「うちの子になりたいのなら、中におはいり」玄関ドアを開けて呼びかけると…!? 愛猫の死がきっかけで出会った「人間の言葉が分かる猫」

猫に言葉なんて分からない。そう大阪府のOさんは50年以上思っていました。しかし、チャトラ猫のマイケルくんと出会ってから、考えを改めました。だって、マイケルくんがOさんの家の子になったのは、マイケルくんがOさんの言葉を理解できたからかもしれないんです。

■葬儀に参列する猫

マイケルくんは元々野良猫の地域猫です。2020年からOさんの家にご飯を食べにきていました。ところが、高齢で持病のあるバロンくんがOさんの家を根城と決めてからは、足が遠のくことに。バロンくんが完全にOさんの家の子になり、外に出なくなっても、マイケルくんはご飯を食べにくることはなかったのです。

そのバロンくんが猫エイズを発症し他界した2022年4月、Oさんはマイケルくんと同じく地域猫の黒猫の女の子に出会いました。Oさんはバロンくんを喪った悲しみを誰かに伝えたくて、ついこの黒猫に話したんです。

「バロン、死んじゃったよ。今まで優しくしてくれて有難う」

黒猫はOさんに何の返事もせず、その場をあとにします。Oさんはそんなものだろうなと思いました。猫に言葉が通じるはずもないから。

それなのに夕方、黒猫とマイケルくんはOさんの家に来たんです。その日の昼間、Oさんが頼んだ火葬車の横にちょこんと座って、本当にお葬式に参列しているかのよう。火葬車が走りだすと、黒猫とマイケルくんはOさんに一礼するかのような仕草をし、夜の住宅街に消えました。

Oさんは感激しました。マイケルくんはバロンくんと離れて暮らして1年4カ月であるにも関わらず、覚えていてくれたことに。何より、大事な仲間として見送ってくれたことに感謝しかありません。とめどなく涙があふれてきます。Oさんはマイケルくんが消えた住宅街の闇に頭を下げました。

■預かりボランティアを始める

バロンくんを見送ってからのOさんは、心にぽっかり穴があいたかのよう。それでも仕事はありますし、生きていかなくてはなりません。なにより、バロンくんの保護から治療まで色々とお世話になったNPO法人「地域猫管理協会」にお礼も言いたい。

Oさんは何はなくとも、まず地域猫管理協会にお礼を伝えました。伝えないと、悲しみで胸が押しつぶれされてしまいそうだったから。

その時、バロンくんと同じく高齢で猫エイズキャリアの3兄妹がシェルターにいると教えてもらいました。ぜひ、預かりボランティアを始めたいと頼み込み、3兄妹を家に迎えることに。カイトくん、ミントちゃん、プリンくんです。

3匹とも穏やかで優しい性格のため、バロンくんを喪ったOさんの心を慰めてくれました。特にミントちゃんは甘えん坊のため、Oさんは寂しがっている暇がないほど抱っこをせがまれます。

そんな日々が当たり前になっていた2023年7月のこと。Oさんが出勤しようと朝家を出ようとすると、玄関前にゴロンと何かが転がっているではありませんか。よく見ると、マイケルくんです。

■人間の言葉が分かるかもしれない猫

「そこにいると踏んずけてしまうよ。別の場所に行って」

そうOさんが言うのですが、マイケルくんは知らんふり。次の日の朝も、その次の日の朝もやってきては、玄関前でゴロン。

Oさんはうちの子になりたがっているのかと思い、地域猫管理協会から捕獲器を借りることに。これでマイケルくんを捕獲して、家の中に入れよう。

捕獲器を借りたはいいけれど、一人で使うのは初めてのOさん。今までは地域猫管理協会の人たちが助けてくれていました。今度は一人でマイケルくんを捕獲しなくてはいけません。頑張らねば。

手順通り設置し、マイケルくんをおびき寄せます。ところが、マイケルくんはなかなか入ってくれません。ここでOさんは思い出しました。マイケルくんは“人間の言葉が分かる猫”だということを。試しに玄関ドアを開けて、言ったんです。

「うちの子になりたいのなら、中におはいり」

するとマイケルくんは、すっと中に入っていくではありませんか。Oさんは慌ててドアを閉め、洗濯ネットを持ってマイケルくんを追いかけます。完全に家へ入る前に動物病院で色々と検査をしないといけませんからね。

■猫の都合で生きる

検査の結果、年齢は推定7歳で猫エイズキャリアだと分かりました。猫白血病はなかったので一安心。ただ、ノミやダニに食われているせいか貧血がひどい。Oさんはマイケルくんにたくさんご飯を食べさせました。

さて気になるのは、預かりボランティアでO家にいる3匹です。兄妹ですから仲良し。そこにマイケルくんが入っていって、仲良くできるのか…。隔離期間を終えたマイケルくんを3匹に会わせる時、Oさんはとても心配でした。

でも、Oさんが思うほどカイトくんもミントちゃんもプリンくんも心は狭くありません。マイケル君を新しい家族として迎えてくれました。今ではくっついて寝るんですよ。

4匹の猫はそれぞれ持病があり、通院に時間もお金も取られていますが、Oさんはとても幸せです。猫を迎えてから、時間やお金の使い方を改めるようにしたからです。とても充実しているとのこと。

Oさんは笑顔で言います。

「自分の都合だけで50年以上生きてきましたが、猫の都合で生きることがこんなに嬉しいことだなんて思いもよりませんでした」

■猫の通訳

現在、マイケルくんは猫エイズが発症し、随分体がつらい状態です。せっかくOさんの家で快適に過ごせるようになったのに、神様は無情です。でも、マイケルくんはOさんを信頼して病院へ嫌がらず通います。Oさんは懸命に生きようとするマイケルくんを必死にサポート。

病院の待合室で、Oさんとマイケルくんはたくさんお喋りするんです。ここでは三兄妹がおらず、ふたりきりだから。たくさんお喋りをして、仲を深めています。Oさんは随分と軽くなったマイケルくんの体を撫でながら、何度も言うんです。

「うちに来てくれて有難う」

マイケルくんは何度も静かにまばたきをします。この穏やかな時間は、猫に人間の言葉は分からないと固定概念にとらわれていては得られなかったでしょう。

バロンくんはこの様子がお空から見えているかな。もし見えているなら、マイケルくんをもう少しOさんのもとにいさせてあげて。まだマイケルくんは、Oさんのもとにいるべきなんだよ。だって、Oさんはバロンくんの分までマイケルくんを幸せにしたいと考えて、奮闘しているのだから。

(まいどなニュース特約・ふじかわ 陽子)

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