多頭飼育崩壊の独居高齢女性宅から保護した温厚なチャトラ 優しい里親に引き取られて幸せになれると思ったが…トライアル中止を決めた理由

■揺れる気持ち

しまくんは、独居の高齢女性がペット不可の物件(UR)に住みながら飼っていた猫だった。女性は外猫を保護し続けて多頭飼育になり、世話が行き届かない状況に陥ってしまっていたという。そこには7匹の猫がいて、愛護団体NPO法人ねこけんの代表は以前から、何度も話を聞いて相談に乗ってきた。室内は荒れ果て、糞尿の臭いが充満していた。

女性は「全部保護して下さい」「やっぱり大丈夫」「4匹だけ連れて行って」「預かってくれる人がいるから大丈夫」「お金がないから引越せない」など、話がコロコロと変わり、一向に進展が見られなかった。

「不安な気持ちや、淋しい気持ちからなのでしょう。その都度スケジュールを組んではバラしを繰り返しながら、女性の気持ちに寄り添ってきました」

■やっぱり7匹連れて行って下さい

しかし、とうとう2018年8月末までに退去しなくてはならなくなり、遂には強制執行期日が決められた。

女性は「7匹とも保護してください。譲渡先を探して下さい。出ていかないとならないのですが猫だけは何とかしてあげたい」と連絡してきたそうだ。

代表は「行こう!今度こそ7匹とも保護して、安心して引越しができるように、ちゃんとご自身の体調管理もできるようにしてあげよう!」と行動に移った。

急遽メンバーが集まり、獣医師も同行。ボラ仲間のJさんも一緒に猫を引き取りに行った。

「中に入ると結講な臭いがして、室内には物が散乱し、お一人で7匹の猫との生活が大変だったことが分かりました」

いざ、保護開始!と思いきや、女性が「やっぱり4匹だけ連れていって」と言い出した。

「引越し先は何匹飼ってもいいって言ってくれている。誰々さんが預かってくれる。残りの子たちは、友達が引き取ってくれる。飼ってくれる人がいる…など元の木阿弥でした」

メンバーは「今日引き受けないと、もう次がないですが大丈夫?」と念を押した。事実、保護を希望する人や保護が必要な猫はたくさんいて、保護場所はすぐに埋まってしまう。それでも押し問答は続いた。「大丈夫」「何匹飼ってもいいと言われている」「若い子だけ連れていって」「猫は大丈夫だから」と。

代表は、「分かりました。何匹飼っても大丈夫なのでしたら7匹連れて行かれるんですね?では、引き揚げますね」と言った。しかし、帰路の車内で、次の相談の話をしていると、代表の携帯が鳴った。「やっぱり7匹連れて行って下さい」。ねこけん部隊は引き返して、保護を開始した。

■そこには猫と飼主さんとの生活があった

猫たちはキッチンや流しの下、たんすの中などあらゆる隙間にいて、捕獲は数日間にわたって行われた。

時間はどんどん過ぎて行くと、女性は再び、

「一番年寄りのキジ猫ちゃんは自分で飼いますので、連れて行かなくて結講です」と言い出した。そこから再び話し合いをして、代表は、「引っ越しの時に、猫たちが脱走したら大変ですよね?一度ねこけんで全部引き上げますから、お引っ越しを済ませて生活が安定したらキジ猫ちゃんを迎えに来てください」と言った。

猫たちが全てキャリーに入ると、汗だくで埃まみれの代表は、猫たちと飼主さんとの生活に想いをはせた。「忘れてはいけない。ここで何年も猫と飼主さんとの生活があったことを」と。

■幸せは押し付けてはいけない

7匹の猫のうちの1匹だったしまくん。可愛いチャトラの猫だった。温厚な性格で子猫にも優しい、そんなしまくんを家族に迎えたいという人が現れた。

メンバーは「しまくんなら、きっとかわいがってもらえる!」そう確信した。しかし、人の想いとは裏腹に、しま君はトライアル先で背を向けてしまったという。

「ご家族様はしまくんのことを一番に考えて、トライアルを中止することにされました。なぜしま君は心を閉ざしてしまったのだろう?と考えたのですが、みんなが不思議に思うほど、しまくんは猫フレンドリーだったのです」

優しい里親さんならいい、というのは幸せの押し売り。

「しまくんは誰かと一緒に、家族の一員になりたかったのでしょう。私たちは、しまくんには必ず2匹飼い希望のご家族さまに繋げようと思いました。私達がしっかりと性格や環境を考えないといけません。善意や親切を押し付けてはいけないのです」

その後、しまくんは多頭飼いしてくれる里親に引き取られ、元気に暮らしているという。

(まいどなニュース特約・渡辺 陽)

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