「あんな娘には財産はやらん!」のはずが…実現されなかった80代男性の遺言 行政書士が解説する“トラブル回避策”

険悪な関係になってしまった相続人に、自分の財産を遺したくない場合があったとします。そんな時は遺言書に自分の意思を記しておけば、亡くなったあともその意思は法的に尊重されます。Aさん(80代・男性)も遺言書を使って相続について自分の意思を書き残そうとしているひとりでした。

Aさんには長男、長女、次女の3人の子どもがいます。妻に先立たれていたため、自身が亡くなれば財産の相続人はこの3人のみです。ただ、Aさんは次女との不仲に悩まされていました。50代の次女は若いころに勘当同然で家を出て以来、実家にはほとんど顔を見せていません。たまに帰ってきたと思ったら、Aさんに「お金を貸してくれ」と言うばかりで、苦々しく思っていました。

そこでAさんは、財産を長男と長女に相続させ、次女には財産を残さないことを決めていました。そして自分が元気なうちにその意思を記した遺言書を作成したのです。

しかし、遺言書が作成された時期にAさんの長男が急な事故で他界してしまいます。息子に先立たれたAさんは酷く落ち込んでしまったことも悪影響となり、以前から患っていた持病の悪化によって、ほどなくAさんも他界してしまいました。

その後Aさんの遺言書が弁護士によって公開され、長男と長女に全ての財産を相続するというAさんの意思が親類一同に知らされます。ただこの時点で長男が亡くなっていたため、本来長男が相続するはずだった財産の行く末が宙に浮いてしまったのです。

長男の子どもは、長男に相続させるはずだった財産は自分が相続すべきだと主張します。しかし、いざ遺言内容に沿った分割協議をおこなうと、財産が欲しい次女の猛烈な反対により成立せず、その後の調停・審判によって遺言内容とかけ離れた法定相続割合が適用され、次女にも財産が渡ることとなりました。

Aさんが遺言書に込めた思いを実現させるには、どうするべきだったのでしょう。北摂パートナーズ行政書士事務所の松尾武将さんに聞きました。

ー相続人が被相続人よりも先に亡くなった場合、遺言の効力はどうなるのでしょうか

今回のケースのように、Aさんが長男に財産を遺す意思を遺言書で示していても、先に長男が亡くなるとその部分の遺言は、原則無効になります。一方、長女の分に関しては遺言の内容が有効となります。

無効分の財産は、相続人が相続分に応じて相続することになります。具体的には、長男が相続するはずだった財産は、長女、次女、長男の子どもとの話し合いで分割方法を決めることになります。

ーこういうケースはどうやったら防げたのでしょうか

まずは長男が亡くなった際に、遺言書を再度作成するべきでした。ただ、最初に遺言書を作成した時は元気だった人が、その後、認知症になるなどして遺言能力が欠如した場合書き直しは難しいでしょう。また、なんとか書き直せたとしても遺言能力の欠如を理由に、遺言書が無効とされてしまう場合があるので注意が必要です。

さらに今回のようなケースを想定して「予備的遺言」を作成しておくといいでしょう。「予備的遺言」とは停止条件付遺言のことで、今回のケースでは相続人が遺言者よりも先に亡くなった場合のことを想定して、次に相続する人を指定しておく遺言方法です。

一例として下記のような条項を記載します。

   ◇   ◇

第〇条 遺言者は、遺言者が有する下記財産の一切を、長男〇〇(昭和〇〇年〇月〇日生)と長女△△(昭和△△年△月△日生)に各〇分の〇の割合で相続させる。

第△条 遺言者の死亡以前に長男〇〇が死亡していた場合は、遺言者は前条項の財産のうち長男〇〇に相続させるとした財産を、長男〇〇の子●●(昭和●●年●月●日生)に相続させる。

   ◇   ◇

このように記述をしておけば、長男が相続するはずだった財産もその子どもが相続することとなり、次女には渡したくないという遺言者の意思は最大限尊重されるでしょう。

ただ、この「予備的遺言」もあらゆる事態の全てを想定するとなると大変複雑な遺言となり、遺言執行に支障が出る危険性もあります。そのため、実際にどのような遺言書を作成すればいいかは専門家と相談してじっくり作っていくことをおすすめします。 

◆松尾武将(まつお・たけまさ)/行政書士 前職の信託銀行員時代に1,000件以上の遺言・相続手続きを担当し、3,000件以上の相談に携わる。2022年に北摂パートナーズ事務所を開所し、相続手続き、遺言支援、ペットの相続問題に携わるとともに、同じ道を目指す行政書士の指導にも尽力している。

(まいどなニュース特約・八幡 康二)

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