吐き戻したエサで命をつなぐ野犬親子 体中のけがとダニが示す厳しい環境 保護された子犬は飢えから解放され心開いた
静岡県西部の山野に野犬の親子が暮らしています。子犬たちがまだ小さいうち、母犬は山を下りてエサ場に向かい、食べられるだけのエサを食べて再び山の中へ。子犬のもとに戻った母犬は食べたエサを無理に吐き出し、子犬たちになんとか栄養を与えて育てていました。
母犬の行為に胸が熱くなりますが、それで子犬たちが満足な栄養を摂取できるかというとそうとは限りません。息たえてしまう子犬もいれば、空腹のあまり自ら山を降りエサを探す子犬もいます。
2024年春に保護された真っ白のオスの子犬のひなたも、おそらくはそんな理由で山を降りてきました。
■まだ小さいもののお腹を空かして山から降りてきた
ひなたを保護した静岡県の保護団体・アニマルフォスターペアレンツのスタッフは当初、野犬親子を保護し世話しようと計画。しかし、成犬の野犬を保護することは至難の業です。1カ月以上、保護できぬままだったところにお腹を空かしたひなたが降りてきたのでした。
保護当初ひなたは生後2カ月半ほど。全身にダニがびっしり付着していました。体中のあちこちに擦りむいたようなけがもあり、山の中での厳しい生活を物語っていました。
■体を震わせ目を合わさないようにしていた
ひなたは体を細かく震わせ、スタッフと目を合わせません。スタッフは「大丈夫だよ。怖いことはしないからね」と声をかけ、たっぷりのエサを与えました。
すると、あっという間に完食。食べ終わったところでやっとスタッフと目を合わせてくれました。
スタッフは「大丈夫。ひなたのペースで良いからね。少しずつ人馴れして、笑顔を見せてくれるようになったら、優しい里親さんを探して不安なく過ごせると良いね」と話しかけました。
■人馴れ前に「迎え入れたい」という里親希望者さんが現れた
多くのワンコを救ってきたスタッフは、ひなたの人馴れはそう簡単に進まず、譲渡はまだまだ先になるだろうと考えていました。
そんな矢先に「ひなたを迎え入れたい」と申し出がありました。まだひなたが人馴れしていないこと、飼い犬としての最低限のトレーニングも済んでいないことなどから「どうすべきか」と悩みました。しかし、里親希望者さんは「うちできちんとひなたの世話をし、必ず幸せな犬生にしてあげたいと思っています」と言います。
スタッフはこの熱意に押され、まずはこの方の家にトライアルとしてひなたを預けることにしました。
■「ここが僕の新しいお家なんですね」
トライアル当日。優しい里親希望者さんの愛情をすぐに感じ取ったのか、ひなたは家の中に招き入れられてすぐに、ケージの中でグッスリと寝ていました。保護当初に見せた震える様子や目を合わさないといったこともなく、里親希望者さんの前ですぐにリラックス。エサもよく食べ、「ここが僕の新しいお家なんですね」とでも思っているかのようでした。
里親希望者さんもひなたがすぐに懐いてくれたことを大いに喜び、ここで正式譲渡となりました。
「今日はなにか食べられるだろうか」。飢えと隣り合わせで生きてきたひなたは、優しい里親さんの元で不安のない第二の犬生をつかみました。
良かったね、ひなた。これからいっぱいトレーニングしてさらに成長するんだよ!
(まいどなニュース特約・松田 義人)