信じていた人間に捕まえられた!怒り爆発!野良猫つみれちゃん 「絶対に許さない」…家族との絆は再び築けるのか
神奈川県のK家で人慣れ訓練中の猫のつみれちゃん(推定2歳)は怒っています。怒っているから、家族の誰とも一緒に寝ませんし、いつも部屋のすみっこにいるんです。部屋のすみっこから、家族の様子をじーっと眺める。
そんなつみれちゃんをお母さんは、「いつか分かってくれる」と気長に待っています。だって、それまでも話せば分かってくれていたからです。つみれちゃんがお外で暮らしている時から、たくさんお話をしてきました。たくさんお話をしたから、今、お家につみれちゃんがいます。
■家に迎えないなら、ご飯をあげちゃいけない
つみれちゃんとお母さんが初めて出会ったのは、2023年3月ごろ。初めて猫カフェに行って3日後に、お家の庭にひょろっと現れました。首輪がついておらず耳カットもされていないので、恐らく野良猫です。
つみれちゃんは遠くから見ると、なんだか鰯のつみれっぽい。だから、お母さんが「つみれ」と呼び始めると、3人の子どもたちも呼ぶように。すると、つみれちゃんも自分の名前だと認識し始めました。
そうなると、俄然愛着がわいてきます。「ご飯をあげたい!」と思いましたが、K家の人たちは思いとどまります。お家の子にすると決めた猫じゃないと、ご飯をあげてはいけないと知っているから。
でも、お水ぐらいなら良いかなと思い、ボウルにお水を入れて庭に置きました。
「お水、ここにあるからね」
お母さんはつみれちゃんに声をかけます。つみれちゃんは嬉しそうにお水を飲んでくれました。
■1匹だけの子猫
そんな日々が2カ月ほど続いたある日のこと。近所の家からつみれちゃんがひょっこり出てきたのです。どうやらこの家でご飯をもらっているよう。しかも、つみれちゃんの後ろで子猫がぴょんぴょん跳ね回っているではありませんか。
「つみれちゃんの子ども?見せてほしいな」
お母さんがこう言うと、つみれちゃんは子猫を連れて近寄ってきてくれました。その姿の可愛いこと。
「紹介してくれるの。ありがとう」
嬉しいものの、この時つみれちゃんが連れてきたのは1匹だけ。本来ならもっと沢山子猫がいても良いはずなのに、もしかして…。お母さんは今まで以上につみれちゃんが気になるようになりました。
気になったとしても、どうして良いのか分かりません。思い切ってつみれちゃんを家に迎えようとも思いましたが、実はお父さんが猫嫌い。もんもんと悩みながら、お母さんは猫カフェに行ったりX(旧Twitter)で猫の投稿を見たり過ごしたりするようになります。
■夏休み限定ボランティア
気づけば季節は夏、子どもたちの夏休みが始まろうとしていました。そんな時、Xで気になる投稿を目にします。それは東京都多摩市を中心に活動をしているNPO法人キャットセイビアが、夏休み限定で猫の預かりボランティアを募集しているというもの。
お母さんは思わず「これだ!」と思いました。すぐ申し込みをしたかったのですが、まずはお父さんに相談。嫌がるかなと思いきや、意外な返事でした。
「やってみても良いんじゃない?自分が1カ月我慢すれば良いんだし」
やっぱり猫は好きじゃないようですが、応援してくれるよう。
お母さんは喜んでキャットセイビアに連絡をしました。すぐ代表の伊沢浩美さんから返事が届きます。この時、なぜ預かりボランティアに応募したのか尋ねられました。お母さんはつみれちゃんの相談します。伊沢さんは親身に耳を傾けてくれました。
1カ月、猫の預かりボランティアを経験し、少し慣れたかなと思ったお母さんは、今まで声をかけたことがなかった餌やりの男性につみれちゃんと子猫を保護したいと相談しました。
■また妊娠している!
男性によると、元々子猫は4匹いたのだそう。その内3匹は男性が里親を見つけ、1匹だけ残っているのだそう。道理でつみれちゃんが1匹しか紹介してくれないはずです。男性は残った1匹の猫を保護してくれ、お母さんに預けてくれました。
その後、キャットセイビアと同じく伊沢さんが経営する猫カフェ「たまねこ」を訪れた際、お母さんは子猫を保護していることを伝えます。伊沢さんは里親さん探しを手伝ってくれると申し出てくれました。とても心強い。この心強さが里親探しの原動力になり、子猫は餌やり男性の知人のもとへ。
良かった良かったと思う一方で、お母さんはつみれちゃんを早く保護しないとと気が逸ります。あまり姿を見せなくなり、心配でもありました。つみれちゃんのこと考えながらふと庭に目をやると、なんとつみれちゃんの姿があるではありませんか。しかも、お腹が大きい。
「また妊娠している!」
慌てて伊沢さんに連絡をしました。出産をする前に保護し、これ以上生ませないようにしなくてはなりません。伊沢さんはすぐ駆けつけてくれ、捕獲器を貸してくれました。
お母さんは捕獲器の設置前に餌付けを開始。お庭でご飯が食べられると分かってもらいたいから。しかし、これがまずかった。
■「どこで生んだか教えて?」
あれこれ準備している最中にお母さんはインフルエンザにかかり、2週間ほど動けなかったのです。体調が回復してつみれちゃんを見てみると、お腹がぺたんこ。どこかで生んだのでしょう。お母さんは焦ります。
「どこで生んだか教えて?」
つみれちゃんに尋ねますが、つみれちゃんはしれーっとした顔。毎日ご飯をあげながら、声をかけ続けます。つみれちゃんは柄の長いブラシでゴシゴシしてもらうのが好きですから、ゴシゴシしながら「どこにいるの?」「元気なの?」と声をかけ続けます。
ある時、つみれちゃんがゴシゴシの途中でゴロンとお腹を見せることがありました。この時にお乳が見えたんです。4つ吸われている形跡があります。ちょうど、伊沢さんが様子を見に来てくれている時にゴロンしてくれたので、情報共有ができました。
しかし、数日経つと吸われている乳首が3つになっています。どうやら1匹は…。お母さんは焦ります。近所にも声をかけ、子猫たちがどこにいるのか探しました。
■お母さんの執念
街の木々が色づいた10月下旬、遂につみれちゃんが根負け。お母さんに子猫の居場所を教えてくれました。それは、伊沢さんが「ここじゃないか?」と目星をつけていたところ。さすがです。子猫の1匹は、なんと手づかみで保護。半年前までは猫に触れたこともなかったお母さんが。
次はつみれちゃんの番だとお母さんは意気込んだものの、つみれちゃんとまた会えなくなってしまいました。今までのお母さんなら「困ったな」で終わっていましたが、子猫の手づかみが出来たお母さんは違います。つみれちゃんがご飯を貰っているお家のチャイムを鳴らし、事情を説明。捕獲器を設置してもらうことに。
2023年11月6日、ちょうど、つみれちゃんがご飯を食べにきたところ、お母さんは捕獲器にご飯をセットして声をかけました。
「ここにご飯があるよ」
つみれちゃんは嬉しそうに捕獲器の中のご飯皿に近寄ります。途端、ガシャンと扉が閉まりました。この時のつみれちゃんの表情を、お母さんは忘れることができません。
「しんじていたのに…」
大ショックだったよう。
■ずっと仲良くしてくれたのは誰?
つみれちゃんは、捕獲器に入ったまま動物病院へ直行します。道中は大暴れ。動物病院に到着しても、大暴れの大絶叫。動物病院では避妊手術をしてもらい、各種検査とワクチン接種もしました。色々とやったもんですから、一晩入院に。
翌日、お母さんが動物病院へ迎えに行くと、つみれちゃんはまた大絶叫。「おかあさんをしんじたわたしがバカでしたー!」なんて言っているかのよう。この様子じゃご飯も食べられてないのではと心配になりましたが、看護師さんによると食欲旺盛とのこと。どうやら、つみれちゃんの心が乱れるのは、お母さんの前だけのよう。
K家に到着すると、つみれちゃんケージの中のトイレに籠城。絶対に心なんか開いてあげないんだからと、顔をプイッします。お母さんは何とか機嫌を直してもらおうと、チュールをケージの中に差し出しました。もちろん、つみれちゃんは口をつけません。すると、今度はお母さん、柄の長いスプーンにチュールをのせて差し出したのです。さあ、つみれちゃんはどうする!?
つみれちゃんは怒っています。信じていたお母さんから、こっぴどい裏切りを受けました。こんな狭いところに閉じ込めておいて、チュールなんかで機嫌が直るだなんて思わないでほしい。けれど、今までずっと仲良くしてくれたのもお母さんです。
少しだけ、つみれちゃんはスプーンからチュールを食べることにしました。チュールはお外にいる時から、つみれちゃんの大好物です。気づけば、スプーンは空っぽに。お母さんは笑いながら、またチュールをスプーンにのせてくれました。
■もちろん今も怒っている
現在のつみれちゃんは譲渡会デビューを目指し、我が子の1匹であるネロリちゃんと一緒にK家で暮らしています。他の2匹は、伊沢さんとキャットセイビアが里親さんを見つけてくれました。もちろん、今も怒り続行中です。
怒っているから、人間が歩く場所でお腹を見せてゴロンしてとうせんぼしますし、ブラッシングも柄の長いものでしかさせてあげません。変なところをゴシゴシしたら、猫パンチ!こんなに怒っているのに、お母さんも子どもたちも「可愛い」って言うんです。失礼しちゃう。
猫じゃらしなんて子どもだましな玩具で遊ぶことなんて、もちろんありません。が、ゴム紐の先にネズミがくっついた玩具は面白いと思ってしまいました。不覚。
つみれちゃんは怒っています。怒っているとお母さんが機嫌を取ってくれるから、ちょっと嬉しいです。でも、本当は素直に甘えたいと思っています。そのきっかけが、まだ見つからないだけなんです。
お母さんはもちろん、そんなこと全部お見通しなんです。
(まいどなニュース特約・ふじかわ 陽子)