山ですれ違う人どうし「こんにちは」と挨拶するのはなぜ? 実は万国共通の習慣…“遭難防止”に意外な効果

登山や山歩きをしているとき、向こうからやってくる人とすれ違う際、お互いに「こんにちは」と挨拶を交わす習慣がある。これに敢えて「なぜ?」と疑問をもって、山岳雑誌の元編集者Kさんと公益社団法人日本山岳ガイド協会に尋ねた。

■山で挨拶を交わす習慣は海外でも

「日本以外でも山ですれ違うときは、例えば英語圏だったら『Hello』と挨拶しますし、ヨーロッパ圏でもそれぞれの言葉で挨拶を交わしますから、ほぼ万国共通の習慣なんだろうと思います」

そう語るのは、山岳雑誌の元編集者Kさん(65歳)。現在は登山関連の団体で、遭難対策や安全対策に携わっているそうだ。

山で挨拶を交わす習慣が日本でいつ頃から始まったのかは諸説あるが、Kさんの個人的な推測と前置きしたうえで、次のような話を聞いた。

「人と人が道で会ったときに、何かしら挨拶をしますよね。そういう文化が山にも入ってきたんだと思うんです。山の中に山賊とか追剥(おいはぎ)なんかがいて、山に入ることにある種の危険が伴っていた時代に、向こうから見知らぬ人が歩いて来たとき、言葉を交わすことでどんな人なのか知りたいという背景もあったのかなと」

逸早く相手の素性を探る、危機管理の側面があったのではないかと推測しているそうだ。

またKさんは、挨拶を交わすことでコミュニケーションが生まれ、遭難対策の一助になっているともいう。

「今の社会は、日常生活の中で知らない人どうしが言葉を交わす機会が少ない中で、登山者どうしなら話せることが気持ちいいし、貴重だと感じています。そこからコミュニケーションが生まれるし、見た感じ疲れてヘロヘロになっていたり、天候がよくないのに雨具を持っていなかったりすると『この先も大変だから、引き返したほうがいいですよ』と声をかけることもあります」

挨拶であると同時に、お互いの幸せのため注意しあう意味もあるという。

■旧制高校の学生から始まったとする説も

一方、日本山岳ガイド協会は、Kさんと同じく「推測です」と前置きしたうえで、もうひとつの説を教えてくれた。

明治20年代(1887年~)に、大阪にあった旧制第三高等学校(1889年に京都へ移転)旅行部の学生のあいだで、芦屋から六甲山を抜けて有馬温泉へ行く登山旅行が流行っていた。当時の服装は和服に草履が一般的で、旅の道中に同じような風体の仲間と思しき登山者とすれ違うときに「こんにちは」と声をかけ合っていたという。また日本語で声をかけるほか、お互いにインテリぶってドイツ語やフランス語で挨拶を交わし合ったとも伝わっている。

また、山での挨拶は「マナーとかそういうものではなく、人と人がすれ違ったら無視せず声をかけるのが万国共通の習慣」とのこと。

遭難対策の効果については、次のように話してくれた。

「私たちガイドは、歩き方が不確かだったり、想定される時間と違う時間にすれ違ったり、装備がどう見ても不安、天候が悪そうなときなどにあえて声がけをして、注意喚起または記憶にとどめます」

登山をする人は、コロナ前に比べると増えたという。挨拶も大事だが、それ以前に、自分でしっかりと安全対策をしてほしいと、Kさんも協会も口を揃える。

「新しく始めた人よりも、ベテランといわれる年配者のほうがじつは危ないのです。山頂まで登ったはいいけど、脚や膝がいうこときかなくなって下山できなくなってしまい、救助要請をする例があります。下山は脚の筋肉や膝関節に、大きな負担がかかるんです」(Kさん)

「まずは、どこへ行くにも登山届を出してくださいということにつきます。山岳安全対策ネットワーク協議会では、全国42の都道府県警察と連携し、登山届を提出する『コンパス』というアプリを普及しています。登山届は、家族、友達との共有ということで、是非、出すように心がけてください」(日本山岳ガイド協会)

山での「こんにちは」がいつどのようにして始まったかは諸説あるにせよ、お互いに挨拶を交わし合いながら、気持ちよく安全に山を楽しみたい。

(まいどなニュース特約・平藤 清刀)

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