不妊治療支援 女性活躍に熱心な企業でも4社に1社 従業員が直面する厳しい現実
大きな課題である少子化の対応、また従業員の働きやすさ改善への取り組みのひとつに、不妊治療と仕事の両立があります。
とはいえ、子育て支援以上にひとり一人の状況が見えにくく、どのような支援が本当に必要とされる支援なのか、またニーズがあるのか、対応を検討する企業側も、支援を求める従業員側も、双方声を挙げにくい状況があるようです。
そんな中、厚生労働省が企業・従業員それぞれに対して、不妊治療と仕事の両立をどのように図るのか、その実態やニーズを調査した結果が2024年3月に公表されました。「不妊治療と仕事の両立に係る諸問題についての総合的調査」です。
■不妊治療と仕事の両立、できる?できない?実際のところ
まずは、不妊治療を行っている従業員が受けられる支援制度などがある企業の割合から見てみましょう。
不妊治療を行っている従業員が受けられる支援制度等がある企業は、26.5%でした。
このアンケートは「女性の活躍推進企業データベース」においてデータ公表を行っている企業から従業員規模10人以上の企業6,000社を無作為で抽出、回答のあった1,859社のデータを集計したものです。女性活躍について熱心に取り組む可能性が比較的高い企業群であると想定できるでしょう。社会全般に不妊治療についての支援制度が普及しているとは、まだまだ言えない状況です。
■不妊治療の支援って実際どんなものがある?
それでは、不妊治療のための制度を導入している企業では、具体的にどのような制度を設けているかを見ていきましょう。
不妊治療に利用可能な休暇制度……47.8%
勤務時間や場所などの柔軟性を高める制度(テレワークを含む)……19.4%
通院や休息時間を認める制度……14.3%
不妊治療に利用可能な費用などを助成する制度……3.7%
その他……5.4%
不妊治療に特化した制度はない……37.2%
不妊治療のための制度を実施している企業のなかでも、半日単位・時間単位の休暇制度がすべての従業員に対して実施しているケースがあり、その場合は「不妊治療に特化した制度はない」という回答に該当します。
制度を設けている場合でも「不妊治療と仕事の両立に関する従業員への普及啓発を実施していない」企業の割合は95.7%と、従業員が不妊治療のために会社の制度を活用できることを知らないケースも少なくないようです。
さまざまな支援策が導入され、社内の認知度も上がってきつつある子育て支援と比較すると、十分とは言えない環境です。
■実際に不妊治療に取り組んでいた従業員の声は?
労働者側に実施したアンケート結果も見てみましょう。
男女労働者2,000人(以前就労しており、現在は離職中の者を含む)を対象としたアンケートでは、不妊治療をしたことがある、もしくは、予定している人は14.5%でした。
両立している(していた)……55.3%
両立できず仕事を辞めた……10.9%
両立できず不妊治療をやめた……7.8%
両立できず雇用形態を変えた……7.4%
治療当時は働いていなかった……18.7%
仕事と両立できず、仕事もしくは不妊治療を諦めた方が3割近くにのぼる状況があります。
さらに、不妊治療をしていることを職場で一切伝えていない(伝えない予定の)人は47.1%。「伝えなくても支障がないから」という理由が37.1%で最も多いものの、周囲に気づかいをしてほしくない、うまくいかなかったときに職場に居づらい、知られたくない、理解を得られないと思うなどの消極的な理由が続きます。
職場では不妊治療を受けていることを誰にも伝えず、通常の有給制度を使って第一子を妊娠したAさん(30代、関東、育児休暇中)は不妊治療支援についてこのような感想を持ったそうです。
「出産は明確なゴールがありますし、どの時期にはどんなサポートが必要か、男性社員も含めて想像しやすいと思います。でも、不妊治療って本当に人によってさまざまですし、そもそも確実に成功するとも限りません。どういう支援が必要なのか、人によって差がありすぎて、難しいですね。少子化解消にいいメッセージにはなると思いますが……」
不妊治療と仕事を両立できるか、制度構築だけでなく職場での心理的安全性のハードルを下げる取り組みが必要です。
【参考】
▽厚生労働省/不妊治療と仕事の両立に係る諸問題についての総合的調査
◆沼田 絵美(ぬまた・えみ)人材業界や大学キャリアセンター相談業務などに20年以上携わる国家資格キャリアコンサルタント。