【天才すぎる!】23本のリコーダーで自作した「パイプオルガン」が大反響 驚異の発想とその製作過程…創作楽器を手がける音楽家に聞いた
6月15日のⅩに「リコーダーでパイプオルガンっぽいものを作りました!」とリコーダーを組み合わせて自作したパイプオルガンの動画が投稿され、話題になっている。閲覧数は本稿を執筆している時点で800万回近く。リコーダーでオルガンをつくるとは、まさに目から鱗が落ちるようなインパクトがあり、「すごい発想ですね」「天才すぎる!」といったコメントが続々と寄せられている。
このパイプオルガンの製作者で、日用品演奏ユニットkajiiとして名古屋を拠点に音楽活動を展開する創(そう)さんに話を伺った。
■オルガンのほかにも身近にある材料で約170点の楽器を製作
パイプオルガンはパイプ状のさまざまな笛に空気を送って音を出す楽器で、大型のものが多い。例えば宮崎県立芸術劇場のアイザックスターンホールにあるパイプオルガンは国内では最大級といわれ、高さ10.15m、幅13.5m、奥行き3.5mもある。一方で、片手で演奏できる小型のパイプオルガンも存在する。
大型・小型を問わず共通するのは、パイプ1本につきひとつの音しか出せないため、メロディを奏でるためには音階の異なる多くのパイプが必要ということ。
そのパイプの代わりにリコーダーを使う発想のヒントは、どこから得たのだろうか。
「じつは初めてつくったのではなくて、今までもつくっているんです」
自作楽器というテーマで音楽活動をしているという創さん。オルガンのほかに、身の周りにあるものを使って楽器をつくって演奏活動を行っているそうだ。
「ペットボトルやホースなどでつくった笛を同時に鳴らして、和音を出したいなと思ったんです。だったら口で吹くんじゃなくて、オルガン形式だと考えました」
前出のⅩに投稿されていたリコーダーパイプオルガンは、創さんが製作したオルガンでは7台目か8台目くらいになるという。
他にもポリバケツを利用した「バケツの大太鼓」や巨大なしゃもじでつくった弦楽器「しゃもせん」など、約170点の多種多様な創作楽器をつくってきたそうだ。
それらは販売目的で製作するのではなく、コンサート会場に展示して、会場を訪れたお客さんが実際に触って音を出して楽しんでもらえるようにしているとのこと。また、楽器のオーダーメイドは、基本的には受けていないという。
だが、リコーダーパイプオルガンは、カナダの音楽系YouTuberからのオーダーで制作したもの。たまたま創さんがそのYouTuberの動画をよく観ていたことから、「この人なら」と例外的に引き受けたのだそうだ。
ふだんは「こんな音を出したい」という想いが先にあって、考えに考え抜きながら製作するパターンが多いという。
■楽器の材料はホームセンターやAmazonで調達
完成したリコーダーパイプオルガンをよく見ると、リコーダー以外の材料は塩化ビニール管(塩ビ管)、バルブ、ホースといった身の回りでよく見かけるものばかり。ふだんの楽器づくりではホームセンターで調達するそうだが、今回はパーツが多いためAmazonやモノタロウで一気に購入したという。
塩ビ管は「切る」「繋ぐ」「曲げる」という工作が簡単で、しかもオルガンにとって大事な気密性も簡単に得られるそうだ。また、接着しなければ分解することもできる。
「使用したリコーダーは、アルト15本とソプラノ8本で、音域としてはG4~F6です」
これらの材料を創さんは、設計図を引かずに加工して組み上げていくという。
「塩ビ管の組み合わせは結構シンプルで、現物合わせでなんとかなるので、細かい設計図を引く必要がないのです。せいぜい、何をどこに繋ぐかをメモに書くぐらいです」
それでもやはり楽器なので、チューニングは丁寧に仕上げたそうだ。製作期間は3週間、時間にして70時間くらい。材料費は8万~9万円とのこと。
完成したリコーダーパイプオルガンは先日、無事にカナダへ到着したようだ。演奏している動画がYouTubeに投稿されていた。
「今までもオルガンをつくってたんですけど、今回は評判がいちばん良かったんです。その理由を自分なりに考えてみると、皆さんがよくご存じのリコーダーだったからでしょうね。これが別の、あまり見たことがない楽器だったら、反応は違ったと思っています。皆さんがご存じのもので工夫することが大事だったんだろうなと、今は思います。さらにいえば、パイプオルガンを知ってはいても、どういうものかを説明できる人は少ないでしょう。分かりにくいものを分かりやすく伝えることは、とても大事ですよね」
■オリジナル曲を2カ月に1度YouTubeで発表していく
創さんは今、自作のオリジナル曲を発表する「あの空によせて」というプロジェクトに取り組んでおり、その第1弾となる曲「狼」が現在YouTubeに投稿されている。聞きやすく飽きが来ない爽やかなメロディの曲だ。
「好きなように曲をつくって発表し多くの人に聞いてもらうことが、このプロジェクトのいちばんの目的です」
この「狼」も、これから2カ月に1度の予定で出す曲も、誰でも無料で聞けるという。
「音源をつくって稼ぐのはめちゃくちゃ難しいので、それは初めから考えていません。自作の曲を広めたいという想いだけです」
「狼」に続く第2弾も楽しみだ。そして何より、創作楽器を実際に触って音を出せるというコンサート会場に、一度は足を運んでみたい想いに駆られた。
(まいどなニュース特約・平藤 清刀)