可能性もあるでしょう。しかし「監視されている」と感じるのは、相手に不信感を持っているからで、妻は義両親との同居に相当のストレスを感じているのかもしれません。
■夫の親が原因で離婚することは可能?
夫の親が原因で結婚生活がつらくなったとき、「夫の親との不仲のせいで夫婦関係が損なわれた」などとして離婚することは可能なのでしょうか。夫の親との不仲を理由に離婚できるケースや、離婚話を進める際のポイントなどを解説します。
▽相手と合意できれば離婚も可能
離婚は、結婚するときと同じように、夫と妻の合意があれば成立します。話し合いで離婚することを「協議離婚」といい、理由は問われません。「夫の両親との折り合いが悪い」という理由でも離婚は可能です。妻と義両親の仲が険悪となり、夫婦関係も悪化している場合などは、夫も関係修復をあきらめて離婚に応じてくれるかもしれません。
しかし、夫が義両親との別居に反対していたり、義両親の介護を妻に押し付けていたりするケースでは、問題が深刻化する可能性があります。夫が離婚に反対していたり、「義両親との関係の修復が可能かもしれない」と考えていたりする場合も、解決までに時間がかかります。
子供がいる場合は、離婚に合意しても親権や養育費をめぐって折り合えないこともありますし、離婚の条件に親が口を挟んでくることもあるでしょう。そのときは時間をかけて話し合うか、法的な手続きに基づいて離婚を求めていくしかありません。
実際、妻と義両親とが同居している場合には深刻な仲違いに発展するケースはとても多いのが実情です。しかし、夫婦関係の関係が良好な場合は、義両親との関係が原因でいきなり離婚するよりも、まずは「義理の両親と別居する」という決断をするのが典型的です。
別居して義両親と距離を置くことができる場合、義両親との関係を原因とする離婚は回避できるケースが多いでしょう。
▽離婚の合意を得られないときは調停という手も
夫が離婚に反対したり、離婚には同意してもらえても条件で折り合えなかったりした場合は、家庭裁判所に離婚調停を申し立てることができます。調停とは裁判所の調停委員を介した話し合いで、調停委員が双方の意見を聞き、言い分を整理して合意を目指します。しかし、合意できる見込みがないときは調停不調として打ち切られてしまいます。
調停が打ち切られると、再び夫との間で協議離婚を目指して話し合うか、離婚裁判を起こして裁判所に離婚を求めることになります。裁判の結果、離婚が認められた場合は、夫の合意がなくても離婚が可能です。また、離婚の条件についても裁判所が判断して決定します。
▽離婚裁判では離婚事由が必要に
「夫が離婚に反対しても、離婚裁判を起こせば離婚できる」と考えている妻もいるかもしれませんが、裁判を起こすのはそう簡単ではありません。法的な根拠に基づいて裁判を起こさなくてはなりませんし、夫婦関係が破綻しているという証拠も示さなくてはなりません。
離婚裁判を起こすには条件があり、一つ目は離婚調停の後にしか裁判を起こせないということです。また、民法で定められた「離婚事由」がなければ、裁判を起こすことができないことになっています。離婚事由とは、次の5つの事情です。
・配偶者が浮気や不倫(不貞行為)をした
・一方的な別居や生活費の未払いなど配偶者の悪意で遺棄された(悪意の遺棄)
・配偶者の生死が不明で3年以上経つ
・配偶者が重症の精神病で治る見込みがない
・婚姻を継続しがたい重大な事由がある
離婚の裁判では、夫婦間の事情がこれら離婚事由に当てはまり、夫婦関係が修復不可能な状態にあるかが審理されます。たとえ離婚事由があっても、「夫婦関係の修復は可能だ」と判断されて離婚が認められないこともあります。
▽義両親との不仲という理由で離婚は認められる?
「夫の両親との不仲」という理由は、残念ながら離婚事由には該当しません。基本的には離婚は夫婦間の問題であり、裁判では当事者である夫婦の関係性が重要視されます。夫が離婚原因を作ったのでなく、夫も妻と義両親の間で関係改善に努めていたという場合などは、裁判で離婚の理由があるとはなかなか認められないでしょう。
離婚が認められるとすれば、妻と義両親が不仲な状態を夫が放置しているといったケースが考えられます。例えば「夫が両親の言いなりで、何も言わない」「夫が妻に、自分の両親に従うよう求める」といった事情があり、妻も精神的に疲弊しているというのであれば、裁判で「婚姻を継続しがたい重大な事由」として認められる可能性があります。
実際の判例でも、妻が義両親から小言を言われ続けて家庭不和になったのに、夫が家庭内のことに無関心で関係改善の努力もしなかったなどとして、離婚と慰謝料請求が認められたケース(昭和43年1月29日名古屋地方裁判所岡崎支部判決)などがあります。
■夫の親が原因で離婚する前に知っておくべきこと
「夫の親との不仲が原因で離婚したい」を理由に離婚を求めたとき、親権や慰謝料請求はどうなるのでしょうか。夫だけでなく、義両親への慰謝料請求も認められるのかなど、離婚話を進めるときに押さえておきたいポイントについて解説します。
▽義両親への慰謝料請求はできる?
離婚の際の慰謝料は、どちらかに不法行為があった場合、精神的苦痛に対する損害賠償として支払われます。例えば、相手の不倫が理由で離婚する場合、「平穏な夫婦生活を送る権利を侵害された」などとして慰謝料を請求できることがあります。
夫の両親との不仲が原因で離婚する場合、「夫が両親と妻の不仲を知りながら放置したのが原因で、夫婦関係が破綻した」と判断されると、慰謝料の請求が認められる可能性があります。上記の昭和43年の名古屋地裁岡崎支部の判決では、夫は家庭内の不和を解消する努力をせず、誠意ある態度が見られなかったなどとして、慰謝料の支払いなどを命じました。
ただし、この事案で妻は夫の両親に対しても慰謝料請求をしていましたが、裁判では義両親との不和は一般的によくあることだとし、「双方の人間性に由来する宿命のようなもので、いずれかの側にのみ責任があるわけではない」などとして義両親への請求は認められませんでした。義両親への慰謝料請求は、夫に対する請求に比べハードルが高いと言えます。
これは、夫婦間には協力義務、すなわち夫婦が共に生活を営むために必要な精神的・事実的な援助を互いに行う義務がある一方で、義両親との間にはそのような法的な協力義務が存在しないことの裏返しとも言えます。
▽親権と養育費でもめる可能性がある
離婚する夫婦に子供がいる場合、子供の親権も大きな問題です。どちらも親権を望んだ場合、離婚協議や調停、裁判の中で「どちらが親権者にふさわしいのか」を争うことになります。子供への虐待などの特別な事情がない限り、父親と母親のどちらかが有利ということはありません。最終的に裁判所の判断に委ねられた場合、裁判所は次のような観点から検討します。
・これまでどちらが主に子育てを担ってきたか
・子供が、授乳など母親を必要とする年齢かどうか
・子供自身の気持はどうか
・親が健康で子供を育てられるかどうか
・離婚した後の生活環境が子供にとって望ましいものか
こうした観点で判断すれば、子供が乳幼児の場合は、結果的に母親のほうが親権を取りやすいともいえます。しかし、母親の言動や経済的事情によっては、父親が親権を取ることもあります。
離婚の結果、親権が相手に渡った場合は、離婚の理由を問わず、子供が経済的に自立するまで養育費を支払う必要があります。養育費の額は、裁判所が公表している「養育費算定基準表」で、おおよその相場が決まっています。具体的な養育費の額は基準表に基づき、夫婦の年収や子供の数、年齢などで決められます。離婚理由によって金額が増減することはありません。
■夫の親が原因で離婚を考えたら専門家に相談を
夫の両親との不仲のせいで離婚を考えざるを得ない状況に陥ることがあります。本来、夫婦のことは夫と妻で話し合って決めるべきものですが、義両親が何かと口を出し、夫も言いなりになってしまうような状況では、離婚もやむを得ないでしょう。
しかし、義両親の介入の度合いなどによって裁判所の判断が変わることもあり、離婚できるかどうかは夫婦それぞれの状況次第です。離婚できるかどうか悩んだら、夫婦問題に詳しい弁護士に相談するといいでしょう。
◆佐々木 裕介(ささき・ゆうすけ)リコ活専門家/チャイルドサポート法律事務所・行政書士事務所(第二東京弁護士会所属)
「失敗しない子連れ離婚」をテーマに各種メディア、SNS等で発信している現役弁護士。離婚の相談件数は年間200件超。協議離婚や調停離婚、養育費回収など、離婚に関する総合的な法律サービスを提供するチャイルドサポート法律事務所・行政書士事務所を運営。
(まいどなニュース/リコ活)