飼い主が強制退去、差し押さえられた猫たちは… 3匹の猫がたどった数奇な運命
■差し押さえられた荷物と飼い猫たち
「強制退去で差し押さえされた荷物と共に2匹の飼い猫も連れて行かれた!保護してほしい」という相談が愛護団体NPO法人ねこけん(以下、ねこけん)に寄せられた。
飼い主は数日公園や駐輪場で過ごしていて、ホームレスになったという。
「人も猫も命に係わる緊急事態でした。メンバーが途中まで男性を迎えに行くと、優しそうな50代の男性が事務所にやってきました。」
話を聞くと、仕事の契約が切れ、その後仕事を探すもなかなか見つからず、幸い蓄えがあったので、それで生活をしながら仕事を探しているということだった。
「ただ、当時はコロナの影響もあり、仕事につけないまま時間だけだ過ぎて行ったということでした。 男性は、『こうなったのも自分のせい。住んでいた所の大家さんも家賃滞納をかなり待ってくださいました。貯えがあったがために焦りがなかった』と、反省されていました。」
家族や親戚にも「迷惑はかけられない」という男性。「親に連絡が行くのは困る。週に一度働いているので生活保護も受けられないと思う」と言った。
猫たちは荷物とは別に、差し押さえ業者の倉庫で保護されていた。そこでは、「1ヶ月間だけ最低限の世話はするが、医療にかけたりはできない」ということだった。
ねこけんの代表は男性に、「猫さんはうちで引き取りますので、大丈夫ですよ」と声をかけた。
■強制退去、ペットたちの行方は
猫たちがいる会社に行くと、こういう場合、猫は保健所へ連れていかれるそうだが、担当者がたまたま猫好きだったので、無償で約1ヶ月間預かってくれたという。
「倉庫の中に大型のケージを作り、寒くないように周囲を段ボールで囲み、中にはベッドや段ボールで隠れる所まで作ってくれていました。
2匹の猫をキャリーに入れて帰ろうとすると、周囲をうろうろしている大きなキジトラ猫もいた。その猫も強制退去で連れて来られた猫だったが、誰も迎えに来なかったという。
「保健所もかわいそうだし、でも長く預かることもできないし、情が移っているし…」と言う担当者。代表は、「その子もうちで保護しますよ」と言った。
担当者によると、こうしたことはよくあるそうだ。当初は、「迎えに来ます!」と言っても、ほとんど迎えに来ることはない。毎回善意で預かっても、迎えに来なければ、最終的には保健所行きになってしまうという。
「もちろん全部保護してあげたいと思うけど、50匹や30匹も猫を残して行った人の現場では、ひたすら捕まえて保健所に連れて行くしかないんですよ。子猫ならボランティアさんが迎えに来てくれることもありますが、大人の猫は誰も引き受けてくれないので保健所しかないんです。」
■人も猫も命が繋がった
ねこけんに来た3匹の猫は、フレンドリーな豆子ちゃん、怖がりなあずきちゃん、そして誰も迎えに来なかった大きなキジトラ十兵衛と名付けられた。3匹とも飼い主が可愛がっていたので、人には懐いていた。
猫たちは初期処置も済ませ、暖かく安心で安全な保護猫生活を始めた。しかし、問題は男性だった。寒空の下、放り出すわけには行かない。
社会福祉士のメンバーを交えて何度か会議を重ねたが、すぐに入れるシェルターもなければ支援もない。代表は、「外に戻すわけには行かないよね。国がすぐに助けてくれないのなら、助けてもらえるまで何とかしないと。今はいられる場所を考えるしかない」と言った。さらに会議で話し合い、男性は、猫と一緒にシェルターで泊ってもらうことになった。シェルターでは風呂やトイレを使用できる。
「猫も人も命が繋がって良かったです。生きたくても、未来を作りたくても、幸せを描きたくても、それが出来ない命もあります。それでも前を向いて生きていくしかないのです。」
(まいどなニュース特約・渡辺 陽)