朝礼と着替えのために定時よりも30分早く出社しています。これって残業代はもらえないのでしょうか?【社労士が解説】
企業での働き方として、始業時間になると朝礼をおこない、その後に業務を始めるケースが多いです。しかしAさんが働く工場では、始業時間の10分前から朝礼がおこなわれていました。また出勤後に作業着への着替えが必要なため、Aさんは朝礼の時間も考慮して、いつも定時の30分前には工場に到着しているのです。
毎日定時よりも30分前には出社しなければいけないにもかかわらず、着替えと朝礼の時間に対して給料が支給されていない状況にAさんは納得できません。どうにか着替えと朝礼の時間を業務時間とすることはできないのでしょうか。社会保険労務士法人こころ社労士事務所の香川昌彦さんに詳しく聞いてみました。
ー朝礼や着替えの時間は、業務時間にあたるのでしょうか
まず朝礼と着替えを分けて考える必要があります。朝礼は時間が決められたうえで、全従業員を対象として参加を義務付けられているため、業務時間と判断されるでしょう。
一方、着替えの時間自体は業務時間にあたるのですが、会社全体で一律に時間設定できないという問題があります。例えば作業服に着替えるだけの部署であれば、スーツで出社するため着替えが不要の部署もあるでしょう。また作業服に加えて、専用の防護服やクリーンルームを経由する必要がある部署もあるため、部署ごとの調査もしつつ問題提示する必要があります。
ちなみに昨今では、多くの会社が着替え時間を加味して、定時から10分後に朝礼というような定時設定しています。
ーAさんの工場では定時前におこなわれていますが、改善するにはどうしたらいいでしょうか
今回の場合であれば、Aさんは早出扱いになるので残業代の請求が可能です。10分の朝礼時間分の残業代はそのまま請求できるでしょう。ただ着替えの時間については、交渉してどれくらいの時間が妥当なのか決める必要があります。
その他、工場であればラジオ体操を採用しているところもありますが、その時間も全員参加が義務付けられていたら、業務時間扱いになります。ただ、ラジオ体操の音楽だけが流れていて、参加が任意であれば業務時間扱いにはなりません。
ー業務時間だとみなされる条件はどんなものがありますか
大きく分けて条件は2つあります。ひとつは時間的な拘束です。会社や工場からこの時間はここにいなさいと指示された場合、この時間は業務時間だとみなされます。今回のケースでは朝礼がこれにあたります。
昼休みの電話番も同じです。仕事場から離れずいつでも電話に出られるようにすることは、仮に電話がかかってこなくても、その昼休みは休憩ではなく業務時間と判断されます。
もうひとつは、時間的拘束が無くても、業務になんらか関係することを就業時間外におこなう場合です。例えば翌日にプレゼンがあるとして、そのリハーサルを家でおこなった場合が該当します。
上司が関知しない自主練的なものであれば労働とはいい難いですが、終業直前などに上司が「明日に向けて万全の準備をしておくように」など発言していた場合は「会社からの指示」となり労働とみなされる可能性が高いです。
ー定時前の時間だと残業として割増賃金になるのでしょうか
1日の労働時間が8時間を超えた分が割増賃金となります。そのため8時間以内であれば通常の賃金と同じです。つまり始業時間が朝礼と着替えの分だけ早くなるイメージです。
ーこの請求によってAさんが会社に居づらくなることはないでしょうか
絶対ないとは言い切れないので、まずは身近な先輩や上司、人事担当などに、朝礼や着替えの時間が業務時間の一部であることを知っているか確認することから始めるのをおすすめします。
もしかしたらその工場の経営者が、朝礼や着替えの時間が業務時間にあたることを知らない可能性もあります。実際に私も多くの経営者とお会いしたなかで、この件について知らない人に出会ったことがあります。
朝礼や着替えの時間が業務時間の一部となることを知っていて、このような運用をしている場合であれば、次に自分が働いた時間の記録をメモなどで残すようにしましょう。この記録があれば労働基準監督署に相談することや、会社を辞める際に補償を求めることも可能です。
◆香川昌彦(かがわ・まさひこ)社会保険労務士 大阪府茨木市を拠点に「良い職場環境作りの専門家」として活動。ラーメン愛好家としても知られ、「#ラーメン社労士」での投稿が人気。
(まいどなニュース特約・長澤 芳子)