おいしそうなオムライスの絵…が、作品の完成に驚きの意図が!作家の真意はさらに深く→理解を深めるきっかけにして
「(一部の過激な)活動家さん向けに専用の絵画を制作しましたのでご査収ください」
そうポストされた写真は、美味しそうなオムライスの絵です。あら、ケチャップがかかっていませんね。作品名は「トマトソースをぶちまけて!」…なるほど!
作品は、オムライスの絵にトマトソースをぶちまけることで完成するという、ユニークなものです。この「トマトソースをぶちまけて!」の作品の意図は、ヨーロッパで話題になった一連の事件が発端となっています。
2022年10月、イギリス・ロンドンの美術館「ナショナル・ギャラリー」でゴッホの代表作「ひまわり」に、環境活動家2人がトマトスープを投げつけました。また、ドイツの美術館ではクロード・モネの作品「積みわら」にマッシュポテトが投げつけられました。
環境活動家のアートを攻撃する過激な行動は、私たちに大きな驚きや「なぜ、こんなひどいことをするのか」という疑問や不快感をもたらしました。それこそが彼らの狙いで、この事件は世界的に大きく注目されました。
「トマトソースをぶちまけて!」の作品には、「ソースを投げかたい人のためにそれ用の作品を作った」というアイデアが込められており、多くの人にその意図が絶賛されています。
「オムライスを綺麗に描いてるだけなのに風刺の意味があるの面白すぎやろ」
「需要がありそう」
「あれ、一回しか押せないぞ…???」
「アイデア最高」
オムライスのポストをされたekoD Works / フクサワタカユキ(@ekoDworks)さんに、詳しくお話を聞きました。
■作家に作品制作の意図を聞いた
ーーこの絵画を制作しようと思ったのは?
「ロンドンのナショナル・ギャラリーで、ゴッホの作品『ひまわり』にトマトソースが投げつけられた事件の報道と、それを受けての様々な議論が巻き起こっている様子を見聞きしたことに着想を得て構想しました。
構想後はすぐに形にしたわけではなく、合間合間に制作手法や表現方法などを様々に検討することにしばらく時間を費やしていました。
構想を詰めつつ下準備も整ってきたタイミングで、2024年1月にルーヴル美術館所蔵のレオナルド・ダ・ヴィンチ作『モナリザ』に対して同様の事件が起こったことを機に本制作を開始しました」
ーー制作期間はどのくらいかかりましたか?
「『制作期間』をどのレイヤーで捉えるかにもよりますので一概に何日とは言えませんが、構想自体は22年10月頃より抱いていました。その後ドローイングや生成AIを活用したアプローチなど表現方法を模索していたので、構想や模索の期間を含めると広義には1年少々となります。狭義に絵画自体の作画期間は数日ですが、この作品の場合はトマトソースをかけてWEBで公開するまで表現に含まれますので、それらの検証から公開準備まで諸々を含めると実質的には数週間でしょうか」
ーー完成した絵にトマトソースをかける時はどのようなお気持ちだったのでしょう?
「額装されて護られているとわかっていても、作品を汚すことへの抵抗感・精神的な負荷を感じました。食材を使うということも背徳感・罪悪感を抱きました。なお使用した食材は事後にスクレーパーを駆使して念入りに回収し全て美味しくいただきました」
ーーこれまで制作した作品の中で、特に思い入れのあるものは?
「ひとつひとつの作品に思い入れがあるため、特定の作品を選ぶことはできません。
世間の風潮や社会課題に対してカウンター的思考でアウトプットした作品ですと『スマホをやめて本を読め』や『AcryPhone』、『Escalator Museum』、『Lifting Toilet』などは本作と通ずる発想の系譜を感じていただけるかもしれません。
読書家を装えるスマホケース『スマホをやめて本を読め』や、まるでスマホのようなただの板『AcryPhone』は2010年代より波及し続けるスマホ依存社会を風刺したものです。エスカレーター側部の空きスペースを美術館に見立てた『Escalator Museum』はエスカレーターの片側歩行問題が着想のきっかけになりました。便器が物理的に昇降する『Lifting Toilet』は家庭内の排尿ルールから男女同権社会の公平性にスポットを当てた作品です」
環境活動家は、なぜアートを攻撃したのでしょうか?彼らは「絵画と、地球と人々の命を守ること、どちらが大切なのか」と訴えています。一見、関係なさそうな2つの項目ですが…。
透明なガラスで保護されているため、作品自体には直接的なダメージはありません。それを見越した環境活動家は、自分たちの暮らしを守るため、気候変動対策が早急に必要だと訴えました。「人々は飢え、凍えて死につつある。私たちは気候をめぐる大惨事に直面している。将来、人類が食料飢饉に陥るなら、この絵画には何の価値もない」などと伝えました。
やり方は過激ですが、気候変動について緊急に対策をとるべきだと、私たちが考えるきっかけを放ったのですね。
■オムライスの絵の作品について、作家が解説
フクサワさんは、自身のオムライスの作品について以下のように解説してくれました。
「この作品は『美術作品への攻撃』という事象に対して『攻撃されても良い作品・そうされることで完成・成立する作品を作る』という表層的にわかりやすいストーリーがあり、それも手伝ってSNSで話題になったと考えていますが、これはあくまで衆目を集めるにあたっての表面的なフックでしかありません。
この作品を見た人の中には反射的に『有名作品だから攻撃されるのであって、無名な作品じゃ意味がない』『ただ揶揄しているだけの揚げ足取りだ』と思われる方々もいるかもしれません。
そんな方々にこそ、本作の真意や背景にある『エコテロリズム』の現状について深堀りされることをお勧めしたいところです。
本作の真意をご理解いただくには、まず前段階として活動家の抗議活動がどういった意図で画策され、なぜ芸術作品を対象に攻撃しているのか、その辺りの文脈を抑えていただいた方が良いでしょう。
例えば環境問題と美術館の関係性、アメリカ公民権運動の非暴力不服従を源流にするアートへの非暴力的直接行動といった背景をご存知でない方は、まずは簡単に検索して調べてみると、この問題に対する理解の解像度が上がるかと思います。
なぜ攻撃対象が美術作品なのか・美術作品である必要性はあるのか・対象としての適切性はあるのか・過激な行動が話題になることで逆に共感が得られなくなるリスクがあるのではないか・話題性と共感性を両立する抗議の手段としてより適切なものはないのか、様々なレイヤーから自分なりにこの問題を考察したり議論を重ねることも、本作の真意を理解する助けとなるでしょう。
本作は単に芸術作品を攻撃することによる抗議活動を風刺するのではなく、作品自体が衆目を集めることで抗議活動やその背景を知り議論するきっかけの一端になり得ると考え、制作・発表しました。
もちろん、現状のこの作品はSNSでちょっと話題になった程度であり、『ひまわり』や『モナリザ』のような芸術的価値はなく、実際にこの作品が権威ある美術館に展示されることも、ましてや抗議活動の攻撃対象と見なされることもないでしょう。その点だけを切り取ればコンセプトだけの出落ち作品で、揚げ足を取っているだけのようにも見えるでしょう。
ですが、この作品が話題になり、この作品自体に様々な関心・感想が寄せられ批評が生じることで、その前提にある抗議活動にも注目が集まり、結果この作品が諸問題について議論する種になる。それだけでも本作が存在する価値はあると言えるでしょう。
そしてこの先、万が一この作品が世界的に有名になり、なんやかんやで将来的に芸術分野で高く評価され、あわよくば権威さえ纏うことがあれば、話題性のある攻撃対象としても適任で、作品側としてもトマトソースをいただくことで『完成』することができ、さらに既存の偉大な芸術作品も護ることができ、三方よしでWin-Winな状況を作ることができる可能性も微レ存なはずです。
いずれにしてもこの先どう転ぶかに関係なく、こうしてニュースメディアで取り上げられるなど、この作品が一定程度話題になり、この作品にどんな意味があるのかないのかの議論が生じている時点で、既にこの作品は真の価値を発揮し少なからずその役割を果たしていると言えます。
本作は一見すると彼らの抗議行動を揶揄する批判的な作品であるようで、文脈を辿れば彼らの抗議行動に呼応する形で生まれた作品であり、見方によれば抗議行動が波及した延長の産物ともいえ、俯瞰的には彼らが巻き起こしているムーブメントの末端の一部と捉えることもできるかもしれません。
本作に興味を持たれた皆さまはぜひともこれを機に一連の抗議活動の経緯や顛末、そして識者らからどのような批評がなされているのかを深堀りし、様々に議論し、各々の理解を深めるきっかけにしていただければと存じます」
(まいどなニュース/Lmaga.jpニュース特約・今田 哲平)