コロナ後に増えている「6月病」…孤立した心を支える「訪問看護ステーション」の取り組みと、ケアの意義とは

4月に新しい生活が始まって何かと気苦労の多い時期を耐え、5月もなんとか踏ん張ったけど、もうムリ…。コロナ禍をきっかけに認識され始めた「6月病」。訪問看護ステーションへの相談件数は増える一方だという。大阪市東住吉区で精神科に特化した「訪問看護ステーションくるみ」を営む、中野誠子さんに聞く。

■精神疾患は脳で起こるから…決して「甘え」や「怠け病」なんかではない

4月は新入学や就職などで、環境が大きく変わるとき。人間関係も新しくなり、何かとストレスの多い時期だ。そんな日々を過ごして5月を迎え、精神的にしんどくなる「5月病」はよく知られている。ところが近年は、なんとか踏ん張って5月病にならなかった人が6月に不調を訴える「6月病」が現れているという。

「6月は長い連休がありません。5月のゴールデンウィーク明けから普段通りの生活に戻ったけれど、気持ちがついていかない。しかも6月は気圧の変化が激しい時季で、気分の浮き沈みに大きく影響します。この時期に気分を崩される方が多いです」

最悪の場合は、うつ病に進行してしまう恐れがあるという。

中野誠子さんは、そのような気分の落ち込みに悩む人はもちろん、家族にも寄り添う「こころ」の支援を行っている。

よく「気合が足りない」とか「甘え」と非難されがちだが、精神疾患は脳の病気だ。それに関連して、中野さんは「心」を書き表すとき、ひらがなで「こころ」と書くことにこだわる。

「心臓や血管も関係はしてるんですけど、漢字で『心』って書いてしまうと脳と関係なく思われて、それこそ精神論になるので、ひらがなで書くことにこだわっています」

■現在のケア対象は2歳半の幼児から94歳の高齢者まで

中野さんが営む「くるみ」では現在16人のスタッフで、大阪市内を中心に170人のケアを行っている。

精神疾患をもっていても、社会に出て働いている人は多い。自分が精神疾患をもっていることを職場の上司や同僚に伏せている人は珍しくないという。

パニック障害をもっている、ある相談者の事例をお伺いした。パニック障害とは、肉体的には病気がないのに、動悸、呼吸困難、めまいなどの発作が突然起こり、それを繰り返すため「また発作が出るのでは?」との不安から、外出に制限がかかってしまう病気だ。

その相談者は外で仕事をしているが、就寝前にパニック障害が起こって眠れないから朝起きるのが辛い。そのため、訪問看護を依頼してきたという。

「まず、敢えて朝に訪問します。看護師さんが訪ねて来るという状況をつくることで、起きるきっかけとなる場合があります」

ケアを行う際は「振り返り」も大事だという。

「たとえば、仕事が上手くいかなかった日、精神疾患をもっている人は『上手くいかなかったこと』だけが頭に強く残ります。そこに至るまでの経緯を話してもらうと、土日が連休だったので日中はずっと寝ていた。そのせいで月曜日は頭がクラクラしていて、仕事に支障が生じて上司に叱られたというのです。経緯を話すことで本人が気づくわけですね。自分の声で話して、それを自分の耳で聞いて、気づいてもらうことを大事にしています。私たち看護師は、相談者さんに何かするというより、ご本人自ら気づいて行動に起こせることを、後ろから支える立場といえます」

相談してくる人の多くは働いている世代だが、「くるみ」が現在ケアしている年齢層は2歳半から94歳までと幅広い。幼児や高齢者の場合は、家族支援も大事とのこと。

「ケアの対象になるご本人にアプローチするんだけれども、その人を支えている家族が倒れてしまったらご本人が生活できなくなるんです。周りの人たちが倒れないように、お母様にお話したり、家族の方とお話したりして、息抜きをしてもらう。誰かに話すだけでも、ずいぶん楽になりますから」

■コロナ禍で加速した精神的な孤立

「自分の様子がおかしいと気づいたときに、精神科でいろいろ検索して訪問看護というものがあることを発見して、ご自身で相談を申し込んで来られる若い方が多いです」

いわゆる「6月病」が増えた背景には、コロナ禍が大きく影響しているはずだと中野さんはいう。

「家に閉じこもって、他人と接触しない生活を余儀なくされました。新入社員の方は、入社してからほとんど出社することなく、上司や先輩と直接かかわらないままリモートで業務をしていました。コロナが下火になって、さあ出社だ、リアルで仕事だ、電話応対だとなって、しかも周りにはリアルに上司や先輩がいるし、いつの間にか後輩もできて『君たちが先輩として仕事を教えてやれ』となったときに、パンクしてしまうんですよね。社会人1年生のときに、会社のオフィスで業務を経験できなかった人たちが、今いちばんしんどいのかもしれません」

中野さんは今後、企業にアプローチして予防ケアにも取り組みたいという。大きな企業には保健師が常駐していることもあるが、上司に知られるかもしれない不安から、なかなか相談に訪れないのが現状だとか。そういったところに訪問看護師が入って、こころを病む前に解決を図りたいとのこと。

もうひとつは、精神科の訪問看護師を増やすため、精神科の訪問看護ができる看護師を養成する学校をつくって、人材育成にも力を入れたいそうだ。

精神科医やカウンセラーとは違う、訪問看護師が相談に乗るメリットを、中野さんは次のように話す。

「昨今、精神科や心療内科の先生方はどうしても限られた時間の中で診察をしなくてはならず、細かなケアが難しい状況があります。カウンセラーはじっくり悩みを聞いて、会話の中で解決の糸口を一緒に探してくれますが、医療的はケアが出来ません。我々、訪問看護師は、1回あたりの訪問時間は限られていますが、ご自宅へ通うことで生活の中での困りごとや、具体的にどうすればいいかを把握して、医師の指示のもと投薬管理など、医療的ケアも含めて見ることができます」

ただ、お互いに人どうしなので、相性が合わないことはあり得る。医師、カウンセラー、訪問看護師それぞれの特性を知り、その時々で自分に合ったケアを探してほしいという。

「くるみ」ではスタッフの勤務時間を上手く割り振って、24時間365日いつでも相談に応じられる体制をとっている。

料金は、かかりつけの医師が必要と認めた人は医療保険が適用されるほか、自立支援受給者証をもっている人や生活保護受給者の場合などで異なるため、詳細は「くるみ」のホームページで確認してほしい。

(まいどなニュース特約・平藤 清刀)

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