一歩進んで立ち止まり 真っ白保護犬の散歩は牛歩状態 ゆっくり成長しながらついに幸せを掴んだ
2021年、奄美大島のある民家でワンコの多頭飼育崩壊が確認されました。地元では「ワンコ屋敷」として知られていたそうで、その数は60匹。
発見以降、保護団体が家主に交渉。懇意の別団体などの協力を経て、1匹ずつ引き取り、幸せな犬生へとつないでいます。
東京・足立で保護・譲渡を活動を行う保護犬猫カフェ・PETSでも、ここ3年ほどで奄美出身のワンコたち、通称「奄美-ず」を複数匹幸せに導きました。2023年も、この奄美の多頭飼育崩壊現場から生まれた子犬を引き取りました。後に「イレブン」と名付けられた真っ白のミックス犬のオスです。
■強い警戒心を持つ一方、攻撃的な素ぶりは皆無
奄美大島から空輸でやってきたイレブン。まだ生まれて間もなくしてケージに入れられ、飛行機の轟音や初めてみる人間を見て、さぞ恐ろしい思いをしたのでしょう、引き取ったスタッフに全く目を合わせてくれませんでした。
こういった際、警戒心の強さから噛み付いたり、吠えたりるワンコもいますが、イレブンはただただ伏目がちなだけで攻撃的な様子はありません。ビビりながらも穏やかで優しい性格であるように映りました。
■ただただジッと一点を見つめて過ごす
やがてPETSの環境に馴れると、当初よりずっと表情が柔らかくなりましたが、他のワンコとの触れ合いをさほど好まず、いつもひとりで過ごしていました。周りのヤンチャなワンコはイレブンに「遊ぼうよ!」とばかりちょっかいをかけてきます。それでも吠えることはなく、一点をじっと見つめて過ごしていました。
ワンコごと性格が違うのは当たり前です。ただし、せめて散歩くらいはマスターしてもらうため、スタッフはイレブンに散歩トレーニングを実施することにしました。
■だるまさん転んだ状態の散歩トレーニング
散歩に不馴れなワンコは、ハーネスをつけるだけで大暴れしたり、なんとかして連れ出しても真っ直ぐ歩いてくれなかったり、あるいは固まったりします。
イレブンは伏目がちではありつつも、ハーネスはさほど嫌がらず、そして散歩に連れていくことも極度には嫌がりませんでした。そして、勘をつかむのも早く、早い段階で真っ直ぐ歩いてくれるようになりました。しかし、その動作があまりにゆっくりなのです。
一歩進んで立ち止まり、また一歩進んで立ち止まる。これもまたイレブンのペースなのです。
他のワンコとはちょっと性格が異なるものの、イレブンらしく成長していって欲しいと願うスタッフは、イレブンが一歩進んで立ち止まるたびに自分も一緒に立ち止まり、だるまさん転んだ状態で帰路につくのでした。
■イレブンがついに「ずっとのお家」を掴んだ
PETSに来て7カ月、イレブンの表情に変化が現れました。緊張しているようないつもの目とは違って、おっとりとした目で周囲を見つめているのです。これは確かな成長です。繊細な性格のイレブンに悟られないよう、スタッフは密かに喜びました。
他のワンコたちと積極的に遊ぶそぶりは見せませんが、ワンコ同士のコミュ術も学び、「リラックスして過ごして良いんだな」「僕は僕のままでも良いんだな」と悟ってくれたようにも映りました。
そして、さらに嬉しいことが。「イレブンを迎え入れたい」という里親希望者さんが現れました。もちろんこれまでの様子を十分承知してくれている方で「たっぷりの愛情を注ぎ、イレブンのペースを最優先にする」と言ってくれました。イレブンはこの方の元でついに「ずっとのお家」を掴むことができました。
長い期間イレブンに寄り添い続けたスタッフは大いに喜びました。まだまだ成長中のイレブンですが、これからは優しい里親さんの元で、1日も長く幸せな犬生を送って欲しいと願うスタッフでした。
(まいどなニュース特約・松田 義人)