事務所に毎日エサをねだりにくる外猫を保護→ダンボールとの相性の良さを実感→強化ダンボール製猫家具、開発したよ! 軽くて頑丈でリサイクルも
SDGsへの関心が深まるにつれ、猫関連商品もサステナブル(持続可能)なものが見直されている。佐賀市の建築デザイン会社「株式会社アルフデザイン」の代表取締役で一級建築士の三原宏樹さん(69)が7年前に開発した強化ダンボールの組立式猫用家具「猫マキベンチ」もその一つ。軽くて頑丈な強化ダンボールは100%リサイクルが可能な資源素材。組み立てが簡単で廃棄コストもかからない。6月には東京ビッグサイトで開催されるインテリア、デザインの国際見本市「インテリアライフスタイル2024」(12~14日)にも出展予定という。開発当時、エサをもらうため会社にやってきていた野良の子猫「ハナタロウ」(愛称ハナちゃん、オス、推定8歳)を保護したことからこの猫用家具が生まれたという。三原さんに話を聞いた。
三原さん あるお客さんから「強化ダンボールという素材があるから、それで家具を作ってみては」と、人間用のデスクやベッドなどをデザインし、作り始めたのは今から8年ほど前のことでした。
当時、会社の周辺には野良猫がけっこういて、毎日、エサをねだりに来ていた1歳くらいの茶白の子猫がいたんです。薄汚れていましたが、健気で可愛い子でした。あとから男の子と気づいて「タロウ」を付けたんですけど、最初は女の子と思って「ハナちゃん」と呼んでいました。試作したダンボールの家具を会社の玄関前に出していたら、その上で気持ちよさそうに寝ていることもありました。
夜になると野良同士が激しく叫び合う声が聞こえることもあり、もしハナちゃんが他の猫にいじめられていたりしたらかわいそうだし、うちで面倒みてあげたいと次第に思うようになりました。最初は警戒していましたが、だんだんと心を許してくれて、抱っこをさせてくれるように。そこで社内に招き入れ、うちで世話をすることにしたんです。
猫を飼うのは初めてでした。ハナちゃんと暮らし始めてまだ間もないころ、僕がああでもない、こうでもないと仕事をしていると、静まり返った夜の事務所内で「ゴロゴロ、ゴロゴロ」という音がどこからともなく響いてくるんです。最初は何の音かわからなかったのでびっくりしました(笑)。ダンボールの中でリラックスして寝ているハナちゃんが、喉を鳴らしている音だったんですよね。
そんなふうにハナちゃんと一緒に過ごしていると、猫の魅力にすっかり取りつかれてしまいました。ダンボールと猫の相性がとてもいいことを実感し、猫と飼い主さんが一緒の空間にいて、お互い快適に過ごせる家具をダンボールで作ってみようと。それで完成したのが猫用ベンチでした。
「猫マキベンチ」は、ビスや糊、道具を一切使わず、簡単に組み立てることができます。「猫マキ」という名前は、ダンボールを四角に巻いたので、そう名付けました。強化ダンボールは軽くて環境に優しく、人が上に座ったり立ったりしてもびくともしないほど頑丈です。床に直接置くと不潔な環境を招くので、高床式構造にしているのも特徴です。引っ越しの際、大型の高級家具だったら廃棄コストがかかりますが、ダンボールはかかりません。借りた資源を形にして生活の中で使い、不要になったら資源に戻す。そんな循環が新たな価値観として定着してくれたらと願っています。
このベンチの試作品を佐賀市内にある知人の猫カフェに持っていったときのこと。猫カフェ内に設置したとたん、5、6匹の猫たちが「なにこれ?」と集まってきて、中に入ったり穴から外をのぞいたり。内部は空洞になっていて上下に移動できるので、ベンチを立てれば猫タワーに変身するというのも発見でした。その猫カフェでは今もこのベンチを愛用してくれています。
ハナちゃんが会社の一員になって以降、3匹の野良猫を保護し、保護犬も加わって、今では保護猫4匹、犬2頭が事務所で暮らしています。スタッフはみんな動物好きなので、仕事中に「ネコハラ」されるのが当たり前といった雰囲気ですね。猫たちは互いに仲良し。ダンボールも大好きです。
今はハナちゃんのことを「ハナタロウ先生」って呼んでいます。猫は媚びないし、人間が思ったとおりには動かない。いつも自由。夜遅くまで残業しているとき、隣にいるハナちゃんが仰向けになって「まだやってるの?」といわんばかりのキョトンとした顔で僕のことを眺めていることもあります。そんな姿を見ていると、猫って賢そうに見えるけど、実は何も考えてないんじゃないかなって、ふと感じます。
「深く考えすぎたって仕方ないよ。それより今この一瞬一瞬を大切に生きて、やりたいようにやったらいいんじゃない?自分がいいと思ったことを形にして、堂々と提案すればいいんだよ」って。ハナちゃんはそんなことを僕に教えてくれているような気がするんです。
【会社名】「株式会社ALPH-DESIGN(アルフデザイン)」
【住所】佐賀県佐賀市鍋島3丁目5-26
(まいどなニュース特約・西松 宏)