コロナ禍で失業したキャバ嬢 全財産を持って恋人は去った パパ活に頼らざるを得なくなった女性たち 荷風原作映画「つゆのあとさき」監督インタビュー
路上などで売春相手を探す「たちんぼ」や、男性とのデートや性行為の見返りに金銭を受け取る「パパ活」。若年層のそうした行為がコロナ禍を機に社会問題化している。6月22日公開の映画『つゆのあとさき』は、コロナ禍をきっかけに体を売る生活に身を投じた少女たちの苦い青春譚だ。
原作は100年ほど前に書かれた永井荷風による同名小説。1956年に一度映画化されているが、山嵜晋平監督は「知り合いの知り合いにパパ活をしている女性がいて、その子に話を聞けば聞くほど荷風の『つゆのあとさき』とまったく変わらない状況に驚かされた」と物語の舞台を現代に置き換えて再構築した。
■パパ活女性たちを実際に取材
原作に描かれている銀座のカフェーで女給をする自堕落な君江を、令和の世をパパ活女子として彷徨う琴音(高橋ユキノ)に転生。琴音が出会い喫茶で交流を持つ少女や男たちの姿を通して、人間の持つ悲しさやたくましさを描く。
現代のリアリティを反映させるため、パパ活女性たちを実際に取材。「パパ活一本で生活している人もいれば、会社に勤めながらパパ活をしている人やバイト感覚でやっている大学生もいる。まさに多種多様」。その状況は様々だが、一筋縄ではいかない背景にも接した。
「コロナ禍になってバイトもなくなり、日銭を稼ぐためにパパ活をする女性がいた。苦しくなって実家に戻ると父親から『お前が勝手に大学に進学すると言って家を出た。自分の責任は自分で取れ』と突き放された。助けを求めてきた実の娘になぜそんな言葉を吐けるのか?意味不明だった」
そうした取材の成果が、SNS上で何者かから誹謗中傷を受ける琴音、清楚な女子大生・さくら(西野凪沙)、二枚舌の楓(吉田伶香)というパパ活女子のリアルなキャラクターを生んだ。
■出会い喫茶の異様な光景
「買う」側の男たちにコンタクトを取るため、コロナ禍の出会い喫茶にも行ってみた。だが目の前に広がる異様な光景に思わずたじろいだ。
「見学スペースのような狭い場所に男たちがすし詰め状態。昼間は60、70代の年配者が多く、夜はスーツ姿のサラリーマンで大繁盛。コーヒー飲み放題でエアコンも効いていて涼しいから、朝から晩まで居座って衝立の向こう側に見える女性たちの生足を鑑賞するだけの男もいた。まさに異様な憩いの場。客の男たちは何を目的に来ているのか自覚しているので『立ち入ってくんな』感が凄まじかった」と打ち明ける。
店側は「出会いの場のご提供」というスタンスに徹しているという。「別途店に金を払うと女性を個室に呼ぶことができる。そこで男性客が女性と交渉して外に出る。店としてはそこから先は店外での出来事なので、二人が何をしようがノータッチなわけです」
■転落した穴は意外と深い
コロナ禍で勤務していた店が突然閉店したキャバクラ嬢の琴音。全財産をホストの恋人に持ち逃げされ、住む場所を失くす。街で知り合った家出少女にも騙され身ぐるみはがされた結果、自らの肉体で日銭を稼ぐため出会い喫茶に入り浸る。
転落の端緒は人それぞれだが、共通するのは落ちた穴の深さだという。山嵜監督は「コロナ禍などの社会的不安が起こった時にどうすればいいのかわからない人たちは多い。ふとしたはずみで道を踏み外すこともある。厄介なのは落ちた穴は意外と深いということ。今の社会構造だと這い上がるすべを見いだせないのが現状としてある」と警鐘を鳴らしている。
渋谷のスクランブル交差点で撮影された本作のポスターには、都会で生きることに迷い、それでも懸命に明日を探そうともがく琴音の姿がとらえられている。その明日が光に満ちていることを願いたい。
(まいどなニュース特約・石井 隼人)