大雨の日、猫の鳴き声が聞こえた気がして…ずぶ濡れの子猫を発見 今では老猫とともに参拝客の人気者に
熊本市中央区にある別所琴平神社は、大物主大神を主祭神として祀り「別所のこんぴらさん」と親しまれている。烏天狗と赤天狗の大きな面が飾られた社殿の前では、宮司・藤岡秀夫さん、妻で権禰宜の久子さん夫婦の飼い猫、ハチワレの「ミーちゃん」(オス、9歳)と茶白の「チョビ」(オス、推定15歳)が参拝客を人なつこく出迎えている。ミーちゃんは9年前、鳥居前のポストでずぶ濡れになっているところを保護され、チョビは10年以上の野良生活を経て神社で飼われるようになった。参拝客がやってくると、ミーちゃんは「ミャー」とすり寄り、高齢のチョビは社務所のカウンターに座って御朱印の頒布を待つ人らを癒している。2匹との出会いや接客ぶりなどについて、久子さんに聞いた。
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久子さん ミーちゃんは熊本地震が起きる前年の2015年7月の大雨の日、鳥居の横にあるポストの前でミーミー鳴いていたんですよ。生後1ヶ月くらい。1匹だけポツンといてね。捨てられたのか母猫とはぐれたのか、なぜそこにいたのはわかりませんが、私はなぜか子猫の鳴き声が聞こえるような気がして、社務所や境内を探し回り、ずぶ濡れのミーちゃんを発見したんです。
大雨で猫の声など雨音にかき消されて聞こえないはずなのに…不思議ですね。衰弱していたので、すぐにタオルにくるんで体を拭いてあげました。2日ほど何も食べず、もうだめかなと思っていたら、先住猫でハチワレの「うなぎ」(オス、4歳で没)のために置いていた、ふやかしたカリカリを自分で食べたんです。それからはどんどん元気になりました。
先代猫のうなぎは、その3年ほど前に捨てられていたところを保護した子。ミーちゃんは、初めてうなぎに会った瞬間、「会いたかった」とでもいうかのように、トコトコと近づいていきました。うなぎの方も毛繕いしたり一緒に寝たりして、まるで本当のお父さんのようにミーちゃんの世話をし始めました。1年後、うなぎは病気で虹の橋を渡りましたが、参拝者へのおもてなしの仕方や、境内から外には絶対出ないことなど、この神社で暮らすルールを、先住猫としてミーちゃんに教え込んでくれました。
一方、チョビは2020年、突然、神社にやってきた野良猫。当初は警戒心が強く、絶対に触らせないという感じでした。私たちはご飯をあげては姿を隠し、というのを繰り返し、少しずつ距離を縮めていきました。次第に心を許してくれて、1ヶ月後、ついに体をなでさせてくれるようになったのですが、触り心地がまるでタワシのようにゴワゴワだったのを覚えています。
動物病院に連れていくと「この子は10歳以上ですね」と言われてびっくり。10年もお外で暮らし、生き抜いてきたチョビ。どんなに大変だったかと想像すると涙ぐんでしまいます。最近は歳をとり、動きも鈍くなっていますが、ここを安住の地に選んでくれてありがとうって、いつもいっています。
毎朝、夜明け前に宮司が本殿で祝詞奏上をするのですが、その時間になると2匹は毎日、本殿の外でたたずみ、宮司の声を聞くのが日課です。ミーちゃんはよくしゃべるんですよ(笑)。みーちゃん、今日は元気?と聞くと「ミャー」、おやつ持ってきたよというとまた「ミャー」。まるで会話しているみたい。お祓いや祈願の方がくると「これは僕の仕事」とでもいうかのように寄り添っています。
チョビは社務所の御朱印受付カウンターでじっと座っていることが多いですね。コロナ禍の間、当社では御朱印を求める方がコロナ前よりも増えました。心がつらいとき、御朱印は力になるのでしょう。出来上がりを待っている間、ミーちゃんやチョビがそこにいると、それだけで癒しになりますし、飼い猫の話になって互いに盛り上がったり、お悩み相談にのったりすることもよくあります。猫たちがいると心を開いて話をしてくださるんです。参拝者の方々のお気持ちにそうやって寄り添うことができているのも、猫たちのおかげです。
御朱印を描く先生たちや巫女長も猫好きです。チョビは先生たちの隣に陣取って御朱印が完成するのを見守ることも。少し前、チョビが体調を崩してご飯を食べなかったことがあったのですが、スプーンでご飯を口元まで持っていき、ついにチョビがご飯を口にしたときはみんな涙ながらに喜んだこともありました。
私たちにとって2匹は、毎日を頑張ることができる原動力のような存在です。私の中で神社は神様が人々を優しい光で包み込んでいるイメージなのですが、猫たちがそばにいて人間と深い絆で結ばれていると、その光はもっと輝いて、神様が喜んでくれているような気がするんです。
【神社名】「別所琴平神社」【住所】熊本市中央区琴平本町12-27
(まいどなニュース特約・西松 宏)