行方不明になって10年…すでに「死亡扱い」となっていた兄が突然現れた 亡き父の財産相続はどうなるのか【行政書士が解説】

2024年6月に警察庁生活安全局人身安全・少年課が公表した「2023年における行方不明者の状況」によると、2023年度の行方不明者数は84,910人でした。ここ10年では毎年7.7万人から8.8万人の人が行方不明になっています。行方不明になってから年月が経過すると、失踪宣告をして法律上死亡したものとして扱われます。

この失踪宣言にまつわるトラブルで、1年前に父を亡くしたAさん(50代・男性)は頭を悩ませていました。Aさんの父は自分の財産相続で親族が争うことを危惧して、生前に遺言書を作成していたのです。この遺言書のおかげで大きなトラブルもなくAさんは財産を相続します。財産をもとにアパートを購入したAさんは、幸い入居者に恵まれて毎月一定の家賃収入を手に入れることに成功しました。

そんな時、AさんのもとにAさんの兄・Bさん(60代・男性)が現れます。実はBさんは10年前に家を出て以来、行方不明になっていました。Bさんが失踪した当時、AさんやAさんの親族たちはBさん捜索に手を尽くしたのですが、見つけることはできなかったのです。そして失踪から7年後、Aさんの父が失踪宣告を申し立てたことによって法律上は死亡したものとされていました。

Bさんが死亡したものとして、Aさんの父の遺産相続を終えていたのですが、Bさんが存命であることが判明した結果、Aさんたちが相続した財産はどうなってしまうのでしょうか。北摂パートナーズ行政書士事務所の松尾武将さんに聞きました。

ー失踪宣告とはどういうものですか

そもそも失踪には危難失踪(特別失踪)と普通失踪の2種類が存在します。危難失踪(特別失踪)とは、戦争、船舶の沈没、震災などの死亡の原因となる危難に遭遇しその危難が去った後その生死が1年間明らかでない場合を指します。普通失踪は、行方不明者の生死が7年間明らかでない場合です。配偶者や相続人などの利害関係人が家庭裁判所に申し立てを行います。

家庭裁判所が失踪宣告を出すと、対象者は亡くなったという扱いになります。今回のケースでは、Aさんの父親が亡くなった時点で、Bさんは失踪宣告を受けており死亡扱いになっていました。Bさんには配偶者も子どももいない中で、遺言上の承継人としてAさんが指定されていることから、父親の遺産はAさんが承継することになります。

ー今回の場合、Bさんが生きて現れたわけですが、遺産相続はどうなりますか

本人や利害関係があるものなどからの失踪宣告取消の申立てにより、失踪宣告が取消されると、失踪宣告ははじめからなかったことになります。しかし遺言書には、Bさんの生存が明らかでないことから、Bさんへ遺産を承継させる記述はありませんでした。したがって、遺言書の内容自体は有効であると考えます。

ただし、Bさんには遺留分侵害額請求権が発生すると考えられます。遺留分侵害額請求権とは、本来得られるはずだった遺留分を、不平等な遺言や贈与によって侵害された場合に、遺留分の取り戻しを請求できる権利です。今回の場合だとBさんは、Aさんに対して遺留分の取り戻し請求ができるわけです。

また遺留分侵害額請求権は、遺留分権利者が相続の開始と遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から、1年間行使しないと時効により消滅します。また、相続開始時から10年を経過しても消滅します。このため、この期間内での権利行使が必要です。

請求された遺留分は金銭で支払うことになります。ただ既に相続財産でAさんはアパートを建てており、支払うだけの金銭がないのであれば、家賃収入の一部から月々支払うといった取り決めをBさんと交わすなどの協議が必要かと思います。

失踪宣告取消し後の法律関係については専門家の間でも解釈に幅があり、裁判上の最終判断がそれぞれ異なった結論となる可能性もありますので注意が必要です。

◆松尾武将(まつお・たけまさ)/行政書士 前職の信託銀行員時代に1,000件以上の遺言・相続手続きを担当し、3,000件以上の相談に携わる。2022年に北摂パートナーズ事務所を開所し、相続手続き、遺言支援、ペットの相続問題に携わるとともに、同じ道を目指す行政書士の指導にも尽力している。

(まいどなニュース特約・八幡 康二)

関連ニュース

ライフ最新ニュース

もっとみる

    主要ニュース

    ランキング

    話題の写真ランキング

    リアルタイムランキング

    注目トピックス