2024年問題も直撃!修学旅行の貸切バスが手配不能に…「バス運転手が減っていく未来」をデータは語る
今年5月、大手旅行会社の近畿日本ツーリストが、貸切バスを準備できず修学旅行の手配をキャンセルして話題になりました。この事件は、貸切バスの手配が難しくなっている現状を浮き彫りにしたものといえます。6月14日には日本バス協会の定例総会が開かれました。総会にて会長は「貸切バスの運転手は不足しており、修学旅行の時期を分散して欲しい」と言及しています。
貸切バスの手配が難しくなっている理由として、少子高齢化により、バス会社が運転手が確保できないのが原因と言われています。しかも2024年度からはバス運転手の勤務時間をより短くするよう規制が強まりました。渋滞などのトラブルで勤務時間がのびると代わりのドライバーが必要となり、さらに運転手の手配が難しくなります。このような問題は「2024年問題」と呼ばれています。
貸切バスに関する統計を見てみると、2015~2020年度の間に、運転手はおよそ1割減っています。今後もこの流れは続き、貸切バスの手配は厳しくなるようです。
■貸切バスの運転手数はコロナ前から減少傾向
貸切バスの運転手数は、コロナ禍前から減少し始めていました。日本バス協会が公表しているデータによると、貸切バスの運転手は、2015年度には4.93万人いました。ところが、2019年には4.77万人になり、新型コロナが広まり出した2020年度には4.43万人となっています。
ちなみに先日の報道では、修学旅行の貸切バスが手配できず話題になりました。バス運転手は減りつつありますが、少子化が進み修学旅行も減っている可能性もあります。バスが手配できるか否かは、バス運転手の数と修学旅行を実施する学校数とのバランスで決まるはずです。そこで、小・中学校1校あたりの貸切バスの運転手数も見てみましょう。この数値は、貸切バスの運転手の総数(日本バス協会、日本のバス事業)を、全国の小・中学校の総数(文部科学省、学校基本調査)で割ることで作っています。
この数値を2015年度と2020年度とで比べてみると、
・2015年度 運転手数49,348人÷学校数31,085校 = 1.59人/校(1校あたり平均)
・2020年度 運転手数44,340人÷学校数29,667校 = 1.49人/校(1校あたり平均)
となります。コロナ禍の前は、小・中学校1校あたり貸切バス運転手は1.59~1.60人で安定していました。しかしコロナ禍によってバス運転手は減り、1校あたり1.49人に減少しました。小さな変化に見えますが、わずか1年で7%ほど運転手が減ってしまった計算となります。
報道を見るに、コロナ禍で減ったバス運転手の数は回復していないようです。小・中学校の学校数以上にバス運転者の人数は落ち込んでおり、修学旅行や遠足などでバスを手配するのが難しい状況が続くでしょう。
では貸切バス運転手の数はなぜ大きく減っているのでしょうか。少子高齢化によるなり手不足、劣悪な労務環境、カスタマーハラスメント(カスハラ)などが原因とされていました。少子高齢化による労働人口の減少を防ぐのは難しいです。一方で労務環境の改善には、日本バス協会やそれぞれのバス会社が精力的に取り組んでいます。
改善の取り組み事例として、大型二種免許を取るための支援があげられます。大型バスを運転するには大型二種免許という特別な免許が必要ですが、取得には時間と費用がかかります。新入社員が給与を受け取りつつ、取得費用も負担してくれる養成制度を整えているバス会社が増えています。また、運転手の賃上げにも取り組んでいます。
さらに、カスハラ(カスタマーハラスメント)対策がバス会社にも義務付けられています。運転手の氏名を車内に掲示しない、バス会社が悪質なクレームをつける顧客へ毅然と対応するとアナウンスする、などの対策が取られています。2023年4月には、秋田県のバス会社から「お客様は神様ではありません」というメッセージが出され、社員を守る姿勢の表れとして話題になりました。
■「2024年問題」によって運転手不足はますます深刻に
2024年度より、バス運転手の健康を確保し事故を防ぐために、労働時間に関する規制が改められました。規制が変わることにより、バス運転手の勤務時間が1日単位、1ヶ月単位、1年単位でより短く制限されます。これが「2024年問題」を生み出すと言われています。
「2024年問題」の何が問題かを見るために、変更される規制を1つ具体的に紹介しましょう。2024年度から、勤務終了から翌日の勤務開始までを11時間(最低9時間)あけるよう規制が変更されています。以前は8時間あければよいルールでした。例えば、道路渋滞などにより到着が予定より数時間遅れてしまったとしましょう。その場合でも、勤務終了時刻から翌日の勤務開始までの休息時間はルール通り確保しなくてはなりません。その結果、翌日のバス運行に同じ運転手の出勤が間に合わない場合は、別の運転手を手配する必要があるのです。
事故を防ぐという観点からは、労働時間に関する規制を見直すのは重要です。ただしその分、運転手の勤務体制を万全に整えるのは難しくなります。そのため、運転手がさらに足りなくなり、貸切バスの手配はより難しくなるでしょう。限られた運転手で運行計画をどう進めていくか、バス会社は難しい舵取りに直面しています。
■運転手不足は貸切バスだけの問題ではない
ここまで見てきた通り、貸切バスの運転手不足は今後も続きそうです。なお今回は貸切バス業界の状況を見ましたが、乗合バス(路線バス)やタクシーなども運転手も大きく不足しています。広く経済を見渡すと、物流や運送などの業界でも同じ問題が生じています。
将来的には、自動運転技術やドローンなどの技術が導入されることで、運転手が足りない問題は解決されるようになるでしょう。しかし、これらの技術が日本中へ広まるには時間がかかります。それまでの間、公共交通や物流、運送にかかるコストを社会でどう分担しあうべきなのか、議論を進める必要があります。
◆新居 理有(あらい・りある)龍谷大学経済学部准教授 1982年生まれ。京都大学にて博士(経済学)を修得。2011年から複数の大学に勤め、2023年から現職。主な専門分野はマクロ経済学や財政政策。大学教員として経済学の研究・教育に携わる一方で、ライターとして経済分野を中心に記事を執筆している。