弟子の若さと才能に嫉妬する中年脚本家 映画「蒲団」の山嵜晋平監督「主人公の好意は行き過ぎなのか、40代の僕は混乱した」 田山花袋の私小説が原案 

不適切にもほどがある?それとも純愛?5月11日公開の映画『蒲団』(山嵜晋平監督)は、1907年に発表された田山花袋による代表的私小説を現代にタイムスリップさせた意欲作。スランプの中年脚本家が、自身のファンを名乗る脚本家志望の女性と師弟関係を結んだことから巻き起こる悶絶を赤裸々に描き出す。

■明治時代の物語が海を渡る

今から100年以上前の原作を読んだ山嵜監督は驚いた。明治時代の男女の悲喜こもごもが、文章から手に取るようにわかったからだ。「原作にある年の差を超えた恋愛感情はもちろんのこと、創作家として自分の限界を知る怖さ、他者の才能に対する憧れと嫉妬心は100年前も今も変わらない。100年以上の時を経ても共感できるのは、そこに普遍的な人間の本性があるから」

普遍性は国境を超えた。日本公開に先駆けて、イタリアはローマのど真ん中で開催されたアジアンフィルムフェスティバルでワールドプレミアされた。「現地の反応は上々で、選考委員の方からは『普遍的でありながらも現代的社会問題をはらんだ新しい物語』と激賞していただきました。観客も拍手喝采で上映後は色々な方から握手を求められました」

■ハラスメント?純愛?

脚本家の時雄(斉藤陽一郎)は、押しかけて来た熱心なファンで脚本家志望の芳美(秋谷百音)をしぶしぶ弟子にする。仕事への情熱を失い、妻とも冷え切った状態の時雄はいつしか芳美に師弟関係を超えた想いを抱き始める。

ところが好意という淡い感情は徐々にエスカレート。芳美のプライベートにも土足で踏み込み、恋人がいると知るやジェラシーにとらわれる。芳美の若さと才能に嫉妬し、手柄を横取り。時雄は知らず知らずのうちに負のスパイラルに落ちていく。

「時雄にしてみれば、自分を尊敬する芳美に対して純粋に好意を抱いただけ。でも傍から見たら行き過ぎた中年の恋心。しかも時雄が芳美に抱いているのは、単純な恋愛感情だけではなく、失った若さに対する羨望や才能に対する嫉妬心があるからややこしい。でもその葛藤には共感できる部分もあって、作りながら『これは…ハラスメントなのか!?』と混乱したことも」

■田山花袋版『不適切にもほどがある!』?

そんな中で目にしたテレビドラマ『不適切にもほどがある!』。コンプラなき昭和から現代にタイムスリップしてきた教師が、令和日本に疑問を投げかけるコメディー。『蒲団』に通ずるものを感じたという。

「すぐさま“この恋はハラスメントなのか、純愛なのか…”というキャッチコピーを考えたほど根っこは同じだと思いました。『蒲団』の原作が生まれた時代と現代の価値観は当然変わっているし、僕ら40代と今の20代の若い人たちの価値観も当然違う。ハラスメントという言葉で表して終わらすのではなく、その行為をきちんと精査する。果たして時雄の行為を全てハラスメントという言葉一つで断罪できるのか?観客の皆さんに見極めてほしいです」と期待している。

(まいどなニュース特約・石井 隼人)

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