「え?スナックのママに財産をあげたい?」遺産分割後に見つかった父の遺言書 「まさか不倫関係だったら…」衝撃の内容と対応策【行政書士が解説】

自身の死後に財産を「法定相続人以外に残したい」という場合には、遺言書にその意思を記述しておく必要があります。ただせっかく書いた遺言書も、相続人たちの目に留まらなければ思わぬトラブルを招く原因になってしまうこともあるようです。

50代男性のAさんは、半年前に亡くなった父親の遺産分割協議書を作成し終わり、ホッと胸をなでおろしていました。Aさんの父親は遺言書を残していなかったため、親族で協議をして相続内容を決定。大きな揉め事もなく進めることがその理由です。

そんな矢先、Aさんの母親から父親が残した遺言書を見つけたと連絡が入ります。正式に遺言書を開封すると、親族への相続以外に、父親がお世話になっていたというスナックのママに、遺贈(遺言による贈与)したいという内容が書かれていました。

せっかく遺産相続が完了したと思ったタイミングで、しかも母親にすら存在を知らされていなかったスナックのママに財産を渡すことに、Aさんは怒り心頭となりました。このように、すでに遺産分割協議を終えた後に発見された遺言書について、Aさんはどのように対応することになるのでしょうか。北摂パートナーズ行政書士事務所の松尾武将さんに話を聞きました。

ー遺言書が残されていなかった場合、どのように遺産分割されるのでしょうか

遺言書が残されていない場合、法定相続人同士で協議をおこない割合を決定します。法律上で定められた法定相続分の割合は存在しますが、これに必ず従う必要はなく、相続人同士が納得できる割合を決めて問題ありません。

ー遺産分割後に遺言書が出てきた場合はどうなりますか

基本的には遺言書通りに遺産分割協議をやり直すことになります。ただし、一定の条件を満たしていれば遺産分割をやり直さなくてもいい場合があります。それは遺言執行者が定められておらず、相続人以外に遺言によって贈与を受ける受遺者がいない場合です。

遺言執行者とは、民法1012条で「遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言執行に必要な一切の行為をする権限」が認められている存在で、遺言者本人が指定する方法と、死後に相続人が家庭裁判所に申し立てて選任される場合があります。遺言執行者は相続人と同一でも構いませんが、弁護士や司法書士などの第三者的立場の人が選ばれることも多いです。

さらに相続人以外に受遺者が記載されていなければ、遺産分割協議の対象となる登場人物に変更が生じないため、先に合意した協議内容に異議が無ければ、分割をやり直す必要はありません。

もし遺言書の内容が「世界の役に立つように使ってくれ」と抽象度の高い内容だった場合には、遺言書そのものが無効と判断される場合もあります。

ーAさんの場合はどうなりますか

まずスナックのママが遺言書通りに遺産を相続する意思があるのか、確認する必要があります。もしスナックのママが遺贈を放棄するというのであれば、遺産分割協議をやり直す必要はありません。

しかし、スナックのママが遺産を受け取るというのであれば、遺産分割をやり直して遺贈しなければなりません。ただ、この遺贈分が大きく、相続人の遺留分を侵害している場合には、相続人はこのスナックのママに遺留分侵害額請求することが可能です。なお、遺言執行者が指定されている遺言においては、遺言執行予定者、遺言執行者の意向確認も必要であると考えます。

またAさんの父親とスナックのママが不倫関係にある場合、その者への遺贈を記した遺言が民法90条「公序良俗違反」であり、無効となるかどうかも問題になりえます。

不倫相手への遺贈の法的な評価は、目的の合理性(不倫関係を継続維持することが目的の遺贈か)と手段の相当性(相続人の生活基盤を脅かす遺贈ではないか)の両面から公序良俗違反の有無を判断されます。

公序良俗違反とされた場合にはその遺贈は無効と判断され、結果的に遺産分割をやり直す必要はありません。この場合は相続人たちが遺言書の無効確認を求める訴訟を提起する必要があるでしょう。

従って今回のケースでいえば、スナックのママに財産を受け取る意思があるか、また、スナックのママとAさんの父親がどのような関係であったかで結論が変わってくると考えます。

◆松尾武将(まつお・たけまさ)/行政書士 前職の信託銀行員時代に1,000件以上の遺言・相続手続きを担当し、3,000件以上の相談に携わる。2022年に北摂パートナーズ事務所を開所し、相続手続き、遺言支援、ペットの相続問題に携わるとともに、同じ道を目指す行政書士の指導にも尽力している。

(まいどなニュース特約・八幡 康二)

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