目を合わさない保護犬 人馴れできないまま里親さんの家へ そして訪れた奇跡 「来た時よりも表情が全然違うね」

2022年1月、動物愛護センターの片隅で人と目を合わさない犬がいました。元野犬のベエ。当時推定3歳のメスで、人が近くに来ると、怯えて体を震わせました。

ベエを引き出したのがピースワンコ・ジャパン(以下、ピースワンコ)。スタッフは保護当初からベエに「怖くないよ。僕たちはベエに危害を加えたりしないから大丈夫だよ。幸せをつかめるよう、一緒にがんばっていこうね」と声をかけましたが、ベエのビビリはなかなか治りませんでした。

■繊細で少し頑固な性格。なかなか懐かなかった

元野犬の多くは人間とのコミュニケーションが苦手とされており、ベエも「人間が怖い」と思っているからかもしれません。

約半年間、心を開いてくれるよう、スタッフはたっぷりの愛情を注ぎ、献身的な世話を続けましたが、ベエは繊細で頑固。なかなか人に懐いてくれませんでした。

■心を開かないベエを前に「この子が良いんです」

ある日、「ベエを迎え入れたい」という里親希望者さんが訪ねてきました。スタッフはベエの出自と合わせて、繊細で頑固な一面がある気難しさ、まだ人馴れができていないことなどを伝えました。「それでもベエが良いんです」と里親希望者さんは繰り返します。

この方の家でトライアルを実施しましたが、心を開く様子はなく、おびえて固まるばかりでした。「大丈夫です。やっぱりベエを迎え入れたい」と話す里親希望者さんの気持ちに揺るぎはなく正式譲渡。ベエは第二の犬生を歩むことになりました。

■ぎこちなくも少しずつ尻尾を振るように…

里親さんによると、ベエはしばらく経っても尻尾を振ることはなく、オモチャなどで遊ぶことはありませんでした。里親さんはベエのペースを最優先に「そのままで良いよ。いつか気が向いたら一緒に遊ぼうね」とおおらかに接し続けました。

ある日のこと。それまではガチガチに固まるばかりのベエが、家の中でお腹を出してグーグー寝る姿を見せてくれました。

「もしかしてベエが『ここは安心できる場所だ』と思ってくれたのかな」と感じた里親さん。ベエは里親さんを「わたしのパートナーなんだ」と理解し始めたのか、ぎこちなくはあるものの尻尾を振ってくれるようになりました。

そこからの懐きぶりはまさにトントン拍子。「私のご飯まだですか?」「そろそろ散歩の時間ですよね?」と里親さんに催促するほどに。また、ベエの背中を里親さんが優しくなでると気持ち良さそうにウトウト。そのまま眠り込み、いびきをかいて熟睡してくれるようにもなりました。

■「来た頃よりも表情が全然違うね」

散歩道でよくすれ違う別のワンコの飼い主さんも、「来た頃よりも表情が全然違うね」とその変化にびっくり。里親さんはこの言葉に心から喜びがこみ上げました。

なかなか心を開いてくれなかったベエがここまでの変化できたのは、里親さんがたっぷりの愛情を注ぎ、焦らず急かさずの根気強い世話を続けたからこそ。傷つき心を閉ざしたワンコでも愛情を惜しみなく注ぎ、待っていれば…。ベエと里親さんの関係はお手本です。

(まいどなニュース特約・松田 義人)

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